研究課題/領域番号 |
23K23935
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補助金の研究課題番号 |
22H02672 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45020:進化生物学関連
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
前川 清人 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (20345557)
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研究分担者 |
三浦 徹 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (00332594)
重信 秀治 基礎生物学研究所, 超階層生物学センター, 教授 (30399555)
林 良信 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 講師 (70626803)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2025年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
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キーワード | 社会性昆虫 / カースト / 遺伝子重複 / RNA-seq / ソシオゲノミクス / 真社会性 / シロアリ / カースト分化 |
研究開始時の研究の概要 |
繁殖活動を含む個体間の分業で特徴付けられる真社会性の進化には,如何なるゲノム上の変革が必要だったのだろうか。私たちはシロアリのゲノム解析により,カースト間で特異的に発現する遺伝子(ソシオ遺伝子)は基本的に多重遺伝子群で,遺伝子重複と社会性進化に密接な関係があることを示した。しかし,ソシオ遺伝子は一体どのように発現調節されるのか?各ソシオ遺伝子で,発現調節のしくみに共通性はあるのか?祖先を共有する非真社会性群がもつ相同遺伝子は,どのような特徴をもつのか?これらの疑問を解明することで,遺伝子重複によるソシオ遺伝子の獲得がシロアリの社会性進化を促したとの新たな進化理論の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
代表的な真社会性昆虫であるシロアリでは,カースト間で特異的に発現する遺伝子(=ソシオ遺伝子)は基本的に多重遺伝子群であり,遺伝子重複と社会性進化には密接な関係がある可能性がある。本研究は,これを新たな進化理論にすることを目標とする。重複した遺伝子の進化を高い解像度で解析するには,出来るだけ長いコンティグが必要である。また,我々がこれまで解析したヤマトシロアリReticulitermes speratus以外には,重複したソシオ遺伝子が正確に同定された種はない。そこで本年度は「先進ゲノム支援」のサポートを受け,ネバダオオシロアリZootermopsis nevadensis(562 Mb)の日本産個体群を対象に,PacBioによるロングリードを用いた高解像度のゲノムアセンブリ作製を試みた。現在,カバレッジ322x(180 Gb)のシーケンスが完了し,遺伝子モデルの作成を行なっている。重要なソシオ遺伝子をピックアップするために,各カースト(生殖虫,兵隊,ワーカー)の性別と部位別(頭部と胸腹部)のRNA-seqも行い,シーケンスリードを得た。今後,作成されたゲノムアセンブリにリードをマップし,網羅的な遺伝子の発現データを取得する。 続いて,ヤマトシロアリを対象に,ソシオ遺伝子の発現制御を担う転写因子の探索を試みた。JASPAR 2022を用い,複数のソシオ遺伝子の各パラログの上流に結合する転写因子の候補を得た。本種のRNA-seqデータをもとに各パラログと同一の発現パターンを示す転写因子を探索した結果,カースト特異的に発現するソシオ遺伝子には,共通の転写因子が働く可能性が示された。今後,各遺伝子の相互作用を詳細に解析する。 関連する結果の一部は,国際学会(第19回IUSSI (国際社会性昆虫学会))と国内学会(第24回日本進化学会,第93回日本動物学会)および学術誌で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「先進ゲノム支援」のサポートを受けることができたため,主材料として選定したネバダオオシロアリの日本産個体群のゲノムとトランスクリプトームのシーケンスデータを,初年度に取得することができた。これにより,シロアリで重複が予測される重要なソシオ遺伝子のリストアップまでをスムーズに進行させることができると考えられる。また,ヤマトシロアリのゲノム情報(Shigenobu et al., 2022)に基づいて,重要なソシオ遺伝子の1つである卵黄前駆タンパク質(ビテロジェニン)の発現や機能に関する個別の解析(Yaguchi et al., 2023)だけでなく,トランスクリプトーム(兵隊カースト分化時の個体間相互作用,Matsunami et al., 2022など)を報告することができた。したがって,研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
「先進ゲノム支援」のサポートを受け,日本産ネバダオオシロアリのロングリードのゲノムシーケンスが完了し,カースト間のRNA-seqのショートリードを取得した。まず本年度は,これらのデータの解析を進め,ヤマトシロアリとネバダオオシロアリ(下等シロアリ)で共通する重複ソシオ遺伝子を網羅的にリストアップすることを目指す。さらに,重複ソシオ遺伝子のうち,同一のスカフォールド上に並ぶ遺伝子(例えば,リポカリン,ベータグルコシダーゼ,ジテルペン合成にかかわる遺伝子)の転写制御機構に注目し,シス制御領域から予測される転写因子の候補を探索する。各候補は,in situハイブリダイゼーションにより発現部位を明らかにすると共に,各カーストの発現パターンの結果と付き合わせる。重複ソシオ遺伝子が特異的に発現するカーストにおいて,候補となる転写因子のRNAi解析を行ない,転写因子と重複ソシオ遺伝子の発現制御の可能性を検討する。生殖虫と兵隊の頭部など,注目するソシオ遺伝子の発現パターンが顕著に異なる部位では,ATAC-seqによりオープンクロマチン領域を網羅的に探索し,絞り込まれた転写因子との相互作用を検証する。また,シロアリでのソシオ遺伝子の発現パターンや制御機構の共通性や多様性を総合的に理解するために,最も成功した派生的な単系統群(高等シロアリ)の情報の取得も試みる。具体的には,発生学的な研究例も豊富で,ゲノムサイズが予測済みであるタカサゴシロアリNasutitermes takasagoensis(1.68 Gb)のロングリードのゲノムシーケンスとカースト間RNA-seqの取得を目指し,2023年度も「先進ゲノム支援」への申請を予定している。
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