研究課題/領域番号 |
23K23658
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補助金の研究課題番号 |
22H02393 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40010:森林科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
向井 裕美 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (70747766)
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研究分担者 |
松井 健二 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (90199729)
楠本 倫久 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (80537168)
小林 卓也 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 研究員 (10934242)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2026年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2025年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2024年度: 5,161千円 (直接経費: 3,970千円、間接経費: 1,191千円)
2023年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2022年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | 化学生態学 / 相互作用 / 菌類 / 生物防御 / 寄生蜂 / 化学生態 / 共生系 / 寄生バチ |
研究開始時の研究の概要 |
生物の化学コミュニケーションにおいて媒体として機能する情報化学物質の合成経路や獲得過程の解明により、生物間の相互作用及び生態系の構築メカニズムの解明が可能となる。申請者らは、腐朽菌と寄生バチ(菌食者の天敵)が複数の揮発性化学物質を介して共生関係を築いている事実を発見した。寄生バチ等高次捕食者が関与する化学シグナル依存型共生系は、それ以前に存在した生物間相互作用で機能する化学物質を基盤として段階的な進化が生じたと予想される。本課題では、森林生態系における菌類と寄生バチの共生系が菌食者に対する化学防衛を経て進化したとする独自の仮説を検証し、その共生系を支える情報化学物質の進化過程の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では「菌類―寄生バチ共生系の進化プロセスの解明」を目的とする。これまでに,シイタケ菌が菌食性ナガマドキノコバエ類の食害を受けると,天敵であるハエヒメバチ類を複数の揮発性化合物により誘引することが明らかになっている。本課題では,菌食者の食害に由来する揮発性化学物質群を“Fungivore Induced Fungal Volatiles:FIFVs”と新たに定義し,固有の機能を有する各化学シグナルが段階的に組み合わさり,情報化学物質として寄生バチを誘引するFIFVsが獲得されたと仮説を立て,これを検証する。 本年度は,(1)菌食性昆虫に対するFIFVsの影響を調べるため,各FIFVsの合成酵素遺伝子欠損株を作出し菌食性昆虫に提示して,行動や成長に対する影響を調べた。また,(2)シイタケハエヒメバチの同属近縁種について各FIFVsに対する感覚応答を調査した。以下,成果の詳細を示す。 (1)松井らが既に確立した手法に基づき,ウシグソヒトヨタケ菌糸のマツタケオール合成酵素遺伝子欠損株を作成し,ショウジョウバエ幼虫に対して通常株と遺伝子欠損株を提示し選択させた。その結果,ショウジョウバエ幼虫は通常株を選択し定位した。また,通常株と遺伝子欠損株をナガマドキノコバエ類の幼虫に提示したところ,遺伝子欠損株では摂食面積が減る傾向にあったが有意差はなかった。対象昆虫の菌食依存度によって影響が異なる可能性が示された。 (2)近年新たに見つかった近縁種Orthocentrus sp.について,GC-EADを使用して触角の電気生理学的応答を調べた。これまでにシイタケハエヒメバチで誘引活性が見られた菌類由来の主要化合物(マツタケオール,1-オクタノール,リナロール,カルベオール,カルビルアセテート)に対して,本種でも全ての物質に触角応答を示すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通りに実験を実施し,着実に成果を得た。さらに,計画にはなかったが,食害を受けた菌類が放出する匂いを詳細に解析した結果,増加する物質が存在する一方で顕著に減少する物質があり,それらは菌類の主要な化合物であるC8化合物(3-オクタノンや1-オクタノール等)であることがわかった。C8化合物は,多くの菌食性昆虫が食物である菌類に定位するための手がかりとして利用している可能性が報告されている。食害に応じて菌類がこれらの匂い物質の放出量を調整しているとするならば,菌類の生物間相互作用に重要な影響を与えている可能性が高く,菌類の化学情報物質の新たな側面の解明に繋がることが期待される。本現象の意義についても,今後調査を進める。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は,以下の推進方策に基づき課題を遂行する。 (1)同種菌類に対する防御誘導効果の検証:実際に食害を受けていないシイタケ菌が,食害により放出される5種のFIFVsに曝露されたときに,細胞内でのマツタケオール等の含有量や組成等を変化させ,誘導防御を発動するかを調査する。 (2)FIFVs欠損菌株による生態学的アッセイの実施:市販のシイタケ品種から選抜したFIFVs欠損菌株を野外やシイタケ栽培ハウス内に設置し,菌食者密度,食害程度,寄生者密度を評価して,FIFVsの生物間相互作用への影響を調査する。また松井らが確立した手法を応用して,培養シイタケ分生子に紫外線照射して変異誘導し,各FIFVs生成能欠損変異体を単離し変異体菌株の作出を試みる。 (3)腐朽菌―寄生バチ共生システムの探索とFIFVsの普遍性の検証:腐朽菌―寄生バチ共生システムの普遍性を探るため,研究期間を通して国内外の野外環境で調査を進める。 (4)食害により減少したC8化合物の菌食性昆虫に対する影響の調査:ナガマドキノコバエ類を対象として,C8化合物への誘引や産卵に対する影響を調べる。
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