研究課題/領域番号 |
23K23514
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補助金の研究課題番号 |
22H02247 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
阿部 文快 青山学院大学, 理工学部, 教授 (30360746)
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研究分担者 |
三岡 哲生 青山学院大学, 理工学部, 助教 (60754538)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2025年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
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キーワード | 出芽酵母 / 高水圧 / メカノセンシング / TORC1 / TORC2 / CWI経路 / Wsc1 / アミノ酸センシング / TORC1-TORC2 / 高水圧ストレス適応 / Fps1 / グリセロール排出 / ストレス応答 |
研究開始時の研究の概要 |
TORC1は栄養源に応答し増殖を制御する重要なキナーゼである。一方、TORC2は細胞膜のテンションを検知するセンサーとして注目されている。我々は、高水圧が酵母TORC1を活性化すること、またTORC2の下流因子が高圧増殖に重要なことを発見した。そこで、アミノ酸センシングとメカノセンシングの観点から、両者が協調して応答する機構を解明する。また、細胞内の未知アミノ酸センサーの同定に取り組み、候補タンパク質とTORC1上流因子との結合能を解析し、その栄養源センサーとしての役割を検証する。さらに、TORC2の下流にあるYpk1に焦点を当て、高圧ストレス下でのスフィンゴ脂質合成の制御に関する研究を行う。
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研究実績の概要 |
生物は刻々と変化する外的環境―栄養状態、温度、pHや浸透圧など―を検知し、細胞内にシグナルを伝達する。圧力や重力といった力学的ストレスも細胞分化や筋肉の増強を促すが、それらのインプットを細胞内で処理するメカニズムの全容は未解明である。本研究では出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeをモデルとし、TORC1とTORC2が協調するメカノセンシング機構の解明を目指す。Cell Wall Integrity(CWI)経路は酵母のストレス応答に重要なMAPK経路であり、細胞膜上のWsc1がストレスセンサーとしての役割を演じる。我々は、25 MPa(水深2,500 m相当)の高水圧ストレスがCWI経路を活性化し、下流のMAPKであるSlt2のリン酸化を亢進することを見出した。その結果、アクアグリセロポリンFps1によるグリセロール排出が促進されることがわかった。FPS1の欠損株を高圧下で培養後、透過型電子顕微鏡で観察したところ、細胞壁が破断した細胞が確認された。高水圧下では細胞内に水が過剰に流入するため、酵母はグリセロールを排出して細胞内浸透圧を低下させ、高水圧適応を果たしているものと結論づけた。水の過剰流入は細胞膜の張力を増大させる。それに伴い、細胞膜の陥入構造であるeisosomeに局在するSlm1が、高圧下でTORC2に移行することも見出された。これらの成果を国際誌に発表した(Mochizuki et al. Mol. Biol. Cell 34, 2023)。 一方、我々は高水圧がTORC1を活性化することを報告している(Uemura et al. J. Cell Sci. 133, 2020)。免疫共沈降と質量分析を行い、TORC1シグナル伝達経路の上流のSEACAT複合体に結合するタンパク質の同定を行った。その結果、複数の候補タンパク質が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、Wsc1をストレスセンサーとしたメカノセンシング機構により、高水圧シグナルが細胞内に伝達することを明らかにした。特にFps1によるグリセロール排出の重要性から、酵母は「高水圧」と「低浸透圧」という質的に異なる環境ストレスに対し、CWI経路を介して応答していることがわかった。CWI経路は古くから知られているMAPK経路だが、高水圧適応でも用いられる点が興味深い。一方、TORC2は細胞膜の張力を検知するセンサーと考えられている。興味深いことに、その下流にあるYpk1キナーゼのリン酸化が、高水圧により亢進することもわかってきた。Ypk1はスフィンゴ脂質合成やアクチンフィラメントの形成に重要な役割を果たしており、現在、圧力によるYpk1リン酸化亢進のメカニズムについて解析を行っている。Wsc1を圧力センサーとしたメカノセンシングが、TORC2による膜張力の検知機構と協調する可能性が高いことが明らかとなったことから、進捗状況としては概ね順調であると評価した。
また、SEACAT複合体と相互作用するタンパク質を同定することで、TORC1を制御する未知の細胞内アミノ酸センサーの同定を試みている。現在のところ、質量分析で確認された複数の候補タンパク質をHA標識し、FLAG標識したSEACAT構成因子Seh1, Sea2, Sea3およびSea4との間で免疫共沈降とウエスタンブロッティングを行い、結合に関する再検証を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
Wsc1が圧力変化を検知する真のメカノセンサーであるならば、その分子に何らかの構造変化が見出されるはずである。Wsc1は多量体形成することで活性化すると考えられているが、我々が共焦点レーザー顕微鏡で観察した限り、高圧負荷の有無にかかわらずWsc1-GFPは常に多量体化していた。また、多量体形成しない変異型Wsc1-NPF>AAAも、正常に圧力シグナルを伝達することがわかっている。よって、これまでの報告とは異なるモードでWsc1が高水圧に応答している可能性が考えられる。Wsc1分子単独のダイナミックな構造変化を解析する方策の一つとして、分子動力学シミュレーションを検討している。さらに、期待されるWsc1の構造変化が、高水圧負荷による水の過剰流入とそれに伴う膜張力の増大が引き金になっているのか、あるいは高水圧が直接的にWsc1の構造に影響を及ぼすのかを明らかにしなければばらない。そこで、ソルビトールを添加し、水の流入を阻止した条件下で高水圧を負荷し、CWI経路の各プロセスを解析する。また、細胞膜上にはWsc1の他に、Wsc2, Wsc3, Mid2およびMtl1というストレスセンサーが存在する。そこで、これらの多重欠損株の構築と解析を通じて、Wsc1以外のセンサータンパク質の寄与を明らかにする。 これまで我々が主たる実験条件としてきた圧力は、25 MPa(約250気圧)前後であり、運動時にヒトの股関節にかかる最大圧力(約18 MPa)に近い。一方、コロニーの内部や植物の葉の表面で酵母が増殖するときには、細胞同士や基質への接触によりわずかな圧力を異方的に受ける。こうした極めて低い圧力下でCWI経路やTORC1, TORC2がどのような応答性を示すのかについても今後検討を行う予定である。
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