研究課題/領域番号 |
23K23833
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補助金の研究課題番号 |
22H02569 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43030:機能生物化学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 邦律 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (20373194)
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研究分担者 |
渡邊 康紀 山形大学, 理学部, 准教授 (30772636)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2024年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
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キーワード | オートファジー / リパーゼ / オートファジックボディ / オルガネラ分解 / 結晶構造解析 / 出芽酵母 / ホスホリパーゼ / Atg15 |
研究開始時の研究の概要 |
オートファジーという現象は、最終的に生体膜で構成されるオートファジックボディ(AB)膜が崩壊することで完結する。我々が使用している出芽酵母では、ABの分解にAtg15リパーゼが関与している。最近我々の研究グループは、Atg15の活性化メカニズムを解明し、論文として発表した。本研究課題では、Atg15の生化学的解析を進め、研究分担者とともに結晶構造解析を進める。
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研究実績の概要 |
真核細胞が栄養飢餓にさらされると、細胞内分解システムであるオートファジーが誘導され、自身の細胞質成分を分解して再利用することにより、生存に必須な生体高分子を合成して厳しい環境に適応しようとする。オートファジーによる被分解物は球状の二重膜胞であるオートファゴソーム(以下AP)に内包されることで分解コンパートメントである液胞/リソソームにおいて分解される。APが分解コンパートメントである液胞と融合すると、液胞内にオートファジックボディ(以下AB)が放出され、野生株中においてはABは速やかに分解される。ABの分解に必須なリパーゼ様タンパク質Atg15を欠いた細胞では、出芽酵母の液胞中にはABが蓄積する。しかし、これまではAtg15が直接AB膜を分解するかどうかは不明だった。 2022年度は、Atg15の組換えタンパク質を大量精製することに成功し、精製Atg15がリン脂質を分解するホスホリパーゼBの活性を有することを確認した。さらに、精製Atg15をプロテアーゼ処理するとAtg15の活性が増強し、細胞小器官を包むリン脂質膜を分解できるようになることを発見した。 これまでに知られているホスホリパーゼは対象となるリン脂質を無差別に分解するものだった。Atg15は特定の条件で細胞内小器官を分解する活性を発揮する点で新規の活性を有する酵素であり、反応条件を制御することで、特定の細胞小器官の分解や、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスのようなエンベロープウイルスの不活化などへの応用が大いに期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画時には、細胞生物学的、生化学的、構造生物学的なアプローチを駆使して、Atg15が特定の膜構造体を選択的に認識する分子機構を解明すべく、(1)Atg15活性のin vitro測定および(2)Atg15の構造解析を目標にしていた。Atg15活性のin vitro測定に関しては、初年度(2022年度)に人工基質を用いたAtg15の活性測定系を確立したあと、二年目(2023年度)以降に膜オルガネラの分解活性の測定系を確立することを目標にしていた。しかしながら、組換えAtg15の精製が思いの外順調に進んだため、人工基質を用いた活性測定だけではなく、膜オルガネラの分解をモニタリングする実験系をも確立することができ、(1)の項目については研究計画時の予想をはるかに越えた速度で研究が伸展している。 (2)のAtg15の構造解析については、当初、研究分担者と共に結晶構造解析を想定していた。組換えAtg15を大量に取得する実験系の確立には成功したが、Atg15の結晶取得は難航していた。AlphaFold2などの構造予測ツールが発達してきたことから、Atg15の構造を予測したところ、活性中心がAtg15本体の奥に埋もれており、基質と相互作用することは困難であると考えられた。我々は、組換えAtg15をプロテアーゼ処理することでAtg15の活性が大幅に上昇することを確認した。プロテアーゼによる切断部位を同定し、切断を受けたAtg15の構造予測を行ったところ、若干の構造変化が予想された。さらに分子動力学シミュレーションを行うことで、切断型Atg15は水溶液中で大きく構造変化し、活性中心が露出することが予想された。 これらの結果から、当初3年間で計画した目標のかなりの部分が達成されたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
上記、(1)Atg15活性のin vitro測定および(2)Atg15の構造解析に関して、最終目標を達成すべく研究を進める。 (1)については、液胞膜が内部に存在するAtg15によって分解されない原因を探る。液胞内部に運ばれた膜オルガネラは、液胞内腔から見て正の曲率を示す。まず、直径を様々に変えたリポソームを作製し、基質となる膜構造体の曲率と、Atg15の活性との関係を調べる。我々は、液胞膜がAtg15により分解されないのは、液胞膜が内腔から見たときに負の曲率を示すからであるという仮説を立てている。野生株から単離した液胞は、等張液中では数時間のオーダーで形態を保持可能である。単離液胞に対し、外部から活性型Atg15を加えることで、液胞膜が崩壊するか否かを調べることでこの仮説を検証できる。 (2)については、結晶構造解析を目標にして研究を進める。まずはAtg15の阻害剤の探索である。Atg15の活性中心はセリン残基なので、セリンに結合する化合物から、Atg15の活性を阻害する物質を同定し、構造を安定化させることで結晶の作製に挑む。また、活性中心のセリン残基をアラニン残基に置換後、リン脂質を加えることで、基質と結合した状態の結晶構造解析を試みる。アポ型および基質結合型Atg15の立体構造を比較することで、基質の結合に伴う構造変化の有無を検証し、AB膜への作用モデルを構築する。
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