研究課題/領域番号 |
23K24044
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補助金の研究課題番号 |
22H02781 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47060:医療薬学関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
加藤 将夫 金沢大学, 薬学系, 教授 (30251440)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2025年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
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キーワード | トランスポーター / 神経新生 / エルゴチオネイン / バイオマーカー / 認知機能 |
研究開始時の研究の概要 |
アルツハイマー病などの神経変性疾患では神経細胞が脱落するため、神経細胞を再生し脱落分を補う試みは病態改善に有効と考えられる。代表者は、マウス脳で神経細胞の再生(神経新生)や神経の成熟を起こし、ヒトで認知機能を高める食物含有水溶性アミノ酸を見出した。本研究は、その作用メカニズムを利用して神経の再生と認知機能向上を追跡可能なバイオマーカーを解明するとともに、当該アミノ酸による神経変性疾患モデルの治療を示し、高活性の医薬品創成を目指す研究である。
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研究実績の概要 |
食物由来アミノ酸ergothioneine (ERGO)による記憶学習向上メカニズムの解明を目指し、ERGOの標的分子を網羅的に探索したところ、ERGOが脳の主要なヒスタミン代謝酵素を阻害する可能性が示された。そこで、ERGOによる当該代謝酵素阻害と脳機能に及ぼす効果との関係解明を目的として、脳に発現するヒスタミン代謝酵素に及ぼすERGOの影響を評価したところ、500 microMのERGOによる代謝酵素活性阻害が示された。阻害様式を検討したところ、ERGOはヒスタミンと競合することが示唆され、IC50は130 microMであった。ERGOを取り込む膜輸送体OCTN1が高発現するミクログリアの初代培養において免疫染色を行なったところ、当該代謝酵素の発現が確かめらるとともに、ERGO添加により抗炎症性マーカーCD206の発現が誘導された。以上より、ERGOがヒスタミン代謝の制御を介してミクログリアの活性化を制御する可能性が考えられた。また、ERGOによる認知機能向上がERGOの長期連続経口投与(マウスで2週間、ヒトで12週間)を必要とすることを、定量的に解明するため、重水素標識ERGOの体内動態をマウスで解明するとともに、ERGO反復経口投与後の体内動態を説明しうる生理学的薬物速度論(PBPK)モデルの構築を試みた。その結果、ERGOが小腸で効率的に吸収され、肝臓で血流に近い速さで取り込まれることが示唆された。脳への分布は他の臓器に比べて遅く、最低用量では最大で投与量の99%以上が腎で再吸収される一方、高用量では再吸収が一部飽和して尿排泄率が増加すること、全身臓器への取り込みがOCTN1の飽和による非線形性を示すことが示された。以上より、ERGOの経口投与後の脳への分布が、肝への効率的な取り込みと脳での低い膜透過性により遅いことが、認知機能向上に時間のかかる要因であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究の3つの研究項目のうちの1つである「神経変性疾患モデル動物に及ぼすERGOの治療効果」について、精力的に研究を進め成果を挙げることができた。具体的には、正常マウスだけでなく、アルツハイマー病モデルマウスにおいても、ERGOを繰り返し経口投与後、神経新生、神経成熟、行動薬理、中枢神経系構成細胞のマーカータンパク質や遺伝子発現を測定し、認知機能の改善と神経新生の促進を観察することができた。さらに、創薬における標的分子となりうるヒスタミン代謝酵素を同定することができたほか、ERGOによる阻害様式や記憶学習との関連についても、ミクログリア活性化の観点から一部を解明することができた。また、ERGOやその誘導体を用いた薬物治療においては、投与量や投与間隔、投与ルートなどを最適化する必要があり、その体内動態を記述する生理学的薬物速度論モデルの構築は重要である。本年度においては、ERGOの繰り返し経口投与後の体内動態や脳移行性を定量的に記述する生理学的薬物速度論モデルの構築に成功したことから、ERGOの効果を最適化するために、どのような投与方法が適しているかを今後、定量的に解明することが可能となった。これらの成果は、昨年度に実施した神経新生を定量的に追跡するバイオマーカーの同定とあわせて、本研究の目的達成に有用な成果および知見となることから、本研究はおおむね順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
神経新生を追跡するバイオマーカー(BM)の同定と学術的基盤の解明を目指し、脳由来EVsの精製と再解析を行う。これまで本研究で採取されたEVsは、種々臓器由来を含むglobal EVs (gEVs)である。今後はgEVsが脳のどの細胞由来かを解明するため、マーカータンパク質抗体を使ってgEVsを精製する。報告されている末梢臓器由来EVs精製法を参考に、マーカータンパク質の細胞外領域認識抗体を用いてgEVsを免疫沈降し、神経幹細胞、新生神経細胞、未成熟神経細胞、成熟神経細胞由来EVsを得る。それぞれのEVsに含まれる神経幹細胞と神経細胞のマーカータンパク質量とmRNA発現量を測定し、由来細胞を確認する。次に、神経変性疾患モデル動物に及ぼすERGOの治療効果を引き続き検討する。アルツハイマー病モデルマウスとともに、脳梗塞モデルを用いる。左中大脳動脈に栓子を挿入し一定時間後に栓子を除去することで脳梗塞モデルを作製し、脳切片のTTC染色で梗塞巣容積を、Nissl染色で神経細胞死を評価する。前年度と同様、ERGOを経口投与後の神経新生、神経成熟、行動薬理、中枢神経系構成細胞のマーカータンパク質や遺伝子発現を測定することで脳機能の回復を観察し、血中EVsにおけるマーカータンパク質との関係性を示す。さらに、高活性薬物創製を目指した標的分子の探索と神経再生メカニズムの解明を目指し、今年度検討したヒスタミン代謝酵素を、ミクログリアの細胞株BV-2に安定発現させた系、酵素を内因的に発現するマウス初代培養ミクログリアを遺伝子ノックダウンする系を用いて、ERGO誘導体による酵素阻害を評価する。効果の得られた化合物を神経変性疾患モデルマウスに投与し、ミクログリアの活性化、神経新生、神経成熟、記憶学習に及ぼす影響を検討する。
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