研究課題
基盤研究(B)
申請者は最近、各正常組織に常在する線維芽細胞に特異的なマーカーとしてMeflinを同定し、Meflin陽性線維芽細胞の機能は組織修復および線維化やがんの進行の抑制であり、一般に悪玉とイメージされている線維芽細胞の機能とは異なることを示した。さらに、Meflin陽性線維芽細胞は疾患の進行とともにMeflin陰性あるいは弱陽性のSMA陽性線維芽細胞、すなわち疾患促進性の線維芽細胞に形質転換することを見出した。本研究の目的は線維芽細胞特異的にレチノイン酸取り込み能を欠失させた際、あるいは老化を誘導した際に個体に現れる病理学的変化を検証し、正常線維芽細胞の生理的意義を明確に示すことである。
研究代表者はこれまでに、Meflin陽性正常線維芽細胞は加齢とともに減少すること、また同細胞が疾患抑制性の形質を維持するためにビタミンAの取り込みとその核内受容体の活性が重要であることを明らかにしてきた。本研究の目的は線維芽細胞特異的にビタミンA取り込み能を欠失させた際(目的1)、あるいは老化を誘導した際(目的2)に個体に現れる病理学的変化を検証し、正常線維芽細胞の生理的意義と病態における意義を明確に示すことである。本年度は下記の実験を行い、下記の結果を得た。1) ビタミンA輸送体Stra6遺伝子のexon 12をはさむintron領域にLoxP配列を挿入したマウスをゲノム編集の技術で作成し、これとActin-CreあるいはMeflin-CreERT2マウスと掛け合わせ、ジェノタイピングにより計画どおり上記exon12が欠失していることを確認した。膵がん細胞を移植したMeflin-CreERT2; Stra6 floxマウスにタモキシフェンを投与すると、Meflin陽性細胞でStra6が欠損することをin situ hybridization(ISH)で確認した。2)ヒト膵がんの手術病理検体(パラフィン包埋標本)を用いた免疫組織化学によりStra6タンパク質の検出を試みた。複数の抗体を購入し、様々な条件で染色を実施したが特異的なシグナルを得られなかった。一方、RNAscopeを用いたISH法ではStra6の発現の検出が可能であり、以降の研究ではISH法を用いることに決定した。3)Meflin-Creマウスと共同研究者から供与を受けたSOD2 floxマウスの掛け合わせを終えた。
2: おおむね順調に進展している
遺伝子改変マウス(Stra6 floxマウス)の作出と現有するCre発現マウス(Actin-CreマウスおよびMeflin-CreERT2マウス)の掛け合わせは概ね順調に実施されている。これらを膵がんモデルに供する実験も開始されている。ヒト病理検体において免疫染色を用いた研究対象分子の検出条件の最適化に難渋し、これを断念したが、ISH法を用いることで解決した。
当初の研究目的と計画に沿って実施する予定である。膵がんモデルを用いた検証の結果を得てから、線維化疾患モデルの実験に移行する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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