研究課題/領域番号 |
23K23696
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補助金の研究課題番号 |
22H02431 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井尻 成保 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (90425421)
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研究分担者 |
木村 敦 北海道大学, 理学研究院, 教授 (90422005)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2025年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | ウナギ / チョウザメ / アロマターゼ / 20β-HSD / ステロイド代謝酵素 / ティラピア / サクラマス / 卵巣分化 / ステロイド合成 / 卵成長 / 卵成熟 / 転写調節 / 魚類 |
研究開始時の研究の概要 |
魚類の性分化、卵成長、卵成熟制御の理解は、水産重要魚種の性統御技術、人為催熟技術を確立する上で基盤となる知識である。これら全過程は、生殖腺のステロイド産生の代謝経路転換と産生量の変化によって制御されている。本研究では、それら過程の鍵となるステロイド代謝酵素の発現変動を転写調節から明らかにする。主に下垂体ホルモンが支配する性ステロイド産生の分子調節機構が卵母細胞の発達を制御するメカニズムを、チョウザメからウナギ、サケ科、ティラピアに至る条鰭類全体を網羅して調べることで、魚類進化を通したステロイド産生分子制御機構の普遍性と種の分岐を通した特異性を明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究は、条鰭類全体の卵巣分化・発達を通したステロイドホルモン合成系の変化を、その代謝酵素の転写調節の面から明らかにする。卵黄形成時にはエストロゲンであるE2が、卵成熟時には卵成熟誘起ステロイドであるDHPが主に産生され、このE2からDHPへの産生転換は劇的に生じる。本研究ではその転写調節をFSHとLHの作用に焦点を当てて調べる。 E2産生を制御する律速酵素、アロマターゼをコードするcyp19a1遺伝子については、ティラピア、ウナギともにfoxl2、sf1の存在下でFSH刺激により最も高い転写活性が誘導されることが示された。ウナギについては、foxl2の働きを抑制する機構の存在が示唆された。 DHP産生の律速酵素である20β-HSDをコードするhsd17b12L遺伝子について、ウナギではこの遺伝子発現変化がDHP産生の調節要因ではないと結論された。チョウザメ、サクラマスではLHによる転写活性化は直接的ではなかったことから、他の因子の介在が考えられた。hsd17b12Lの転写を誘導する因子についてはサクラマスにおいて探索している。 ウナギではhsd17b12Lの転写活性化がDHP産生の制御要因ではないことから、その前駆体である17OHP産生機構に焦点を当てて調べ、プロゲステロンをアンドロステンジオンに代謝するcyp17a1の発現消失によって17OHPが産生されるということを強く示唆している。Cyp17a1遺伝子の発現を抑制する因子の存在が考えられ、その因子の同定を進めている。 以上の結果は、ステロイド代謝酵素はLH、FSHによる単純な発現調節ではなく、様々な転写因子が関わる複雑な調節機構であり、それぞれの酵素にそれぞれ異なった転写調節因子が関わっていることを示している。その機構はcyp19を除いてほとんど解っておらず、これを解明する意義は大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)これまでに、哺乳類細胞を用いてティラピアFSH、ウナギFSH、昆虫細胞を用いてアムールチョウザメFSH、LHを作製し、ゲルろ過クロマトグラフィーで高度に精製した。 (2)ウナギ、チョウザメのcyp19a1:ウナギcyp19a1遺伝子プロモーター解析ではsf1、foxl2a、FSHシグナルによる高い転写活性化はfoxl2b、foxl3の存在下で抑制された。このことから、分化中精巣で優勢的に発現するfoxl2b、foxl3がfoxl2aの働きを競合阻害することで卵巣分化を抑制する機構の存在が示唆された。ダウリアチョウザメからは5種のcyp19a1 cDNAパラログをフルクローニングした。5種のcyp19a1には2種の異なる5’UTRが存在し、それらが脳、下垂体、卵巣特異的な発現様式をひき起こすことが示唆された。 (3)サクラマス、ウナギhsd17b12L:DHP産生を直接制御するサクラマスhsd17b12L遺伝子の転写活性化に関わる因子を複数選抜し、そのうち卵成熟時の顆粒膜細胞で特異的に発現上昇する遺伝子を5因子に絞り込んだ。ウナギhsd17b12Lは卵成熟前後で発現上昇は見られず、生体内全組織において常に高く発現していることから、ウナギにおけるDHP産生はその前駆体17OHP産生によって制御されていることは確実であると結論した。 (4)ウナギcyp17:卵成熟直前の卵濾胞を組換えLH添加のもと培養し、cyp17a1発現が消失する培養サンプルを得ることに成功した。昨年度獲得した高濃度サケ下垂体注射によってcyp17a1発現が消失したin vivoの卵巣サンプルとともにRNA-seq解析を行った。現在このデータからcyp17a1発現消失に関わる因子を探索している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)cyp19a1遺伝子の転写調節;本年度以降は、チョウザメ類におけるcyp19a1発現調節を調べる。ダウリアチョウザメには8種のcyp19a1遺伝子パラログが存在すると考えられ、これまで5種のcDNAをフルクローニングした。これら全ての酵素活性を測定するとともに、それぞれの組織特異的、卵巣発達に伴う発現変化を明らかにする。どのパラログが卵黄形成促進に主に寄与するのかを明らかにする。また、卵巣型、脳型プロモーターの活性化解析によって、それぞれの組織における発現調節機構を明らかにする。 (2)hsd17b12L遺伝子の転写調節;これまで、サクラマスのhsd17b12L遺伝子の発現にはLH刺激のみではなく未知の調節因子が介在していることを示唆した。昨年度まで5因子をその候補として絞り込んでおり、今年度はそれら因子が実際にプロモーター活性化に関わるかどうかをレポーターアッセイによって調べる。また、排卵後の卵濾胞細胞を用いてhsd17b12L遺伝子の5’上流領域のメチレーション状況を調べ、排卵後の遺伝子発現抑止機構が存在するのかどうかを明らかにする。 (3)cyp17a1、cyp17a2遺伝子の転写調節;DHPの前駆体である17OHP産生はcyp17a1、cyp17a2が担っており、両遺伝子の発現のバランスによって、アンドロステンジオンか17OHPかどちらが産生されるのかが決まる。昨年度、卵黄形成完了後のウナギ卵濾胞培養において、組換えLHの刺激によってcyp17a1の発現が完全に抑制されたサンプルを得ることに成功しRNA-seq解析を進めている。このデータからcyp17a1発現が完全に抑制された卵濾胞細胞において、顕著に発現上昇する因子を選抜し、プロモーターアッセイによってcyp17a1遺伝子発現を抑制する因子を同定し、LH刺激によって転写活性が抑止される機構を調べる。
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