研究課題/領域番号 |
23K24063
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補助金の研究課題番号 |
22H02801 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48020:生理学関連
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
酒井 秀紀 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (60242509)
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研究分担者 |
奥村 知之 富山大学, 学術研究部教育研究推進系, 特命教授 (10533523)
藤井 拓人 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 講師 (50567980)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
12,480千円 (直接経費: 9,600千円、間接経費: 2,880千円)
2024年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2022年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | ナトリウムポンプ / がん細胞 / アノイキス回避 / 血中循環腫瘍細胞 / 小胞 / アノイキス耐性 |
研究開始時の研究の概要 |
ナトリウムポンプα3アイソフォーム(α3NaK)は、がん細胞内の小胞に異常高発現している。我々は最近、がん細胞の足場からの剥離により、α3NaKが、原形質膜にダイナミックに移動することを見出した。本研究では、α3NaKがアノイキス回避の司令塔として機能するという仮説を立て、ヒト由来の各種がん細胞株、患者やマウスから摘出・単離したがん組織と細胞における研究を遂行し、α3NaKの局在変化がアノイキス回避を誘導するメカニズムの全容解明を目指す。このメカニズムを破綻させる化合物も探索する。本研究により、アノイキス回避の新規概念が構築されると共に、がん転移を阻止する新たな治療法の開発基盤が創出される。
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研究実績の概要 |
がん細胞の小胞に異常発現するナトリウムポンプα3アイソフォーム(α3NaK)が関与するアノイキス(細胞剥離誘導細胞死)回避の分子メカニズム、またα3NaKを標的とした新たな転移がん抑制メカニズムを解明する目的で研究を行った。 まずマイクロアレイを用いた網羅的解析により、α3NaKに関連する分子としてthyroid adenoma-associated protein (THADA)を同定した。ナトリウムポンプの阻害剤である強心配糖体(ジゴキシン、ウアバイン、オレアンドリン)は、サブμMの濃度においてTHADAの発現を有意に減少させた。THADAをノックダウンしたヒト口腔がん細胞では増殖は有意に抑制し、THADAの再発現により抑制された増殖が回復した。またこの増殖抑制機構に、アミノ酸トランスポーターLAT1が関与することを見出した。従って、強心配糖体による抗がんメカニズムにα3NaK-THADA-LAT1経路の抑制が関与することが明らかになった。 次に、マウスの皮下もしくは胃壁にヒト胃がん細胞由来MKN45細胞を移植し、血液中を循環する腫瘍細胞(血中循環腫瘍細胞:CTC)を解析するバイオアッセイモデルを構築した。原発がん組織および肝転移組織において、α3NaKは細胞質内に局在していたが、血液から単離したCTCでは、原形質膜に局在していた。ジゴキシンを腹腔内投与したマウスでは、CTC数が有意に減少した。また、胃壁移植モデルにおいて、ジゴキシン投与群で肝転移も抑制した。 以上、本年度の研究により、転移がん細胞の生存に関与するα3NaKの新たな関連分子の同定、またα3NaKを標的としてCTCを抑制する新たながん転移抑制法の開発につながる成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の5つの研究項目のうち、1)α3NaKが発現する小胞の実体と機能の解明については、がん細胞株を各種界面活性剤で処理した後、アイソトープにより細胞内小胞のイオンの動態を調べている。2)α3NaK以降のアノイキス回避シグナル系の解明については、本年度の研究で、THADA-LAT1経路を見出し、候補分子としてのLAT1とpAMPKとの機能連関を検討するとともに、他の候補分子の探索も進めている。3)アノイキス回避シグナルを遮断する化合物の探索については、各種強心配糖体の立体異性体の効果の差異に着目して研究を進めている。4)腹水中の浮遊がん細胞、CTCおよび原発がん組織におけるα3NaKの発現と機能の解明および5)ヒトがん細胞株を用いたマウスCTCモデルの作製と候補化合物の効果の検討については、マウスにおいてCTCを解析するバイオアッセイモデルを構築し、原発がん組織と血液から単離したCTCでの、α3NaKの局在変化を明らかにするとともに、マウスへのジゴキシン投与により、CTC数が減少し、がん転移も抑制されることを見出した。以上の得られた成果と進捗状況を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果に基づき、α3NaKが関与するアノイキス回避シグナルの全容解明を目指し、1)α3NaKのシグナル経路に関与すると考えられるタンパク質(LAT1、THADA等)が、接着および剥離がん細胞において、α3NaKと構造的・機能的に連関するのかについて検討する。2)接着および剥離がん細胞の遺伝子発現量の差異をマイクロアレイにより網羅的に解析し、アノイキス回避候補分子をピックアップする。候補分子について、小胞および原形質膜におけるα3NaKとの関連性を検討する。3)ヒトがん細胞株やマウスにおいて、候補分子のノックダウンまたはノックアウトにより、当該分子の病態生理機能を解析し、α3NaK以降のアノイキス回避シグナルの全容を解明する。 また、がん患者由来CTCにおけるアノイキス回避候補分子の発現および機能解析のため、1)患者から採取した血液よりCTCを高精度に単離し、α3NaKおよび候補分子の発現・局在を調べる。2)手術により摘出した原発がん組織を酵素処理し、剥離状態のヒトがん細胞を調製し、アノイキス回避候補分子の発現・局在について検討する。3)組織マイクロアレイにより、α3NaKおよびアノイキス回避候補分子の発現パターンを、患者の病理組織解析に基づくがん悪性度と関連づけるとともに、手術症例に基づく生存曲線との相関性を検討する。 さらに、アノイキス回避シグナルを遮断する化合物の探索のために、1)各種の強心配糖体ならびにアノイキス回避候補分子を標的とする各種化合物を剥離したヒトがん細胞株に作用させ、アポトーシス誘導効果を検討する。2)各種化合物をマウスに腹腔内投与し、血液中のCTC数および転移に対する効果を検証する。3)各種化合物を、がん患者の原発組織から調製した剥離状態のがん細胞、および血液から調製したCTCに作用させ、CTC抑制効果を検証する。
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