研究課題/領域番号 |
23K23574
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補助金の研究課題番号 |
22H02308 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39010:遺伝育種科学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山内 卓樹 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 准教授 (50726966)
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研究分担者 |
田中 佑 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 准教授 (50634474)
野下 浩司 九州大学, 理学研究院, 助教 (10758494)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2024年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2022年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
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キーワード | イネ / 根 / 通過細胞 / 光合成 / 画像解析 / 内皮 / スベリン |
研究開始時の研究の概要 |
国連の気候変動に関する政府間パネルでは干ばつと洪水が農業による食料供給を阻害する最も大きな要因であることを報告している. これらの 課題を解決するためには, 土壌の乾燥や冠水に対して高い耐性をもつ気候変動耐性型作物の開発が求められる. そこで本研究では, 世界人口の 約半数の主食であるイネの根を対象として, 高い乾燥耐性や冠水耐性をもつ作物を開発するための新しいアプローチを提案する. 具体的には, ゲノム解析と画像解析を利用して, 水の輸送効率に関連する通過細胞数を制御する遺伝子を同定する. その上で, 通過細胞数と光合成活性の関 連性や遺伝子の機能を解明し, 将来の育種への応用の足掛かりとする.
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研究実績の概要 |
国連の持続可能な開発目標では, 環境持続性や食料供給の課題が掲げられている.そこで本研究課題では, 土壌中から地上部への水の輸送を最適化することで, 作物の収量の増加や気候変動に対する耐性の強化を見据えた研究を展開する. 植物の根の表面から吸収された水は, 表皮と皮層を通り中心柱内部の道管に輸送された後, 道管を通して地上部へと運ばれ, 植物の成長を支える葉での光合成に利用される.皮層の最内層(内皮)には, スベリンなどの疎水性の物質が蓄積して水の輸送は阻害されるが, 内皮に点在するスベリンを蓄積しない通過細胞が選択的な水の輸送を担うと考えられる.これまでに, 多収水稲品種では標準品種と比べて通過細胞数が多く, 耐乾性の陸稲品種ではその数が少ないことがわかっているが, 内皮の通過細胞数を制御するメカニズムは未解明である. 本年度は, 標準水稲品種, 多収水稲品種, 通過細胞数を制御する遺伝子座を両親型でもつ染色体断片置換系統の光合成速度, 気孔コンダクタンスを測定した.その結果, 通過細胞数を制御する候補遺伝子座を多収品種型でもつ系統は標準品種と比べて高い光合成速度と気孔コンダクタンスを示し, 標準品種型の系統は多収品種と比べて高い光合成速度と気孔コンダクタンスを示した.一方, 根長や根数は候補遺伝子座と関連しないことから, 通過細胞数がイネの根における水の輸送に重要であることが示唆された.また, 染色体断片置換系統を戻し交雑して, 通過細胞数の評価をおこない, 候補遺伝子領域の確認と絞りこみをおこなった.これらと併行して, 標準水稲品種と耐乾性陸稲品種を交配したF3系統を自殖しQTL解析に用いる予定のF4世代の種子を得た.さらに, スベリン染色した根の横断切片からスベリン化した内皮細胞数を自動で抽出してカウントする画像処理法を概ね確立した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, 標準水稲品種コシヒカリ, 多収水稲品種タカナリ, 通過細胞数を制御する遺伝子座をそれぞれの両親型でもつ染色体断片置換系統SL1217およびSL1315の岡山大学の実験圃場でポット栽培し, LI-6800を用いて光合成速度, 気孔コンダクタンスを測定した.その結果, 通過細胞数を制御する候補遺伝子座をタカナリ型でもつ系統はコシヒカリと比べて高い光合成速度と気孔コンダクタンスを示し, コシヒカリ型でもつ系統はタカナリと比べて低い光合成速度と気孔コンダクタンスを示した.一方, 根長や根数は候補遺伝子座の遺伝子型や光合成関連形質とは関連しないことから, 通過細胞数がイネの根における水の輸送と高い光合成活性の維持に重要であることが示唆された.同様の結果は, 名古屋大学の温室におけるLI-600を利用した実験でも確認できた.また, 名古屋大学では染色体断片置換系統を戻し交雑して, 通過細胞数の評価をおこない, 候補遺伝子領域の絞り込みをおこなった.これらと併行して, 標準水稲品種と耐乾性陸稲品種を交配したF3集団96系統を自殖しF4集団の種子を得た.九州大学では, スベリン染色を施したイネの根の横断切片からYOLOXで中心柱部分を切り出し, U-Netによってスベリン化した内皮細胞の境界領域を抽出して細胞数を自動でカウントする画像処理法を確立した.以上のように, 研究代表者と分担者がそれぞれの研究計画を概ね順調に進めている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は, 標準品種コシヒカリを背景とした多収水稲品種タカナリの染色体断片置換系統を利用して, タカナリ型で通過細胞数を増加させる遺伝子領域が光合成速度や気孔コンダクタンスを高める効果があることを証明した.今後は, 染色体断片置換系統を戻し交配して候補遺伝子領域を狭めた系統を対象として, 岡山大学において光合成速度や気孔コンダクタンスを調査し, 通過細胞数を制御する遺伝子座との関係をさらに検証する.また, 植物体全体の通導抵抗の低下は確認できたが, 来年度は名古屋大学の機器を利用してプレッシャーチャンバー法を利用して, 根の通導抵抗を測定することで, 根における水の輸送に通過細胞数が関与することを証明したい.また, 現在候補として選定している遺伝子の機能破壊系統における表現型の解析と遺伝子発現部位の解析を実施し, 責任遺伝子の同定に繋げたい.また, 日本晴と耐乾性陸稲品種IRAT109のF4系統を利用してGRAS-Diによる遺伝子型の決定と通過細胞数の評価をおこない, 乾燥耐性のIRAT109において通過細胞数を減少させる遺伝子座とタカナリにおいて通過細胞数を増加させる遺伝子領域が一致するかを検証する.これらの通過細胞数の評価には, スベリン化した内皮細胞数を自動で抽出してカウントする画像処理法を実際に適用して進めたいと考えている.
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