研究課題/領域番号 |
23K24071
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補助金の研究課題番号 |
22H02809 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48030:薬理学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金井 好克 大阪大学, ヒューマン・メタバース疾患研究拠点, 特任教授(常勤) (60204533)
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研究分担者 |
大垣 隆一 大阪大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (20467525)
岡西 広樹 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (70792589)
徐 旻恵 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (20910201)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2022年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
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キーワード | アミノ酸トランスポータ / 細胞周期 / 細胞休眠化 / シグナル情報伝達 / アミノ酸トランスポーター |
研究開始時の研究の概要 |
がん細胞の活発な増殖や成長は、栄養であるアミノ酸の取り込みによって支えられている。LAT1は、がん細胞に多くの必須アミノ酸を取り込む輸送体分子「トランスポーター」である。LAT1阻害薬(LAT1の機能を抑制する化合物)は、新たな抗がん薬として期待されている。本研究は、申請者らが見出した、「LAT1阻害薬によるアミノ酸取り込みの抑制が、細胞周期を停止させてがんを休眠化させる作用」の仕組みを解明する。抗がん薬としてLAT1阻害薬ががん細胞に及ぼす作用を詳細に明らかにするとともに、アミノ酸による分化、老化、癌化、細胞死といった細胞の運命決定の分子機構解明にも貢献が期待できる研究である。
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研究実績の概要 |
がん細胞の活発な増殖や成長は、栄養であるアミノ酸の取り込みによって支えられている。LAT1(L-type amino acid transporter 1; SLC7A5)は、がん細胞に多くの必須アミノ酸を取り込む輸送体分子「トランスポーター」であり、LAT1阻害薬は新たな抗悪性腫瘍薬として期待されている。本研究は、申請者らが見出した、「LAT1阻害薬によるアミノ酸取り込みの抑制が、細胞周期を停止させてがんを休眠化させる作用」の仕組みを解明するものであり、抗悪性腫瘍薬としてLAT1阻害薬ががん細胞に及ぼす作用を詳細に明らかにするとともに、アミノ酸による分化、老化、癌化、細胞死といった細胞の運命決定の分子機構解明にも貢献が期待できる研究として進行させている。具体的には、「LAT1阻害薬によるアミノ酸取り込みの抑制が、細胞周期を停止させてがんを休眠化させる作用」を検証し、その仕組みを解明することを目的としている。リン酸化プロテオミクスにより、LAT1阻害薬によって細胞内に生じるシグナル変動を解析したところ、多くの細胞周期を推進する分子群の活性が抑えられ、G0/G1の集積が起こることが明らかになった。さらに、細胞を静止期(G0期)に同期し、細胞周期を再開させる実験において、LAT1阻害薬はG0期に維持する作用があることを見出した。この実験系においては、細胞周期の再開とともにサイクリンD1の増加が生じるが、LAT1阻害薬で処理しておくとそれが起こらない。LAT1阻害薬処理により、p38 MAPKのリン酸化が上昇し、それが、サイクリンD1のリン酸化を介して、サイクリンD1の分解を調節して、細胞周期制御に寄与していることが見えてきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リン酸化プロテオミクスにより、LAT1阻害薬によって細胞内に生じるシグナル変動を網羅的に解析したところ、CDK2、CDK4をはじめとする多くの細胞周期を推進する分子群の活性が抑えられていることが明らかになり、LAT1阻害薬の細胞増殖抑制作用は、細胞周期制御が重要な要因となって生じることが示唆された。実際、LAT1阻害薬の細胞周期への影響を検討したところ、LAT1阻害薬処理によりG0/G1の集積が生じていた。そこで、LAT1阻害薬の細胞周期への影響のプロファイルをさらに明確にするため、ヒト膵がん細胞MIAPaCa-2を培養し、細胞の血清除去により静止期(G0期)に同期して血清添加により細胞周期を再開させる実験を行ったところ、LAT1阻害薬により、細胞はG0期に維持され、血清添加によっても細胞周期が再開しないことを見出した。この実験系においては、血清添加による細胞周期の再開とともにサイクリンD1の上昇が起こるが、その系にLAT1阻害薬を添加しておくと、サイクリンD1の変動が阻止された。またLAT1阻害薬は、p38MAPKのリン酸化を上昇させることもあわせて明らかになった。細胞周期を同期しない場合でも、細胞周期の回っている細胞をKi-67染色したところ、G0期の細胞が増加していることが明らかになり、LAT1阻害薬は、p38MAPKのリン酸化を亢進し、サイクリンD1を制御し細胞をG0期に移行させて休眠化することが示唆された。現在、LAT1によるp38MAPKのリン酸制御を担うシグナル系を特定する検討を行っている。さらに、MIAPaCa-2細胞において、LAT1阻害薬によって上昇するp38MAPKのリン酸化に依存して、Cyclin D1のリン酸化、ユビキチン化による分解促進が生じる実態を捉えつつあり、その検証実験を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究が対象とするシグナル経路は、アミノ酸アベイラビリティを参照して増殖因子の作用に干渉する新たな細胞周期制御機構と想定され、LAT1阻害薬の作用機序の理解とともに、細胞周期制御と深く関わる細胞の分化、老化、癌化、細胞死を含めた運命決定とその制御の研究においても貢献が期待されるものである。本研究は、この観点から、LAT1阻害薬によりp38MAPKのリン酸化が上昇する機序と、アミノ酸アベイラビリティを参照して増殖因子の作用に干渉する新たな細胞周期制御機構としてのp38MAPK-cyclin D1軸の意義を明らかにする。令和5年度以降は、これまでの成果に基づき、具体的には、当初の計画通り以下の方針で研究を進める。「LAT1とp38MAPKをつなぐシグナル経路の同定」においては、すでに樹立したLAT1阻害薬耐性細胞株を用いて、LAT1とp38MAPKをつなぐシグナル経路を絞り込む。耐性細胞株と親株をリン酸化プロテオミクスで比較し、シグナル解析によりLAT1とp38MAPKの間を繋ぐ経路を特定する。「アミノ酸シグナル阻害によるG0期停止におけるp38MAPK制御の意義の検証」においては、MIAPaCa-2細胞を用いて、p38MAPKのリン酸化に依存するCyclin D1のリン酸化、ユビキチン化による分解促進についての生化学的検証を継続する。「LAT1阻害薬とAKT阻害薬を併用した際の細胞増殖停止状態の解析」においては、LAT1阻害薬によるフィードバック経路を介した代償的AKT系の細胞周期制御における意義についての検討を継続し、LAT1阻害薬とAKT阻害薬の併用によって、細胞増殖をより強力に停止させることを実証する。「G0期停止後の休眠化の検証」においては、LAT1阻害薬によりG0期に移行させた細胞で、in vitroでの休眠状態への移行状態を検証する。
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