研究課題/領域番号 |
23K23512
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補助金の研究課題番号 |
22H02245 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
樋口 裕次郎 九州大学, 農学研究院, 准教授 (50732765)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2024年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2023年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2022年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | 黄麹菌 / Aspergillus oryzae / 多核多細胞 / 有用物質生産 / mRNA / グルコアミラーゼ / チューブリン / mRNA動態 / MS2システム / アミラーゼ / 微小管 / アクチン / smFISH |
研究開始時の研究の概要 |
黄麹菌Aspergillus oryzaeは、古来日本において発酵醸造で用いられてきた糸状菌であり、高い安全性で有用な酵素タンパク質や二次代謝産物を菌体外に大量に分泌生産する。しかし、糸状菌としての特徴である多核多細胞の黄麹菌において、有用物質を時空間的にどのように生産制御しているのか、詳細な分子機構は未解明である。本研究では、黄麹菌における有用物質高生産性に関して、分子細胞生物学的な一層の理解を目指し、有用酵素や低分子化合物生産に関わる因子の転写および翻訳過程の詳細な時空間的分子制御機構の解明を行う。
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研究実績の概要 |
黄麹菌Aspergillus oryzaeは、古来日本において発酵醸造産業で用いられてきた糸状菌であり、高い安全性で有用な酵素等を菌体外に大量に分泌生産する。しかし、糸状菌としての特徴である多核多細胞の黄麹菌において、有用物質を時空間的にどのように生産制御しているのか、詳細な分子機構は未解明である。これまでに、黄麹菌が多量分泌生産する有用糖化酵素であるグルコアミラーゼGlaAのmRNAをMS2システムにて生細胞で可視化し、glaA mRNAが黄麹菌細胞内にて菌糸の部位特異的に発現・局在制御されていることを見出した。さらに、glaA mRNAの局在および動態を時空間制御する分子機構を明らかにしている。また、黄麹菌を米に生やして米麹とした固体培養特異的に発現することが知られているもう一つのグルコアミラーゼをコードするglaBについても、MS2システムを適用することで、生細胞においてmRNAを可視化することに成功した。さらに、分泌タンパク質であるグルコアミラーゼをコードするglaAとglaBに加えて、細胞質で機能する微小管細胞骨格を構成するチューブリンのmRNAやストレス時に小胞体内で機能するシャペロンタンパク質のmRNAについてもMS2システムを適用することで黄麹菌生細胞において可視化することに成功した。こうした一連の研究成果により、多核多細胞である黄麹菌における有用物質高生産性の時空間的な分子制御機構の一端を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多核多細胞である黄麹菌において、これまでにグルコアミラーゼglaAのmRNAをライブセルイメージングするために、MS2システムの導入に成功している。そして、glaA mRNAが黄麹菌細胞内にて菌糸の部位特異的に発現・局在制御されていることを見出した。さらに、glaA mRNAの局在および動態を時空間制御する分子機構を明らかにしている。また、黄麹菌におけるもうひとつのグルコアミラーゼ遺伝子であるglaBのmRNA可視化にも成功している。glaBはglaAと異なり、黄麹菌を穀類や豆類に生やした固体培養において特異的に発現することが知られており、実際にglaBのmRNAが固体培養特異的に発現することを確認した。 黄麹菌において、酵素が高分泌生産される際に、小胞体ストレスが誘導されていることが報告されてきた。そのため、小胞体ストレス時に発現誘導されるシャペロンタンパク質をコードするbipAについて解析対象としてMS2システムを導入した。そして実際に、小胞体ストレスを誘導するジチオスレイトール添加時にbipA mRNAの生細胞可視化に成功した。 分泌タンパク質以外に、細胞質で機能するβ-チューブリンをコードする遺伝子であるbtuAのmRNAを解析した。btuA遺伝子に対して、MS2システムによる黄麹菌生細胞におけるmRNA可視化とsingle-molecule fluorescence in situ hybridization (smFISH)による相補的な局在解析を行い、実際にMS2システムで観察されたbtuA mRNAの局在が確かであることを確認した。そして、btuA mRNAが微小管依存的な長距離動態を示し、細胞周期依存的に細胞内の存在量を制御している可能性を見出した。 上記のように、黄麹菌多核多細胞における有用物質高生産性に関連する分子機構の一端を明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
多核多細胞である黄麹菌において、MS2システムにより、これまでに生細胞解析が可能になったグルコアミラーゼをコードするglaAとglaBに対し、さらなる解析を行う。具体的には、黄麹菌を穀類や豆類に生やした固体培養において、実際にglaAとglaBのmRNAを生細胞解析することにより、未解明の固体培養における遺伝子発現に関わる分子制御機構について解析を行う。 黄麹菌において、酵素が高分泌生産される際に引き起こされる小胞体ストレスを可視化するために、小胞体局在シャペロンタンパク質をコードするbipA mRNAの生細胞解析を行う。実際に、ジチオスレイトールを含む小胞体ストレス条件において、mRNAとRNA結合タンパク質などで形成されるストレス顆粒やプロセシングボディとbipA mRNAの関係性について、黄麹菌の多核多細胞性に焦点を絞った解析を行う。 グルコアミラーゼは細胞外に分泌されるタンパク質であるため、細胞膜に分泌されるタンパク質である細胞壁合成酵素および細胞質で機能するチューブリンをコードする遺伝子のmRNAについてさらなる解析を行う。グルコアミラーゼをコードするglaAのmRNAについては細胞の部位特異的な核からの転写が確認されており、こうした時空間的な発現制御機構が他のmRNAにおいても存在するかどうか解析する。 上述の研究対象遺伝子に対して、翻訳過程を可視化するために、SunTagシステムを導入する。これにより、mRNAを改変型緑色蛍光タンパク質EGFPで、翻訳後の新生タンパク質を赤色蛍光タンパク質mCherryでラベルし、翻訳最中のmRNA分子を黄色蛍光にて生細胞可視化するSINAPSと呼ばれる解析系を構築する。こうした一連の解析により、多核多細胞である黄麹菌におけるmRNAから翻訳にいたるまでの有用物質高生産に関連する時空間分子制御機構についての新規知見を得る。
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