研究課題/領域番号 |
23K23889
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補助金の研究課題番号 |
22H02626 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44020:発生生物学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
茂木 文夫 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 教授 (10360653)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,070千円 (直接経費: 13,900千円、間接経費: 4,170千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
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キーワード | 細胞極性 / 胚発生 / 細胞骨格 / 生殖細胞 / 光温度遺伝学 / メカノバイオロジー / 線虫 / 力作用 / 非対称分裂 / 温度遺伝学 / 光遺伝学 |
研究開始時の研究の概要 |
生体は細胞集団の空間パターンを秩序化することで、組織の形と機能をつくる。この秩序化では、細胞が力発生を感知・応答することで化学シグナルを調節する「力学化学カップリング」を必要とするが、その仕組みには不明な点が多い。本研究は力の役割を解明するための技術開発を目的とし、人為的な細胞内温度変化を利用して力発生を操作する「光温度遺伝学法」を確立する。温度変化は、高速温度感受性遺伝子変異によって感知され、力変化へと変換される。この技術を線虫胚に活用し、力発生による化学シグナル(極性因子と運命因子)の空間パターン制御を明らかにすることで、力学化学カップリングの基盤原理を解明する。
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研究実績の概要 |
生物はその発生過程で、細胞集団の空間パターンをマクロスケールで秩序化することで、組織と器官の形態と機能を作り出す。この細胞集団の秩序化では、それぞれの細胞が機械的力刺激を感知・応答することで、細胞内の化学的シグナル伝達を調節する「力学化学カップリング」を必要とすることが示された。しかしながら、生体内の力学作用は直接可視化することができないので、その分子機構や生理的役割には不明な点が多い。そこで生体内の力を計測・評価・人為操作するための新規技術が必要とされる。 本研究では、多細胞生物の発生において力作用の生理的役割を解明するための技術開発を目的とし、マイクロ流体デバイスと赤外域光照射による細胞内温度変化を利用して、力発生に関わる標的因子の機能を素早く阻害する「温度遺伝学法」を開発している。この手法では、細胞内局所の温度変化は高速温度感受性の遺伝子変異を導入した細胞骨格因子によって感知され、力発生の局所的変化へと変換される。線虫C. elegansをモデル動物として用い、細胞内微小管およびアクチン骨格の機能と構造を10-30秒程度で阻害できる高速温度感受性遺伝子変異を同定し、生体をライブイメージングしながら温度変化を導入できる顕微鏡システムを構築した。この技術を活用して、胚発生では多細胞期胚における非対称分裂を対象に、線虫成体では子宮内における卵母細胞の形態形成を対象として、微小管およびアクチン骨格に由来した力発生が細胞集団と組織の空間パターン秩序化に及ぼす影響を解明している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、力発生の生理的役割を解明するための技術開発を目的とし、マイクロ流体デバイスと赤外域光照射による細胞内温度変化を利用して、力発生に関わる標的因子の機能を素早く阻害する「温度遺伝学法」を確立した。この手法では、人為的な細胞内局所の温度変化は、高速温度感受性の遺伝子変異を導入した細胞骨格分子によって感知され、細胞内における力発生の局所的変化へと変換される。II型ミオシンnmy-2(ne3409)・フォルミンcyk-1(or596)・微小管tba-1(or594)の温度感受性変異株が温度変化に対して10秒以内に細胞骨格構造を阻害することが確認でき、中心体spd-2(or293)・ミッドボディcyk-4(or749)・PAR複合体par-2(or539),pkc-3(ne4246)の温度感受性変異株も30秒程度でそれぞれの構造体を阻害することが確認できた。 現在はこの技術を活用して、線虫胚では多細胞期における非対称分裂を対象に、線虫成体では子宮内における卵母細胞形成を対象として、微小管およびアクチン骨格に由来した力発生が細胞と組織の空間パターン秩序化に及ぼす影響を解明している。これまでの実験から、極性パターン形成は、受精卵と多細胞期胚で大きく異なることが示された。多細胞期胚の生殖細胞前駆体形成では、極性形成が微小管に依存しており、この方向性は隣接細胞を必要とするがカドヘリンなどの細胞間接着分子に依存しない。また、卵母細胞形成では、アクチン骨格の局所的阻害によって形態形成期に起こる細胞質流れのメカニズムを解明した。今後は種々の温度感受性変異株を用いて、非対称分裂と卵母細胞形成を司るメカニクスの生理的役割を解析する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、温度遺伝学手法による生体内温度局所変化の空間的解像度を改善するための実験条件を検討する。先ず、生体内温度を定量的に計測するために、遺伝学的手法で導入可能な温度センサープローブgTEMPを生殖細胞で発現させる形質転換体を作成し、温度遺伝学的手法を適応したときの細胞内温度変化の分布を計測する。更に、温度変化を局所的に限定させるために、生体内へのナノ粒子の導入を試みる。 多細胞期胚における非対称分裂では、中心体・微小管・アクチン骨格を生殖細胞前駆体または隣接細胞で阻害することで、生殖細胞前駆体の極性化が細胞自律的か非自律的かを解明する。次に、これらの機能を特異的な細胞周期に特定の場所で阻害することで、細胞骨格由来の力作用と細胞非対称化(PAR複合体および細胞質性運命決定因子)の因果関係を明らかにする。 子宮内における卵母細胞形成では、アクチン骨格由来の力発生に依存して起こる細胞質流れが、卵母細胞の形態形成と品質管理に及ぼす影響を解析する。アクチン骨格の局所的阻害が、卵母細胞膜の再編成、アポトーシス、MAPKシグナル活性勾配の形成、細胞周期進行に及ぼす影響を体系的に調べることで、力作用の生理的作用を明らかにする。
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