研究課題/領域番号 |
23K23778
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補助金の研究課題番号 |
22H02513 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富安 博隆 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (70776111)
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研究分担者 |
角田 茂 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (80345032)
越野 裕子 (後藤裕子) 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (80436518)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,640千円 (直接経費: 12,800千円、間接経費: 3,840千円)
2025年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2024年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2022年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
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キーワード | 不均一性 / 化学療法耐性 / 抗腫瘍免疫 / 腫瘍微小環境 / 免疫細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
化学療法は悪性腫瘍に対する重要な治療法であるが、抗がん剤に対する耐性がその治療効果に限界をもたらす。応募者は、腫瘍細胞と周囲の微小環境に存在する免疫細胞の間の相互作用における変化が化学療法耐性に関与している可能性を見出した。また、この周囲微小環境に存在する免疫細胞の形態や遺伝子発現パターンは腫瘍組織内での空間的位置によって変化することも報告され始めている。そこで本応究では、腫瘍細胞と免疫細胞の相互作用の多様性を「化学療法に対する感受性の違い」と「腫瘍組織内での空間的位置の違い」の二つの軸から解析することにより、化学療法耐性獲得の分子機構の解明およびその克服のための新規治療法の開発に挑む。
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研究実績の概要 |
本研究では、腫瘍組織内の腫瘍細胞および免疫細胞の不均一性に着目しながらこれらの細胞の間での相互作用を化学療法感受性の腫瘍組織と化学療法耐性の腫瘍組織を用いて解析することで、腫瘍細胞が持つ抗腫瘍免疫逃避機構が化学療法耐性獲得へ関与することを示すことを目的としている。 昨年度は、まずはPhoto Isolation Chemistry(PIC)技術を用いた腫瘍組織における部位特異的遺伝子発現解析を実施するために、リンパ系腫瘍罹患犬の検体収集を開始するとともにこの解析のための条件検討を開始した。 続いて、犬の腫瘍細胞株を用いた担がんマウスモデルを確立することに昨年度成功し、現在抗がん剤感受性の組織と化学療法実施後抗がん剤耐性となった組織の収集を開始している。 昨年度の成果としては、まず健康犬およびリンパ系腫瘍罹患犬から収集した末梢血液およびリンパ節生検材料を用いてフローサイトメトリーによるリンパ球サブセットの評価を行った。その結果、化学療法耐性期にあるリンパ系腫瘍罹患犬では、末梢血液中のCD8+リンパ球の割合が上昇しているもののリンパ節(腫瘍組織)中ではその割合が低下している可能性が示された。今後もこの解析は継続することとしており、さらに後述するように収集を継続している腫瘍組織に対して病理組織学的探索を行う予定としている。 また、犬のリンパ腫症例のうち、特に初期寛解導入化学療法によって長期寛解を得る症例と早期に再発を呈する症例との間での腫瘍組織中の遺伝子発現プロファイルを比較し、両群間では腫瘍組織中におけるCCL4といったケモカインやT-cell signalingに関わる遺伝子の発現量が有意に異なることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、まず一つ目の成果として、化学療法耐性期にあるリンパ系腫瘍罹患犬では、末梢血液中のCD8+リンパ球の割合が上昇しているもののリンパ節(腫瘍組織)中ではその割合が低下している可能性が示された。この結果は、化学療法耐性期には何らかの機構でCD8+細胞傷害性リンパ球が腫瘍組織中へ移動・侵入することが阻害されている可能性を示しており、大変興味深いものである。 次に、犬リンパ腫のうち化学療法実施後の早期再発症例、つまり化学療法耐性早期獲得症例においては長期寛解症例と比較して腫瘍組織中の免疫細胞-腫瘍細胞間の相互作用に関わる遺伝子の発現が異なることを示す事ができた。これは本研究の根幹をなす仮説を改めて支持する結果であり、現在学術論文として投稿している段階である。 一方で、当初予定していたPIC技術を用いた腫瘍組織における部位特異的遺伝子発現解析に関しては、その条件検討に対して当初の予定より大幅に時間がかかっている。この点に関しては後述するような対応策を講じる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き本年度も、リンパ系腫瘍に罹患した犬からの検体収集・解析を継続するとともに昨年度に確立した担がんマウスモデルから採取した抗がん剤感受性/耐性腫瘍組織の収集およびその解析に着手することを計画している。 具体的には、以下の解析を継続する予定としている。 ・健康犬と腫瘍罹患犬から収集した末梢血液および腫瘍組織検体を用いて、フローサイトメトリーによってリンパ球の各サブセットの絶対数や全リンパ球中に占める割合における変化を捉える。 ・腫瘍罹患犬から採取した腫瘍組織を用いて、免疫組織化学染色によってリンパ球の各サブセットを同定する。加えてCD163やCD204といった表面抗原の発現によってマクロファージをM1型およびM2型という二つの活性型に区別し評価する。また、各表現型の免疫細胞の数、割合および腫瘍組織内での分布を、正常リンパ組織および化学療法感受性期と耐性期のそれぞれの腫瘍組織の間で比較する。 また、当初予定していたPIC技術を用いた部位特異的遺伝子発現解析に関しては、引き続きその条件検討を継続するが、この解析が困難となる可能性も考慮する必要があると考えている。そのため、今年度はこのPIC解析の代わりにsingle cell RNA-seqを用いる事で腫瘍組織の部位別に各細胞の遺伝子発現プロファイルを解析することも検討している。
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