研究課題/領域番号 |
23K23816
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補助金の研究課題番号 |
22H02552 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43010:分子生物学関連
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(機構直轄研究施設) |
研究代表者 |
椎名 伸之 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(機構直轄研究施設), 生命創成探究センター, 准教授 (30332175)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2024年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2023年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2022年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
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キーワード | RNA顆粒 / 液-液相分離 / 局所的翻訳 / 長期記憶 / 神経変性疾患 / 局所翻訳 / FUS / TDP-43 / RNG105 |
研究開始時の研究の概要 |
長期記憶の形成には、神経活動に依存した新規翻訳が必要であり、その制御異常は認知症などの神経変性疾患と深く関係する。本研究では、この新規翻訳を担う「RNA顆粒」の液-液相分離制御が、局所的翻訳をどのように制御し、長期記憶や神経変性疾患に関与するかを明らかにする。具体的には、遺伝子変異や老化がRNA顆粒の流動性および局所的翻訳に与える影響をライブイメージングによって観察し、それに伴う新規翻訳やシナプス可塑性、さらには学習・記憶への影響をマウスで解析する。これらの解析によって、RNA顆粒の流動性平衡を支える分子基盤を明らかにすると同時に、流動性平衡と認知機能及び疾患との関連を明確にすることを目指す。
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研究実績の概要 |
長期記憶の形成には、RNA顆粒内での神経活動依存的な局所翻訳が必要であり、その制御異常は認知症などの神経変性疾患と密接に関連している。ALSやFTLDの原因遺伝子産物であるFUSとTDP-43は、液-液相分離の能力を持ち、これらの疾患ではRNA顆粒に過剰に蓄積する。本研究では、この蓄積がRNA顆粒に及ぼす影響を明らかにすることを目指している。 昨年度までの研究では、FUSとTDP-43のGFP融合タンパク質を神経細胞で過剰発現させることで、共発現したRNA顆粒タンパク質RNG105を顆粒から解離させ、その結果局所翻訳が低下することを明らかにした。今年度は、1) FUS とTDP-43がRNG105を解離させるメカニズム、2) FUS, TDP-43, RNG105に融合したタグの影響、3) FUS とTDP-43のRNA顆粒への蓄積がRNG105を含む内在性RNA顆粒タンパク質に与える影響を調べた。まず1)に関しては、FUSとTDP-43の網羅的なドメイン欠損体を使用して、RNG105を解離させる責任ドメインを探索した。その結果、特定の責任ドメインは存在せず、FUSとTDP-43がRNA顆粒に蓄積しさえすればRNG105を解離させることが示された。2)に関しては、FUSとTDP-43によるRNG105の解離に、タグは関与しないことが示された。3)に関しては、内在性のRNG105もRNA顆粒から解離し、他の内在性RNA顆粒タンパク質は解離しないことが分かった。これらの結果から、FUSとTDP-43によるRNA顆粒からの解離はRNG105に特異的であり、その解離はタグやRNG105の発現レベルによらないことが示された。さらに、FUSとTDP-43によるRNG105の解離は、特定のドメインを介した相互作用によるものではなく、液-液相分離の平衡の崩れが原因である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、RNA顆粒の液-液相分離制御に焦点を当て、その機能や神経変性疾患との関連を解明することを目指している。今年度は、疾患の原因因子であるFUSとTDP-43によるRNA顆粒からのRNG105の解離に関する研究で、以下の進展があった。 1) FUSとTDP-43によるRNG105の解離メカニズム:FUSとTDP-43の特定のドメインを介した分子間相互作用が解離を引き起こすのではないことが明らかになり、マルチドメインが関与する液-液相分離の平衡の崩れが解離を引き起こす可能性が示唆された。 2) FUS, TDP-43, RNG105に融合した蛍光タンパク質タグの影響の検証:GFP等の融合は相分離の性質に影響を及ぼす可能性があるが、FUSおよびTDP-43によるRNG105のRNA顆粒からの解離には、タグは本質的な影響を与えないことが確認された。 3) FUSとTDP-43による内在性RNA顆粒タンパク質への影響:FUSとTDP-43の蓄積は内在性RNG105の解離を引き起こし、他の内在性RNA顆粒タンパク質は解離しないという特異性が明らかにされた。 これらの結果は、FUSとTDP-43によるRNG105の解離がタグや過剰発現の影響ではないことを示し、さらに解離のメカニズム解明に迫った。この点から、本研究は順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
神経活動によるRNA顆粒近傍での局所翻訳の活性化は、学習・記憶において重要な役割を果たす。過去の研究では、この過程でRNA顆粒内のタンパク質やmRNAの流動性が変化することが報告されているが、これらの変化について包括的な解析はまだ行われていない。そのような流動性の変化は、タンパク質の翻訳後修飾や相互作用の変化により引き起こされ、その影響は顆粒へのmRNAの取り込み等の変化として現れると考えられる。そこで、今後は神経活動に伴うこれらの変化を包括的に解析することを目指す。具体的には、マウス脳由来の神経初代培養細胞をKClにより脱分極させ、それによる変化をオミックスレベルで解析する。 まず、タンパク質リン酸化の変化に焦点を当て、定量的リン酸化プロテオミクスを実施する。RNA顆粒のように液-液相分離で形成される構造の流動性は、構成タンパク質の天然変性領域(IDR)の電荷ブロックのパターンにより制御されることが報告されている。このような流動性の変化に関与する可能性があるIDRのリン酸化・脱リン酸化のパターンを解析する。 次に、RNA顆粒の代表的な構成タンパク質にビオチン化酵素を融合させて神経細胞に発現させ、近接依存性標識を行う。ビオチン化されたタンパク質のプロテオミクス解析を行うことで、神経活動によるRNA顆粒構成タンパク質の相互作用変化を解析する。 さらに、RNA顆粒に局在するmRNAを光単離化学(PIC)により包括的に同定する。これにより、神経活動によるRNA顆粒へのmRNA取り込み変化を解析する。 これらの解析により、神経活動によって流動性が変化すると予想される候補タンパク質を同定し、そのタンパク質を含む相互作用の変化やそれに伴うmRNAの取り込み変化を解析する。この研究は、神経活動に伴うRNA顆粒の流動性変化と機能変化を包括的に解析するための基盤となることが期待される。
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