研究課題
基盤研究(B)
TRPC3は活性酸素生成酵素(NADPH oxidase 2)とタンパク質複合体を形成することで心筋や骨格筋細胞の萎縮を誘導することを見出している。本研究では、TRPC3-Nox2複合体が病態時得意的に形成される分子機構を明らかにする。また、その結合を特異的に阻害する新たな化合物を同定し、筋委縮性疾患モデルマウスを用いてその有効性を検証する。TRPC6チャネルについては、カチオン以外にFe2+やZn2+といった生命金属イオンも透過させることが知られている。そこで、TRPC6チャネルによる金属イオン流入が心臓の機能に及ぼす影響を明らかにし、これを標的とする新たな医療戦略を構築する。
受容体作動性TRPC6チャネル特異的な機能であるZn2+流入が心筋細胞の陽性変力作用を正に制御することを新たに見出した。TRPC6チャネルは心線維芽細胞にも発現しており、2022年度の研究の中で、Isoproterenol刺激による心臓の線維化誘導がTRPC6欠損マウスで増悪したことから、心線維芽細胞におけるTRPC6チャネルを介したZn2+流入が線維化の負の制御因子となる可能性を検討した。その結果、TRPC6チャネル活性化薬がIsoproterenol誘発性の心臓線維化を強く抑制し、TGFb刺激による心線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化誘導も強く抑制することを新たに見出した。その根底にあるメカニズムとして、Zn2+依存的な細胞内レドックス状態の維持が関与することも明らかにした。一方、TRPC6と最も近縁にあるTRPC3タンパク質が活性酸素生成酵素(Nox2)と相互作用するのに必要な配列をTRPCタンパク質のC末端55アミノ酸から8アミノ酸まで絞り込んだ。このアミノ酸配列を基に人工アミノ酸を含むペプチドを複数種合成し、心筋細胞やマクロファージ細胞株におけるTRPC3-Nox2複合体形成に対するそれらの阻害効果について検証した結果、TRPC3チャネル活性に影響を与えつつTRPC3-Nox2複合体形成を阻害するペプチド2つ、TRPC3チャネル活性に影響を与えずにTRPC3-Nox2複合体形成を阻害するペプチド2つを特定した。少なくとも細胞レベルでは、これらペプチドが心筋萎縮を強く抑制することも明らかにした。さらに、心筋細胞のみならず、骨格筋細胞株や赤筋組織においてもTRPC3-Nox2複合体形成とそれに伴う筋萎縮が観察され、TRPC3遺伝子欠損や薬理学的阻害薬(イブジラスト)処置によって筋萎縮が抑制されることもマウスで実証した。
1: 当初の計画以上に進展している
TRPC6チャネルのZn2+流入活性が心臓の陽性変力作用に必要であり、Zn2+流入のみを抑制できる新たな変異体の特定にも成功した。現在、MD計算によりTRPC6が特異的にZn2+を透過させる機構の予測をしており、最終年度の終わりまでにはZn2+透過の分子機構まで含めた報告ができるものと期待している。TRPC6チャネルは心筋のみならず、心線維芽細胞や腎糸球体細胞、血管平滑筋細胞にも発現しており、TRPC6活性化薬によるZn2+流入が抗線維化に働くことをマウスで実証することで、全く新しい抗線維化薬の提案も期待できる。
TRPC3-Nox2複合体形成については、現在サルコペニアやフレイルといった社会問題を意識し、骨格筋萎縮の標的とした創薬研究を進めている。デュシェンヌ型筋ジストロフィーや廃用性筋萎縮モデルマウスを用いたTRPC3-Nox2抑制薬の有効性検証により、ハイインパクトな研究成果の発信が期待できる。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 7件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 17件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 4件、 招待講演 11件) 備考 (2件) 産業財産権 (2件) (うち外国 1件)
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