研究課題/領域番号 |
23K23882
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補助金の研究課題番号 |
22H02619 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
柳谷 耕太 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 准教授 (70614775)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2025年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2024年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
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キーワード | オルガネラ / みなしごサブユニット / ミトコンドリア / キメラ複合体 / みなしごサブユニットの品質管理 / 翻訳制御 / ユビキチン化 / タンパク質の品質管理 / 核-ミトコンドリアコミュニケーション |
研究開始時の研究の概要 |
ヒトの細胞では約50%のタンパク質が、複数のサブユニットからなる複合体として存在するが、複合体に入れなかったみなしごサブユニットは分解される傾向にある。みなしごサブユニットの蓄積は細胞毒性を示す場合があり、その処理機構は細胞の恒常性にとって重要である。しかし、哺乳動物細胞がどのように、みなしごサブユニットを取り扱うのかについては十分に理解されていない。本研究では、ミトコンドリアのタンパク質複合体である呼吸鎖複合体とミトコンドリアリボソームに着目し、そのみなしごサブユニットを蓄積させない仕組みを明らかにする。
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研究実績の概要 |
ミトコンドリアには、ミトコンドリア内部で合成される因子とサイトゾルで合成される因子が会合することで形成されるキメラ複合体(Mt-Nucキメラ複合体)が存在する。ミトコンドリアリボソーム(mt-ribosome)と呼吸鎖複合体(Respiratory Chain Complex: RCC)はその代表例であるが、mtDNAとmtDNA結合因子からなるミトコンドリア核様体もキメラ複合体である。本研究では、Mt-Nucキメラ複合体のmtDNA由来の因子と核DNA由来の因子のバランスを崩した場合に、細胞がどのようにみなしごサブユニットを蓄積しないようにするのかを解明することを目的としている。 2023年度までの解析では、ミトコンドリアが不足した際には、統合ストレス応答(ISR)が活性化し、mtDNAの転写を促進する因子や、mt-ribosomeの成熟を促進する因子、mt-ribosomeサブユニットの一部のタンパク質量を増加させることを見出していた。この現象は、ミトコンドリア不足の状態では、ミトコンドリア内部の遺伝子発現を促進させることで、Mt-Nucキメラ複合体のサブユニット間不均衡を是正するものではないかと仮説を立て、その検証を行ったが、ISR活性化による、ミトコンドリア内タンパク質の合成が促進されている証拠は得られなかった。一方、研究の過程で、ミトコンドリアの減少が起こるストレス条件下では、mtDNAをその減少から守る細胞応答が存在することを見出した。これは、ミトコンドリア核様体に関しては、みなしごサブユニットを生じてから応答するのではなく、前もって、みなしごサブユニットを生じないようにする仕組みが存在することを示唆している。 ミトコンドリアに輸送されないmt-ribosomeサブユニットの品質管理に関しては、同定済みのユビキチン化酵素の細胞における役割について、解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度までに、人為的な方法でミトコンドリアをオートファジーで消化させ、その存在量を減少させた場合、統合ストレス応答(ISR)が活性化することが明らかになっていた。この方法で、細胞のミトコンドリアを約半分にまで減少させた後、ミトコンドリアの消化を停止すると、ミトコンドリア量は回復する。この回復期に、ISRの阻害剤で処理し、ISRの有無でのタンパク質量をプロテオームレベルで調べると、TFB2Mなどのミトコンドリア内転写を担う因子や、FASTKD2などのミトコンドリアリボソームの成熟に関与する因子、一部のmt-ribosomeサブユニットなどの、ミトコンドリア内での遺伝子発現に関係する因子群の存在量がISR依存的に増加した。この現象は、ミトコンドリア不足の状態では、ミトコンドリア内部の遺伝子発現を促進させることで、Mt-Nucキメラ複合体のサブユニット間不均衡を是正するものではないかと仮説を立て、その検証を行ったが、ISR活性化による、ミトコンドリア内タンパク質の合成が促進されている、明確な証拠は得られなかった。 RCCやmt-ribosomeに加え、mtDNAとmtDNA結合因子からなるミトコンドリア核様体もMt-Nuキメラ複合体である。我々は、研究の過程で、ミトコンドリアが減少することが知られているストレス条件下では、mtDNAをその減少から守る細胞応答が存在することを見出した。そのメカニズムの詳細は不明であるが、ミトコンドリアの減少がmtDNAを避けるようにして起こることが原因であることが示唆されている。これは、ミトコンドリア核様体に関しては、サイトゾルから供給されるサブユニットが、mtDNA量を越えて、みなしごサブユニットとして蓄積してから応答するのではなく、前もって、みなしごサブユニットを生じないようにする仕組みが存在することを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
ISRを介したミトコンドリア内遺伝子発現の増強による、Mt-Nucキメラ複合体のサブユニット不均衡是正は、現在のところ、証拠が得られていない。一方、ISRを亜ヒ酸で誘導した場合、サイトゾルの翻訳は抑制されるが、ミトコンドリア内部の翻訳には影響が小さいことを、我々は見出している。つまり、Mt-Nucキメラ複合体の形成において、ミトコンドリア側からの供給が小さい時には、ISRは、サイトゾル側からの供給を抑制することでサブユニット間の不均衡を是正している可能性がある。2024年度には、この仮説の検証を行う。具体的には、ミトコンドリア不足状態で、ISR阻害剤を処理し、未処理群と比較して、ミトコンドリアに新規合成されたタンパク質が流入する量が増加するのかを検証する。新規合成されたタンパク質は、click-chemistryで蛍光色素を結合できる、メチオニンの類似物質であるL-Homopropargylglycine (L-HPG)を用いて可視化する。 ミトコンドリア核様体のみなしごサブユニット解消法については、ミトコンドリア減少が起こる際に、どのようにmtDNAを避けてミトコンドリアの減少を実現するのかのメカニズムを解明する。このようなタイミングでは、ミトコンドリア核様体の形態が大きく変化する。そのため、この現象は、ミトコンドリア核様体を形成する何らかの因子が引き起こしている可能性がある、そこで、既知のミトコンドリア核様体形成因子を一つひとつ発現抑制し、この現象への寄与を検証する。また、ミトコンドリア核様体の中心的な因子であるTFAMにビオチン化ドメインを融合した融合タンパク質を準備し、ストレスの有無で近接ビオチン化法を行い、ストレス依存的にミトコンドリア核様体に集積されるタンパク質を網羅的に同定し、その中から、mtDNA保護の責任因子を同定する。
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