研究課題/領域番号 |
23K23758
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補助金の研究課題番号 |
22H02493 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42010:動物生産科学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
米山 裕 東北大学, 農学研究科, 教授 (10220774)
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研究分担者 |
戸部 隆太 東北大学, 農学研究科, 准教授 (00758823)
伊藤 幸博 東北大学, 農学研究科, 准教授 (70280576)
榎本 賢 東北大学, 農学研究科, 教授 (90546342)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2024年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
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キーワード | 抗菌ペプチド / 抗菌タンパク質 / 黄色ブドウ球菌 / 細菌感染症 / 抗生物質耐性 / 抗生物質 / 薬剤耐性菌 / 家畜感染症 / 乳房炎 |
研究開始時の研究の概要 |
家畜の最難治疾病の一つであるウシ乳房炎は罹患しやすく極めて治りにくいためその経済的損失は甚大である。乳房炎の治療法として抗生物質が使われているが、それが選択圧となり薬剤耐性菌出現の温床となりうることから公衆衛生上の問題となっている。そこで、畜産生産現場での抗生物質使用量の低減化に資する家畜感染症の新規防除戦略の開発を目指し、乳房炎起因菌として重要な黄色ブドウ球菌に特異的結合能をもつペプチドを利用したミサイル療法の確立に向けた基盤研究と、植物を宿主とした抗菌タンパク質・抗菌ペプチドの極めて安価な生産法の確立を目指す。
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研究実績の概要 |
家畜生産現場で頻発する牛乳房炎は罹患しやすく極めて治りにくい疾病のため世界的に家畜の最難治疾病の一つとされ、その経済的損失は甚大である。乳房炎の治療法として抗生物質投与が一般的であるが、起因菌の中でも黄色ブドウ球菌は抗生物質投与によって一旦治癒しても再発を繰り返し根治することが困難である。一方、近代の集約的家畜生産システムは治療とは別に飼料に低濃度添加する抗生物質に依存しており、それが選択圧として作用し薬剤耐性菌出現の温床となりうることから公衆衛生上大きな問題となっている。このような背景から家畜生産現場で使用する抗生物質の減量化は社会的要請であり、畜産業界の健全かつ持続的発展のために解決すべき喫緊の課題である。そこで、本研究課題では黄色ブドウ球菌に強い抗菌活性を有し、かつ一般的な抗生物質と比べ耐性菌の出現頻度が低いことが期待される抗菌タンパク質と抗菌ペプチドに注目し、家畜感染症の新規防除戦略の構築に資する基盤研究を行い、以下の結果を得た。 1)ドラッグデリバリー担体として注目したリゾスタフィンのC末端領域、そして、基盤研究B(19H03101)で選抜した黄色ブドウ球菌に特異性を有するドデカペプチドを、マダニ抗菌ペプチドpersulcatusin (IP)のN末端とC末端に融合したキメラ遺伝子を設計し大腸菌での発現ベクターを構築した。 2) 挑戦的研究(萌芽)(19K22357)において大腸菌での発現と活性の検証に成功したキメラIPのイネ発現型遺伝子を設計し、イネに形質転換して複数の系統を得た。 3) 基盤研究B(19H03101)で選抜したドデカペプチドの合成に成功した。 4) IPの抗菌作用メカニズムを解明する第一歩として、黄色ブドウ球菌の非必須遺伝をそれぞれ1遺伝子欠損したNebraska欠損ライブラリーを用いたIP高感受性株のスクリーニング系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
家畜の最難治疾病の一つであるウシ乳房炎による経済的損失は甚大である。乳房炎治療のため抗生物質が使われるが、それ以外に多量の抗生物質が飼料添加されておりそれが原因で出現する薬剤耐性菌が公衆衛生上問題となっている。このような背景から家畜生産現場で使用する抗生物質の減量化は社会的要請であり、畜産業界の健全かつ持続的発展のために解決すべき喫緊の課題である。乳房炎起因菌として重要な黄色ブドウ球菌に特異的結合能をもつドデカペプチドと、本菌に特異的殺菌能をもつリゾスタフィンの細胞壁結合ドメインを新規ドラッグデリバリー担体として利用したミサイル療法のツール開発を目指した本研究の進捗状況は以下のとおりである。 1)リゾスタフィンのC末端側93アミノ酸からなる細胞壁結合ドメインと、マダニ抗菌ペプチドpersulcatusin (IP)のN末端またはC末端が融合した人工合成遺伝子の大腸菌を宿主とする高発現系の構築に成功し、タンパク質発現を検証済みである。 2)これまでの研究でIPとマウスのカルモデュリンを融合させたキメラタンパク質の大腸菌での生産と、その分離精製標品が抗菌活性を有することを明らかとした。次にイネに適応したこの発現型キメラ遺伝子を設計しイネに形質転換した結果、複数の形質転換イネ系統の取得に成功した。 3)抗生物質に代わる新たなミサイル療法のツール開発を目指し、ランダムな12アミノ酸残基からなるファージライブラリーを用いて黄色ブドウ球菌に対する特異的結合能をもつドデカペプチドのスクリーニングを行い、ウシ乳房炎由来株SA5に対する結合能をもつ候補ドデカペプチドを選抜しその化学合成法を確立した。 4)IPを畜産現場で応用するためにはその作用機構に関する情報が必要である。その第一歩として、黄色ブドウ球菌の非必須遺伝を欠損したNebraska欠損ライブラリーを用いたスクリーニング系を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、家畜生産現場で経済的損失の主な要因である細菌感染症、その中でも多剤耐性菌として問題となっている黄色ブドウ球菌をターゲットとした新規防除戦略の開発を目指しており、多剤耐性黄色ブドウ球菌に強い抗菌活性を有するマダニ由来抗菌ペプチド(Persulcatusin, IP)と抗菌タンパク質(Lysostaphin, Lys)に着目し、それらを応用した新規防除戦略開発の基盤となる基礎微生物学的研究を推進している。畜産現場で応用するためには抗菌資材が安価に製造できなくてはならない。そのためにこれまでの研究で、イネを宿主としたこれらの抗菌因子の生産システムの構築を進めてきた。これまでの研究成果を受け、本年度は以下の研究項目に焦点を当てた研究を実施する 1) イネを宿主としたLysの生産性の向上を検討するために、これまでの研究で同定したイネの分泌型プロテアーゼを欠損したイネ変異株を宿主として用い、この変異イネにLysのキメラ遺伝子を導入したイネを作出しLysの生産性を評価する。 2)イネを宿主としたLysの発現系の成功事例を参考にし、多剤耐性黄色ブドウ球菌に抗菌活性を有するIPに加え、リンパ球遊走活性と抗菌活性を併せ持つ興味深いケモカインであるウシのCCL28(bCCL28)のイネ発現型遺伝子を構築し、それらをイネに導入してIP発現イネとbCCL28発現イネの作出を行う。そして、それぞれの組換えイネの培養カルスにおけるIPとbCCL28のタンパク質レベルでの発現を評価する。 3)多剤耐性菌に対する抗菌活性に加え、耐性菌出現頻度が一般的な抗生物質に比べ低いことを特徴とするIPを畜産現場で応用する際に必要となるIPの作用メカニズムに関する基礎微生物学的な研究を行う。具体的には、IPの主要なターゲットである細胞膜に対する作用を、脂溶性の蛍光色素をプローブとして用い詳細な検討を行う。
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