研究課題/領域番号 |
23K23950
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補助金の研究課題番号 |
22H02687 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45030:多様性生物学および分類学関連
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研究機関 | 広島大学 (2023-2024) 東京農業大学 (2022) |
研究代表者 |
米澤 隆弘 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (90508566)
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研究分担者 |
甲能 直樹 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, グループ長 (20250136)
呉 佳齊 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 研究員 (00831744)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2024年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2022年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
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キーワード | 哺乳類 / 適応進化 / ゲノム / 非コード領域 / 海生適応 / 機能的制約 / 分子進化速度 / 水(海)生適応 / テンレック / 適応放散 / 選択圧 / 表現型 / 分子進化 / 祖先形質推定 |
研究開始時の研究の概要 |
現在、様々な生物種のゲノムデータが利用できるようになった。しかしながら、生物の多様な形質がどのように創出されるのかという根本的な問題に関して、我々はこの膨大なデータからごくわずかな情報しか引き出せていない。これは、複雑な表現型を支配する複数の遺伝子間の相互作用が充分に理解されておらず、またゲノムの大部分を占める非コード領域の機能がまだほとんど解明されていないことに起因する。本研究は、進化の過程における非コード領域の選択圧の変動をモデル化し、形態学・生態学的形質と関連付けることで非コード領域の機能を解明することを目的としている。
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研究実績の概要 |
非コード領域はゲノムの大部分を占めるが、その機能はまだほとんど解明されていない。しかし非コード領域にかかる選択圧の変動をモデル化できれば、非コード領域から適応進化の痕跡を検出することが原理的には可能である。本研究の目的は、全ゲノム解析に基づき非コード領域のどの座位が哺乳類の大進化に寄与したのかを明らかにし、ここから表現型の進化史の予測へと展開することである。 当該研究課題では127種の哺乳類の全ゲノムアラインメントを構築しデータベース化した。分子進化速度の座位・系統特異的な進化速度の変動を指標として選択圧の変動を推定したところCDS(タンパク質コード領域)とUCNE(超保存非コード領域)では、選択圧の変動のパターンが無相関であるという予察的な結果が得られた。これはCDSとUCNEは異なった様式で選択を受けてきたことを示唆している。 上記の全ゲノムアラインメントはパブリックデータベース上のデータを活用して得られたものだが、本研究課題においても哺乳類20種の全ゲノムを新規に決定した。これらの種は系統的には比較的近縁のグループであり、哺乳類の華麗な適応放散を示す好例でありながらほとんどゲノムデータが出ていない系統群である。 本研究課題は種間の多様性を創出する遺伝的基盤について解明することを目的としているが、種間の多様性と種内の遺伝的多様性との比較を詳細に行い、種間比較で推定された分子進化速度から種内の遺伝的多様性を予測できることを示した。さらに予測からの乖離により種特異的な選択圧を検出する手法を考案した。この手法はこれまで独自に発展してきた集団遺伝学(種内変異・小進化)と分子系統学(種間多様性・大進化)を橋渡しする全く新規のゲノム統計学的手法と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)哺乳類・鳥類ゲノムの国際プロジェクトZoonomiaにより約240種もの哺乳類ゲノムに基づく成果が大々的にScience誌に発表されるなど、哺乳類のゲノム進化解析が一層加速した1年であった。当該研究課題でも127種の哺乳類の全ゲノムアラインメントを構築しデータベース化していたが、Zoonomiaが公開した約240種の哺乳類ゲノムデータを取得しタンパク質コード領域、5'UTR、3'UTR、イントロン、UCNE(超保存非コード領域)、ORC(オープンクロマチン領域)等の領域ごとにデータベース化した。 (2)上記のゲノムアラインメントデータには含まれないが、種の形態学的・生態学的多様性を考えるうえで極めて重要と思われる哺乳類20種の全ゲノムを決定した。この中には30年以上ホルマリン固定されたいた博物館標本を含み、今後の博物館標本の活用にむけた重要な成果が得られた。 (3) 本研究課題から発展的に「種間で推定された分子進化速度」から「種内の遺伝的多様性」を予測し、種特異的選択を検出するゲノム統計学的手法を考案したが、その結果ヒトという種特異的に、感染症などに関する免疫関連の遺伝子群や癌腫関連の遺伝子群で負の選択圧が強化していることが明らかになった。これは行動な社会構造化による個体群密度の増加や長寿化と関連していると考えられる。その一方で物質誘発性障害関連の遺伝子群では負の選択圧が緩和しており、これが報酬効果となりヒト独自の文化的な発展があった可能性が示唆された。この成果はWu, Yonezawa, Kishino(2022)として論文発表している。 これらのことから、本研究課題の進捗状況については概ね順調に進捗していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度中に取得された哺乳類約240種のゲノムアラインメントは、シーケンスエラーや遺伝子のアノテーションミス等があり、分子進化速度を過大推定する恐れがある。そのためため現在クオリティコントロールを行っている。本年度はここから各タンパク質コード領域の系統樹を推定し、マルチスピーシーズコアレスセント法により「種の系統樹」を推定する。その後、「種の系統樹」の樹形に従い非コード領域の各座位の枝の長さを推定する。哺乳類の生態学的・形態学的形質のマトリックスの作成を進めており、現在タンパク質コード領域および非コード領域の一部を用いての予察的な解析を行っている。この成果について随時論文作成を進めていく予定である。また並行して鳥類の大規模なゲノムアラインメントデータも構築されつつあり、鳥類に関しても同様に解析を進めていきたい。 昨年度までに本研究課題のなかで決定した哺乳類20種の新規の全ゲノムについては、系統的に比較的近縁な単系統群であるため、これらの種とその近縁種のみのデータを個別に解析する。こうすることで哺乳類全体では正確にアラインメントしにくい進化速度の速い非コード領域も対象に含めることが出来る。 全ゲノムシーケンスの価格がより安価になりつつあるため、本研究課題で予定していた哺乳類20種の新規の全ゲノムシーケンスも当初の予算より少額となった。そのため追加で新規の全ゲノムシーケンスを行うが、Zoonomiaプロジェクトなどのより多くの種のゲノムが決定されたこともあり、哺乳類全体の適応を考えるうえで重要な1種のみ決定する。その一方で本研究グループにより小進化と大進化の橋渡しをする統計的な枠組みが考案されており、本研究課題においても発展的に種内変異のデータを取得する。全ゲノムのリシーケンスに加えてRAD-seqなども活用し、種特異的な非コード領域の選択圧の変化の検出を目指す。
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