研究課題
基盤研究(B)
「低酸素環境は単に生体を損なうだけでなく、重要な生理的役割を積極的に果たす」という考え方に立脚した概念、生理的低酸素状態(Physioxia)を探究する。まず、細胞と外環境・シグナルとの間のインターフェイスとして働く細胞表面膜に注目し、酸素依存的なプロリン水酸化酵素によるTRPA1チャネルの活性化が中心となって作動する、酸素センシング機構を解明する。これが起点となり、脳グリア細胞アストロサイトの表面膜全体に亘って変容するタンパク質の集積、細胞外環境・シグナル分子に対する感受性の獲得等の機構的基盤も解明する。また、その生理的意義を脳虚血時に神経保護的に働くアストロサイト等を対象に追究する。
「低酸素環境は単に生体を損なうだけでなく、積極的に重要な生理的役割を果たす」という考えに立脚した概念、生理的低酸素状態(Physioxia)の確立を目指した。具体的には、細胞と外環境・シグナルとの間のインターフェイスとして働く細胞表面膜に局在する、Transient receptor potential (TRP)タンパク質群に注目した。TRPタンパク質群は28種のアイソフォームより成り、Na+、Ca2+等を透過させる陽イオンチャネルを構成し、それぞれが特定の生体内外環境の化学的・物理学的変化を感知して活性化開口する特徴的な感受性を有する。本研究ではTRPアイソフォームのうち、酸素依存的なプロリン水酸化酵素による活性調節を受けるTRPA1チャネルに焦点を当て、その活性化が中心となって作動する酸素センシング機構を追究した。まず、Physioxia応答の制御分子機構の解明については、酸素→TRPA1の水酸化・ユビキチン化→細胞内移行からなる経路の制御機構を、そして、低酸素下でどのようにそれが抑制され表面膜にTRPA1が維持されるかを追究した。また、生体内環境の低酸素化においては、TRPA1以外のTRPホモログを含む複数の膜貫通タンパク質が、TRPA1を介したCa2+流入に依存しながら挙動をTRPA1と共にして表面膜に局在化し、その結果、表面膜全体の分子構成、及び機能的性質が劇的な変容を来すことを示唆する知見がえられた。本応答を明らかにするために、既存の表面膜局在タンパク質検出法で問題が指摘されてきた非特異性の問題を解決すべく、タンパク質の表面膜挿入と連関する翻訳後修飾(糖修飾等)に注目した独自の表面膜局在タンパク質識別法の開発を進めた。さらに、具体的なPhysioxiaの生物学的役割と普遍的意義も解明するために、アストロサイトを介した低酸素誘導性の呼吸の亢進を解析した。
2: おおむね順調に進展している
当初に計画した実験計画が確実に実行できている。具体的には、まず、Physioxia応答の制御分子機構の解明について、上記(酸素→TRPA1の水酸化・ユビキチン化→細胞内移行)経路の制御機構を追究し、低酸素下でどのようにそれが抑制されて表面膜にTRPA1が維持されるかの一端を明らかにできた。特に、E3ユビキチン化酵素NEDD4-1における基質認識部位とされる4つのWW領域のうち特定のWW領域が、酸素存在下でTRPA1チャネルの内在化を誘導することを見出した。また、TRPA1を介したCa2+流入に依存した表面膜全体の分子構成、及び機能的性質の劇的な変容については、指摘されてきた非特異性の問題を解決できる、独自の表面膜局在タンパク質識別法の開発に成功しつつある。さらに、具体的なPhysioxiaの生物学的役割と普遍的意義を解明するために、TRPA1ノックアウトマウスを用いた研究を展開し、脳血流低下に伴う血管性認知障害にアウトロサイトのTRPA1が保護的に働くこと、アストロサイトがTRPA1介して低酸素回復後の亢進も誘導すること等の成果が得られつつある。
まず、Physioxia応答の制御分子機構の解明については、E3ユビキチン化酵素NEDD4-1における4つのWW領域のうちの特定のWW領域が、酸素存在下のTRPA1チャネルの内在化の誘導に重要であることが明らかになりつつあるので、その詳細な機構を解明することが重要になる。また、TRPA1を介したCa2+流入に依存した表面膜全体の分子構成、及び機能的性質の劇的な変容については、指摘されてきた非特異性の問題を解決できる、独自の表面膜局在タンパク質識別法の開発に成功しつつあるので、実際に、アストロサイトを低酸素環境下に置いた系で、ラベル化を処置し質量分析により網羅解析を行う。さらに、具体的なPhysioxiaの生物学的役割と普遍的意義を解明するために、TRPA1ノックアウトマウスを用いた研究を展開し、脳血流低下に伴う血管性認知障害にアウトロサイトのTRPA1が保護的に働くことがわかったので、当該アストロサイトがどのような機能分極を示しているか解析を進め、神経保護性アストロサイトであるか否かを明らかにする。
すべて 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 備考 (1件)
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http://www.sbchem.kyoto-u.ac.jp/mori-lab/