研究課題/領域番号 |
23K23915
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補助金の研究課題番号 |
22H02652 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44040:形態および構造関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
木村 圭志 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50332268)
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研究分担者 |
広田 亨 公益財団法人がん研究会, がん研究所 実験病理部, 部長 (50421368)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2025年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | 液-液相分離 / 非コードRNA / 分裂期染色体 / コンデンシン / 天然変性領域 / 染色体 / ノンコーディングRNA / 染色体骨格タンパク質 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞分裂期の染色体には、1,000種類を超える非コードRNAが局在する。しかし、RNAが染色体の構造や動態をいかに制御するかの知見は乏しい。代表者は、染色体に局在する何らかのRNAが、染色体骨格タンパク質群の染色体軸への局在と正常な染色体の構築に重要な役割を担っていることを見出した。また、予備的な研究結果から、RNAとタンパク質の液-液相分離現象がこれらの過程に関与することが示唆された。本研究では、染色体骨格タンパク質群の液-液相分離を促進する非コードRNAを探索・同定し、液-液相分離現象によるタンパク質の染色体の軸への濃縮が染色体の構築と分配にいかに寄与するかを解明することを目的とする。
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研究実績の概要 |
M期の染色体骨格は、コンデンシン(IおよびII)、トポII、KIF4Aなどのタンパク質が存在する。代表者は、液-液相分離(LLPS)を介したRNAと染色体骨格タンパク質群のネットワークが、染色体の構築と動態を制御しているのではないかとの仮説をたてた。 M期染色体からRNase AでRNAを除去したところ、コンデンシン、KIF4AのM期染色体結合量が減少し、その減少はコンデンシンIで最も顕著に観察された。一方で、トポIIの染色体結合には影響はなかった。次に、LLPSの阻害剤である1,6-ヘキサンジオール (1,6-HD)を細胞に添加したところ、コンデンシンIが染色体から解離したのに対してトポIIの染色体結合には影響が出なかった。一方、LLPSの阻害活性が低い2,5-HDを添加した際には、コンデンシンIのM期染色体局在への影響は少なかった。この結果は、コンデンシンIなどの一部の染色体骨格タンパク質が、RNAとのLLPSを介して染色体に結合することを示唆する。しかし、コンデンシン(IおよびII)、KIF4Aと結合してLLPSを促進する非コードRNAの特定には至っていない。 また、染色体骨格タンパク質の相互作用因子を探索する過程で、いくつかのタンパク質が得られた。特に、コンデンシンIIがhCAP-D3サブユニットのC末端側の9つの塩基性アミノ酸を介してPP2AのB55サブユニットと結合することを見出した。この9つの塩基性アミノ酸をアラニンに置換したhCAP-D3(9A変異体)を安定発現したHeLa細胞株を作製し解析を行ったところ、9A変異体ではコンデンシンIIの染色体架橋を持つ細胞の割合が増加した。この結果から、コンデンシンIIとPP2Aの結合がM期の正確な染色体分配に重要な役割を持つことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画にあった染色体骨格タンパク質と相互作用しLLPSさせる非コードRNAの特定には至っていない。そこで、RNAが非特異的に染色体骨格タンパク質と相互作用しLLPSを促進するモデルに切り替えた。また、RNAと相互作用する染色体骨格タンパク質の部位の特定にも至らなかった。 一方、染色体骨格タンパク質と相互作用因子を探索する過程で、いくつかのタンパク質が染色体骨格タンパク質と相互作用することを見出した。その中でも、M期ホスファターゼであるPP2AのB55サブユニットが、コンデンシンIIのhCAP-D3サブユニットと相互作用することを見出し、相互作用に関与するhCAP-D3のアミノ酸残基を特定した。さらに、相互作用部位の9つの塩基性アミノ酸をアラニンに置換した9A変異体を安定発現するHeLa細胞株を作製した。9A変異体を含むコンデンシンIIはPP2Aと結合せず、M期染色体動態に異常が観察された。これらの研究結果は当初の研究計画には含めていなかったが、タンパク質のリン酸化状態の変化がLLPSに関与する可能性があることを考慮すると興味深い。 変異体hCAP-D3を含むコンデンシンIIの生化学的な解析、及び変異CAP-D3を安定発現した細胞株を用いた細胞生物学的な解析を行うことにより、脱リン酸化を介した染色体骨格タンパク質のLLPSの制御機構、及び染色体の構造や動態の制御機構に新たな知見を導入できることが期待できる。 上記から、一部は計画通りには進捗しなかったが、当初予期しなかった成果も得られたので、全体として「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
Image Jソフトウェアを用いた画像解析システムによる画像解析により、染色体骨格タンパク質の染色体局在に対するRNA除去の影響や、1,6-HD及び2,5-HDの影響を定量的に示すシステムを構築する。また、機械学習を用いた画像の定量解析も取り入れる。 RNAが染色体骨格タンパク質のM期染色体局在に及ぼす影響を精査するため、染色体骨格タンパク質とRNase Lの融合タンパク質を安定発現する細胞株を構築する。この細胞株を用いれば染色体骨格タンパク質と相互作用するRNAを任意のタイミングで分解することが可能であるため、染色体骨格タンパク質IのM期染色体局在、及びM期染色体の構造や動態へのRNAの役割の細胞レベルでの理解が進むことが期待できる。 また、ゲノム編集によりにより細胞のゲノム上のhCAP-D3の9つの塩基性アミノ酸をアラニンに置換したHeLa細胞株を作製し、コンデンシンIIのリン酸化状態、染色体局在、分裂期染色体の構造や動態、及び分裂期の進行を精査する。さらに、9A変異体を含むコンデンシンIIを精製し、in vitroでPP2Aを添加した際のリン酸化状態や液滴の形成に対する影響を解析する。
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