研究課題/領域番号 |
23K24080
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補助金の研究課題番号 |
22H02818 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48040:医化学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田守 洋一郎 京都大学, 医学研究科, 准教授 (10717325)
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研究分担者 |
榎本 将人 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (00596174)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2025年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
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キーワード | 腫瘍浸潤 / 発がん / がん微小環境 / ゲノム倍数性 / ショウジョウバエ / 上皮組織 / 浸潤ホットスポット / SBF-SEM |
研究開始時の研究の概要 |
我々はこれまでに、がん細胞の集団が上皮組織内の特定の場所から基底膜側へ浸潤を始めることを発見した。この「浸潤ホットスポット」から間質へ侵入したがん細胞の中には、通常の細胞周期とは異なる核内倍加周期によりゲノム多倍体化が起こっている細胞が存在し、この多倍体化が浸潤に重要な役割を持っていることが分かってきた。本研究では、この浸潤ホットスポットの形態学的・構造力学的・遺伝学的特徴を分析し、このスポットを特徴付ける因子を同定する。さらにこのスポット特異的な因子と多倍体化との関わり、そして浸潤能獲得における多倍体化の機能的役割を明らかにすることにより、腫瘍浸潤初期段階の新たな分子基盤の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、生体上皮組織内において腫瘍浸潤が始まるプロセスについての新しい分子基盤を構築することを目的としている。 これまでの我々の研究から、ショウジョウバエ幼虫の翅原基上皮組織に誘導したがん原性変異細胞からなる腫瘍は、同組織内の特定の場所に出現した場合にのみJNK-MMP1シグナルの亢進が起こるため、非常に高確率でこの特定の場所(浸潤ホットスポット)から基底膜を破り浸潤を始めることを発見した。この浸潤ホットスポットでは、方向性を持った細胞配置パターンがぶつかって内在的によどみ形状を形成していることを観察している。令和4年度は、粒子画像流速測定法(PIV解析)を応用したMATLABプログラムを用いて、組織の三次元画像からホットスポットを高確率で検出する方法を確立し、この検出プログラムを用いることにより、Notch経路関連遺伝子の変異体において、ホットスポットに特異的な組織構造が消失すること、さらにこの変異体ではホットスポットでの腫瘍の浸潤が抑えられることを発見した。さらに、連続ブロック表面走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)を用いた観察により構成細胞一つ一つの形態と配置の解析を実施したところ、ホットスポットでは多くの細胞が折れ曲がったり細くなったりして歪な形態を取り、これらが絡み合うような特異な構造を形成していることが明らかとなった。これらの実験結果を統合することにより、浸潤ホットスポットは元々構造安定性が低い歪な構造を持つため、がん原性変異が導入されると簡単に単層上皮構造が崩れ、この構造崩壊がJNK-MMP1シグナル亢進の引き金となり、基底膜の破壊と間質側への浸潤が始まるというプロセスの全体像を明らかにすることができた。 これらの浸潤ホットスポットに関する新しい発見について、米国遺伝学会のDrosophila Conferenceを含め複数の学会で紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、腫瘍細胞がショウジョウバエ幼虫の翅原基上皮組織に内在する浸潤ホットスポットから基底膜を破り浸潤を始めるプロセスの全体像をほぼ説明することができる実験結果を得ることができた。まず、連続ブロック表面走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)を用いた観察により、浸潤ホットスポットの構成細胞が内在的に他とは異なる歪な形態を取っており、それによってこの部分が他よりも脆弱な構造を持っていることが分かった。さらに粒子画像流速測定法(PIV解析)を応用したホットスポット検出法と、変異体を用いた遺伝学実験を併用することにより、ホットスポットの組織構造が浸潤に関わることを証明することができた。また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、基底膜側の弾性(ヤング率)について解析したところ、浸潤ホットスポットは他の場所に比べて物理的に固いことも分かった。ホットスポットでは、他の部分に比べてリン酸化ミオシン軽鎖の蓄積が多いという観察結果もあり、この場所では形態形成に伴う上皮シートの収縮が生じている可能性が示された。以上の形態学的な観察結果に加え、がん原性変異が導入された場合に、ホットスポットで特異的に生じる単層上皮構造の崩壊により、上皮層基底膜下の体液中に存在するリガンド分子であるEiger(TNFα)と、そのレセプターで通常は上皮組織頂端側に局在しているGrndの結合が起こり、これがEiger-Grnd下流のJNK-MMP1シグナル亢進の引き金となって基底膜の崩壊、腫瘍細胞の浸潤が起こるという分子メカニズムを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで順調に進んでいるため、令和5年度については申請書の計画通り、他の様々な実験モデルを用いた解析を進める予定である。特に、がん原性変異細胞クローンが、浸潤ホットスポットから基底膜を破って間質側へ侵入した後に多倍体化(巨核化)を起こすメカニズムについての解析を進める。これらの巨核細胞では、DNA合成期(S期)の細胞は観察される一方で、分裂期(M期)の細胞がほとんどないこと、3個以上の中心体を持つ細胞が認められることなどから、これらは核内倍加周期によって多倍体化していると考えていた。一方、これら巨核細胞の正確な倍数性を確かめるために、FACSによるDNA量解析や、共焦点顕微鏡によるイメージングベースの倍数性解析によって徹底的な検証を行ったところ、これらの大部分は2倍体を維持しており、通常の倍数性から大きく逸脱はしておらず、ごく少数の細胞だけが多倍体化している可能性が見えてきた。この結果は、これまでの我々の仮説とは少し異なるものであるが、モデルとしている浸潤がんクローンの本当の実態が見え始めてきたことは大きな前進であり、しかも浸潤性のがん組織内に存在する少数の多倍体化細胞が、がんの進展や再発に重要な役割を持つという考えには驚くほど一致するものである。よって今後、これら少数の多倍体化細胞がどのようにして生じるのか、そしてなぜ基底膜を破って間質側へ侵入した後に2倍体を維持している細胞で巨核化が起こるのかについて、さらに解析を進めていく。
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