研究課題/領域番号 |
23K23695
|
補助金の研究課題番号 |
22H02430 (2022-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
酒井 隆一 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (20265721)
|
研究分担者 |
高田 礼人 北海道大学, 人獣共通感染症国際共同研究所, 教授 (10292062)
田中 良和 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (20374225)
松井 崇 北里大学, 理学部, 講師 (30463582)
松本 健 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 専任研究員 (60222311)
八代田 陽子 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 副チームリーダー (60360658)
荒木 真理人 順天堂大学, 大学院医学研究科, 客員教授 (80613843)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2024年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2023年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2022年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
|
キーワード | タンパク毒素 / 抗ウイルス / 細胞内移行 / ドラッグデリバリー / 海洋天然物 / 毒素 / 小胞輸送 / エンドサイトーシス / トロンボポエチン受容体 / レクチン / シグナル伝達 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞やオルガネラといった生命の最小構成単位は,隔壁である生体膜を介した物理・化学的な相互作用を通じ,情報伝達や物質輸送を絶えず行う動的応答により「生きて」いる.したがって隔壁を超えて行われる動的応答は生命の本質といえる.本研究では生態膜を透過できない水溶性小分子化合物やタンパク質が生理活性を発揮するため,生体膜境界面および細胞内における細胞の動的応答を巧みに制御する機能を持つことに着目し、タンパク質から小分子まで多様な生理活性物質を見出してきた。本研究では細胞の動的応答を制御する海洋天然物を探索し,未解明の細胞の動的応答への理解を深める新しい化合物と新しいメカニズムを見出す.
|
研究実績の概要 |
抗ウイルス作用を指標として海綿よりHalistanol sulfate (HS)を得た。HSにはプロテアーゼ阻害作用が知られているが、それに加え、細胞内の脂質油症に関与し、膜コレステロールの蓄積を促進することを見いだし、HSは細胞の動的応答に関連する複数の経路で抗ウイルス作用を示すと示唆された。また、幅広い抗ウイルス作用を示す海綿より得られた化合物に翻訳阻害作用が確認され、特定の翻訳阻害機構が抗ウイルス作用につながることが示唆された。スナギンチャクより得られたKB343のターゲット解析では、小胞輸送に関与する複数のタンパク質が標的として見いだされた。KB343に抗ウイルス作用も確認され、KB343は、細胞に侵入した後、小胞輸送関連の応答を阻害することで活性を発揮している可能性が示唆された。KB343はアルギニン由来のC5N3ユニット3つで構成されるが今回、愛媛産のスナギンチャクより新規のC5N3ユニット4つで構成される化合物を見出した。この発見はスナギンチャクのC5N3生合成経路の解明する一助になるものと考えている。一方、ホヤから得られた神経活性成分メルパラジン・ドーパルジミン類の構造―活性相関を調べるとともに、抗ウイルス作用を探索したところメルパラジンCが弱い抗ウイルス作用を示した。また、サイトカイン受容体に作用する化合物の探索を進めたところ、海綿に含まれるポリカチオン化合物画分にTPO受容体活性化が確認された。一方、海綿には細胞内に侵入するタンパク質が存在するが、SORが得られた海綿より新規に細胞内侵入レクチン(SOR-L)を見出した。蛍光ラベル化SOR-Lは核に到達したがほとんど細胞毒性を示さなかった。同じく海綿のレクチンRASP-LのLC-MSを用いたアミノ酸配列解析を行い、最大20アミノ酸の内部配列を複数得ているが、既知のタンパク質との相同性は見られなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回、海綿からいくつかの抗ウイルス化合物を得てその機構解明を進めた。その結果HSやKB343が細胞の動的応答を阻害することで抗ウイルス活性を示している可能性が示唆された。また翻訳過程を阻害する化合物に強い抗ウイルス作用を見出しており、細胞の動的応答の一つである翻訳に着目した抗ウイルス薬の探索が可能であることが示された。また新規のレクチンSOR-Lが細胞内に侵入し核に到達するといった興味深い結果も得ている。これを受けてタンパク質合成阻害やSARS-CoV-2のMProの阻害を評価する簡易アッセイを開発し、スクリーニングを実施し、ヒット化合物をいくつか得ている。これらの進捗は予定通りであるが、分離・精製が遅れている。一方で海綿の細胞毒レクチンRASP-Lの配列解析はde novo配列解析による内部配列情報で得られた情報から3’-RACEを試みたが、遺伝子の増幅が確認できなかった。これは得られたcDNAもしくは内部配列の品質によるものと思われるので、条件を検討して解析を続けたい。またこれらのタンパク質の発現実験、結晶化とX-線立体構造解析も進める必要がある。またKB343の標的をさらに特定するためのラベル化を検討したが、ラベル化合物の安定性、反応効率の問題から成功していない。これらの課題は最終年度に向けて取り組む予定である。TPO受容体に強く作用する分画物を複数得ており、受容体の複雑な活性化機構の存在が示唆されたが、活性本体の単離に難航しており、活性成分の分離と構造決定を進める必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き新規化合物の探索を行う。本年度はこれまでの評価法に加え、SORやRASP-L等の細胞侵入・細胞毒タンパク質の活性を阻害する化合物、タンパク質合成阻害やSARS-CoV-2のMProの阻害を評価するアッセイを加え特徴的な化合物の探索を推進する。また進捗が遅れているRASP-Lの配列解析は、条件をさらに検討したうえでLC-MS解析を行い、より多くの内部アミノ酸配列を取得する。同様に新規レクチンSOR-Lの内部配列を調べると共に、沖縄県でSOR-Lを含む海綿を採集し、質の高い遺伝子を抽出することでRACE法による配列解析を行う。配列が得られた際は、大腸菌による発現を試みる。SOR-Lは予備的に核に侵入することが見出されているので、蛍光ラベル体を用いた顕微鏡観察をおこない再現性を確認する。 KB343の標的解析については、リンカーを付与した誘導体の作製を進めるほか、化合物アレイを用いた標的のスクリーニングも進めてゆきたい。抗ウイルス作用を指標にいくつかの化合物を得ている(特許申請準備中)が、特にタンパク質合成阻害作用を示す化合物を中心に抗ウイルス作用と翻訳過程に関するメカメカニズムを探りたい。また、トロンボポエチン受容体に作用する物質の探索と分離を進め、構造情報を得る。これまでの研究で海綿レクチンThCがTPO受容体を活性化することが見出されているが、今回海綿の非タンパク質性のポリカチオン化合物画分に同様の作用が観察された。本年度は分画を進め、活性成分の特定を図るほかその機構を解明するために、細胞内のシグナリング、天然リガンドのTPO、ThCそして低分子アゴニストエルトロンボパグとの相互作用等を調べる。さらにサイトカイン受容体を活性化する天然物の探索を進める。
|