研究課題/領域番号 |
23K23698
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補助金の研究課題番号 |
22H02433 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
壁谷 尚樹 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (90758731)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
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キーワード | カイアシ / 多価不飽和脂肪酸 / 一次生産 / DHA / 生合成 / 不飽和化酵素 / 鎖長延長酵素 / 動物プランクトン / 小型甲殻類 |
研究開始時の研究の概要 |
生理学的に重要なドコサヘキサエン酸(DHA)などの脂肪酸は、そのほぼ全てが海洋由来である。イワシやサバなどの海産魚は、微細藻類等によって一次生産されたDHAを食物連鎖を介して蓄積している。このことは海洋生態系においてDHAを自ら生産可能な生物の重要性を示している。本研究は、海洋生態系に大量に存在する小型の甲殻類であるカイアシ類を対象とし、その生態系へのDHAの供給能力を解明することを目的とする。
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研究実績の概要 |
本年度は,東京海洋大学館山ステーション付近に加えて,日本各地(北部および熱帯域)に生息する種々のカイアシ類をプランクトンネット等を用いてサンプリングしソーティングした.その後,数種の培養に成功したため,主にハルパクチクス目およびキクロプス目に属する種を対象としてRNAシーケンスを実施し,得られたデータから高精度トランスクリプトームアセンブリを作成した.作成したアセンブリから多価不飽和脂肪酸(PUFA)の生合成に関わるωx不飽和化酵素,Front-end不飽和化酵素,鎖長延長酵素遺伝子様配列を相同性検索によって網羅的に単離した.続いて,得られた各種酵素遺伝子様配列を出芽酵母内で異所的に発現させることで,その機能解析を行なった.その結果,対象種のうち数種が,単価不飽和脂肪酸(MUFA)からPUFAであるリノール酸やα-リノレン酸の生合成を可能にするωx不飽和化酵素を保持することが明らかになった.さらに種によってはリノール酸からアラキドン酸,α-リノレン酸からエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)の生合成を可能にする複数のFront-end不飽和化酵素および鎖長延長酵素が見出された.一方,これら酵素遺伝子の数や基質特異性は種レベルで異なっており,カイアシ類のPUFA生合成能は高度に多様化しているものと考えられた.さらに,PUFA生合成能の高い種において,EPAやDHAを一切含まない餌料を用いた長期培養試験を実施し,良好な増殖および,当該種は一定のEPAやDHA含量を常に保ち続けることを確認した.以上の結果より,申請者がこれまでに発見したTigriopus californicus以外にも,PUFA生合成能に優れるカイアシ種がいることが判明した.今後は,これら種の生態系でのPUFA生産者としての役割を解明することを目指して研究を展開する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初目的では,カラヌス目,キクロプス目,ハルパクチクス目それぞれの目から5種ずつ程度トランスクリプトームアセンブリを作成する予定であったが,本年度の研究だけでその数のアセンブリを作成することはできなかった.一方で,上記3目以外でポリアルスラ目に属する種のRNAシーケンスを実施中であり,この点においては当初予定よりも発展している.今後は,特にカラヌス目に関してアセンブリ作成を強化していく必要があるものの,おおむね順調に進展していると判断した.また,酵素遺伝子の活性解析も順調に進んでおり,特に熱帯性ハルパクチクス目の1種が多彩な酵素遺伝子を有していることを発見した.上記のポリアルスラ目の解析は現在進行中であるものの今後興味深い結果が得られるものと考えられる.また,カイアシの飼育に関しては,新たに2種のカイアシの安定培養を可能にし,各種脂肪酸組成を有する微細藻類を用いた飼育試験も実施した.単離した各種控訴遺伝子の発現解析用プライマー等をデザインし,上記飼育試験後の各種遺伝子の発現解析も可能になっている.このように,研究全体としては当初の計画以上とまでは言えないもののおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き,各種カイアシ類のサンプリング,ソーティングを続け,RNAシーケンスを実施することで,高精度のトランスクリプトームを作成し,各種が有する多価不飽和脂肪酸(PUFA)生合成酵素遺伝子の網羅的単離および機能解析を進める.また,安定的な飼育が可能となった種に関しては,PUFAを一切含まない餌料(酵母など)や,様々な脂肪酸組成を有する各種微細藻類等を利用した給餌試験を実施し,当該種がどの程度のPUFA生産能を有するか明らかにしていく.一方で,飼育実験では,実際の生息域における状況を反映するとは限らないので,天然生息域における当該種の餌料の脂肪酸組成を明らかにするため,生息域のセストンのサンプリングを行い,その脂肪酸分析を実施する.これにより,生息域における餌中のPUFA量が明らかとなるため,その情報を参考にした飼育実験が可能となることが期待される.また,高次消費者に対するカイアシ類のPUFA供給力を解析するため,カイアシ類の消費者として小型の魚類を用いた飼育実験も実施予定である.
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