研究課題
基盤研究(B)
TRPC3は活性酸素生成酵素(NADPH oxidase 2)とタンパク質複合体を形成することで心筋や骨格筋細胞の萎縮を誘導することを見出している。本研究では、TRPC3-Nox2複合体が病態時得意的に形成される分子機構を明らかにする。また、その結合を特異的に阻害する新たな化合物を同定し、筋委縮性疾患モデルマウスを用いてその有効性を検証する。TRPC6チャネルについては、カチオン以外にFe2+やZn2+といった生命金属イオンも透過させることが知られている。そこで、TRPC6チャネルによる金属イオン流入が心臓の機能に及ぼす影響を明らかにし、これを標的とする新たな医療戦略を構築する。
心血管系における脂質作動性TRPCチャネルタンパク質(TRPC3とTRPC6)のアイソフォーム特異的な役割を、それぞれの遺伝子欠損マウスを用いて解析した。TRPC3欠損マウスの心臓では、抗がん剤投与によるSARS-CoV-2の宿主受容体ACE2の発現上昇が抑制されており、その機序として心筋細胞膜上の活性酸素生成酵素NADPH oxidase (Nox) 2タンパク質との相互作用によるNox2分解抑制と活性酸素の過剰生成が関与することを明らかにした。TRPC3-Nox2複合体形成には、抗がん剤だけでなく、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質曝露によっても生じる心筋細胞からのATP遊離が関与していることも明らかとなった。一方、心室筋細胞のTRPC6チャネルが、交感神経終末から遊離されるノルアドレナリン(NA)によって生じる心臓の陽性変力作用(心収縮力の増強)を増強させることを新たに見出した。この増強作用はTRPC3チャネルでは起こらなかったことから、TRPC3とTRPC6のチャネル特性に着目したところ、TRPC6だけが有するZn2+透過性が関与することが明かとなった。心筋細胞には、ホスホリパーゼC連関型のαアドレナリン受容体(αAR)が発現しており、交感神経終末から遊離されるNAは、NA高親和性のαARを最初に刺激し、下流でTRPC6チャネルを活性化すること、TRPC6チャネルを介するZn2+流入がGsタンパク質とNA低親和性のβARとの共役を強めることで、NA刺激によるβARシグナルを介した陽性変力作用を強めることがわかった。さらに、TRPC6チャネル活性化薬PPZ2が種々の心不全モデルマウスの心機能を改善させることも明らかにした。以上の結果より、TRPC3/TRPC6アイソフォーム特異的な治療戦略が心不全の予後改善に重要である可能性が示された。
1: 当初の計画以上に進展している
TRPC3阻害によるCOVID-19心筋重症化の予防機構、TRPC6チャネル活性化による心不全改善、TRPC6チャネル阻害による末梢循環改善など、アイソフォーム選択的な治療効果を実証しており、すべて論文に公表できた。
TRPC3, TRPC6ヘテロ多量体との関係も明らかにしていく必要がある。
すべて 2022 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 3件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
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