研究課題/領域番号 |
23K24018
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補助金の研究課題番号 |
22H02755 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47020:薬系分析および物理化学関連
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研究機関 | 東京工業大学 (2024) 九州大学 (2022-2023) |
研究代表者 |
谷中 冴子 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (80722777)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2025年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | 抗体 / NMR / 分子動力学計算 / 分子経絡 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、抗体分子中に張り巡らされた“分子経絡”の全体像を把握し、分子経絡の改変を通じた生体高分子の機能改変を行うことを目指す。抗体分子は内部構造の自由度に富んでおり、分子の特定の部位への摂動が運動性の変化として分子内を伝播し、最終的に遠位のドメインの性質を変化させて機能が調節されると考えられる。こうした運動性が伝播するネットワークは、いわば人体における経絡のように抗体分子内に張り巡らされていると考えられる。このネットワークを解読できれば、ツボを刺激することで遠位の部位に影響を与えるがごとく、アロステリックに抗体の機能を変化させることが可能となり、抗体工学の可能性が大幅に広がるであろう。
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研究実績の概要 |
本年度は、核磁気共鳴(NMR)法を用いてIgG全長を観測するための基盤の整備を行うとともに、分子動力学(MD)シミュレーションによるIgGとFcγRの複合体の動的なコンフォメーション空間を探査するための技術開発を行った。 NMR観測の基盤整備においては、代表的なバイオ医薬品であるリツキシマブをモデル抗体として、市販の抗体に加えてリツキシマブの糖鎖構造改変体を作出してスペクトル計測を行った.これにより,非フコシル化や非ガラクトシル化に伴う信号変化を非標識条件下で明確に捉えることに成功し、NMRを用いてIgG全長を観測する基盤を整備することができた。 MDシミュレーションにおいては、IgGおよび、IgGとFcγRの複合体の動的構造空間を探査するための技術開発を行った。IgGはFcの約3倍の分子量を持つことに鑑みて、粗視化MD法とレプリカ交換MD法を組み合わせた構造空間の探査を行った。これにより、全原子MDを行うよりも効率よくIgGとFcγRの複合体について広い構造空間を探査することに成功した。さらに、溶液中での構造空間をより正確に詳細に探査するため、粗視化MDで得られた構造から全原子構造を再構築し、様々な構造を初期構造として全原子MDを行うことを目指している。そのため、粗視化MDによって得られた構造を全原子構造に再構築するための方法論の開発にも取り組んだ。その結果、粗視化モデルの構築に用いたIgGとFcγRの複合体の全原子モデルを初期構造とし、粗視化MDで得られたコンフォメーションに近づけるための拘束をかけた短時間の全原子MD行う方法が、全原子モデルの再構築に最も適していることが明らかとなった。 さらに、高速原子間力顕微鏡を用いたIgGとFcγRIIaおよびFcγRIの相互作用評価系を構築し、IgG改変体のエフェクター分子との相互作用を評価するための基盤を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、IgGのNMR観測をおこなう基盤を整備し、非フコシル化や非ガラクトシル化に伴う信号変化を非標識条件下で明確に捉えることができた。また、Fcの約3倍の分子量を持つIgGおよび、それよりもさらに大きいIgGとFcγRの複合体の動的なコンフォメーション空間を探査するための技術開発に取り組み、その方法論を確立しつつある。ここうした方法論の開発の過程で、思いがけず、これまで詳細が不明であったIgGとFcγRの相互作用の新規相互作用部位を明らかにすることにも成功した。さらに、次年度以降に行う相互作用の評価のための評価系も構築することができた。そのため、研究計画は当初の想定以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、抗体全長の動的構造アンサンブルを取得するための計算アプローチ法の開発に取り組む。昨年度の研究を通じ、粗視化分子動力学シミュレーションで得られた構造アンサンブルを初期構造として、全原子分子動力学シミュレーションを実施することでIgGの構造サンプリングを効率化できることが明らかとなってきた。このようにして得られた構造アンサンブルの確からしさを実験的に検証するために、X線小角散乱法などの実験的手法を用いて溶液中における分子の構造を評価する。実験データとシミュレーションを基にして構築したアンサンブルモデルから算出されるデータを照らし合わせて、シミュレーションのプロトコルを最適化する。一方で、昨年度の研究において、抗体のフラグメントを用いて分子経絡を解読する手法を深化させ、各スナップショットから得られる原子間の距離や二面角などの情報の相関関係からアミノ酸残基の分子内ネットワークを明らかにすることに成功している。これをIgG全長へと拡張し、IgGの構造アンサンブルに対して情報科学的・統計学的解析を行う。得られた分子経絡の情報に基づいて、IgGと相互作用する分子との親和性を増強することを目指した改変体を設計する。それらを実際に作出し、動的構造と機能を実験的に評価することに着手する。NMRによる動的構造の評価に加えて、表面プラズモン共鳴法がもたらす速度論的情報と等温滴定型熱量測定がもたらす熱力学的情報、さらには、高速原子間力顕微鏡による一分子リアルタイム観察がもたらす情報を統合した多角的な評価を実施する。また、細胞レポーターアッセイを用いて細胞傷害活性を評価し、改変によるIgGのエフェクター活性を定量評価する。
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