研究課題/領域番号 |
23K24030
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補助金の研究課題番号 |
22H02767 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47030:薬系衛生および生物化学関連
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
北尾 洋之 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (30368617)
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研究分担者 |
飯森 真人 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 准教授 (20546460)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2025年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 治療誘導性細胞老化 / ATR / ssDNA / 一本鎖DNA / 複製ストレス |
研究開始時の研究の概要 |
がん化学療法においてがん細胞が細胞死を伴わず不可逆的に増殖停止する「治療誘導性細胞老化(TIS)」という現象がある。このがん細胞がその後、悪性度を増した状態で再増殖するとされ、TISはがん根治を妨げる要因と考えられている。申請者は、抗がん剤によるがん細胞のTISへの運命決定において、ATRがカギを握る重要な分子であることを見出し、ATRを標的とすることでがん細胞をTISから細胞死へと効率よく運命転換できることを示唆する結果を得た。本研究計画では、TISへの運命決定機構の分子メカニズム解明と「老化から細胞死への運命転換による新たながん治療戦略」のための理論基盤を構築を目指す。
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研究実績の概要 |
がん化学療法において細胞死を伴わずその増殖を不可逆的に停止する「治療誘導性細胞老化(Therapy-induced senescence, TIS)」に陥ったがん細胞が、その後二次的な誘因で性質を変え、悪性度を増した状態で再増殖する危険性があるとの報告があり、TISががん根治を妨げる1つの要因と考えられるようになった。申請者は、DNA複製過程に作用する抗がん剤によるがん細胞のTISへの運命決定において、ATRがカギを握る重要な分子であることを見出し、ATRを標的とすることでがん細胞をTISから細胞死へと効率よく運命転換できることを示唆する結果を得た。本研究計画の目的は、ヒトがん細胞株に効率よくTISを誘導する抗がん剤を用い、TISへの運命決定機構についての詳細な分子メカニズム解明を通じて、「老化から細胞死への運命転換による新たながん治療戦略」のための理論基盤を構築することである。 本年度は、p53が正常に機能するヒトがん細胞株HCT116を用いDNA複製過程に作用する抗がん剤によるTIS誘導について評価をおこなった。その結果、薬剤によりTIS誘導効率に差があること、さらにTIS誘導効率の高い薬剤では核内に1本鎖DNA(RPA32タンパクによる核内フォーカス)が形成されることが明らかになった。さらにTIS誘導効率の高い薬剤として、チミジンアナログであるトリフルリジン(FTD)を用い、1本鎖DNAの性質を検証したところ、形成される1本鎖DNAは新生鎖由来であること、また1本鎖DNA領域にDNA2重鎖切断、相同組換え修復関連のタンパク質も集積することを示唆する結果が得られた。TIS誘導を引き起こすがん細胞では、残存した1本鎖DNAを起点に持続的なATR活性化を引き起こしていることが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、p53が正常に機能するヒトがん細胞株HCT116を用いDNA複製過程に作用する抗がん剤によるTIS誘導について評価をおこなった。HCT116-Fucci細胞を用い、分裂期回避(細胞老化誘導時に起こるG2期からM期を経ずにG1期に移行する現象)の頻度を解析した結果、薬剤によりTIS誘導効率に差があること、その中でもチミジンアナログであるトリフルリジン(FTD)で高効率にTISが誘導されることが明らかになった。FTDを含むTIS誘導効率の高い薬剤では核内に1本鎖DNA(RPA32タンパクによる核内フォーカス)が形成されていた。さらにFTDに曝露されたHCT116細胞を用い、抗BrdU抗体を用いた1本鎖DNA上のFTD検出を試みたところ、形成される1本鎖DNAは新生鎖由来であること、またこのような1本鎖DNA領域にDNA2重鎖切断、相同組換え修復関連のタンパク質も集積することを示唆する結果が得られた。TIS誘導を引き起こす状況のがん細胞では、S期を終え、G2期に入っても複雑な構造を持つ1本鎖DNAがうまく解消できず残存することで持続的なATR活性化を引き起こしていることが予想された。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、令和4年度に見出した知見について、検証と定量的データ取得のために追加で実験をおこなう。今後の研究では、上記検証実験に加え、以下の実験をおこなう予定である。 1.抗がん剤によるATR活性化について、細胞周期を人為的に同調した細胞を用いて薬剤添加後1周目のS期、G2期、G1期のどの時期に活性化が見られるのかについて詳細に検証する。 2.特異性の高いATM阻害剤、ATR阻害剤を選定し、それぞれの阻害剤によるATM, ATR抑制効果を元に至適濃度を決定する。Fucci細胞を用い、生細胞蛍光ライブイメージング技術を駆使し、これらの阻害剤を用いることによる抗がん剤誘導性の分裂期回避、細胞老化誘導への影響を評価する。 令和4年度12月から3月にかけて、申請者の九州大学から福岡歯科大学への所属変更に伴う研究室の移転作業があった。従来と同等のクオリティーの実験データが取得できるよう、所有する各精密機器の設置、精度確認を行い、いち早く実験環境を整えていく。
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