研究課題/領域番号 |
23K24120
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補助金の研究課題番号 |
22H02858 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49030:実験病理学関連
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
宮澤 正顯 近畿大学, 医学部, 教授 (60167757)
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研究分担者 |
博多 義之 近畿大学, 医学部, 講師 (30344500)
河原 佐智代 近畿大学, 医学部, 講師 (60297629)
月本 翔太 近畿大学, 大学病院, 助教 (40790762)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
10,530千円 (直接経費: 8,100千円、間接経費: 2,430千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | APOBEC3 / リンパ腫 / Bリンパ球 / レトロウイルス / 複製制限 / Bリンパ腫 / 胚中心 / Tfh細胞 / NK細胞 / 細胞傷害 / 腫瘍化 / 宿主因子 / CD40L / 抗原受容体 / 宿主遺伝子 / 発症因子 |
研究開始時の研究の概要 |
一本鎖DNAを標的とするシチジン脱アミノ化酵素APOBEC3は、レトロウイルス複製制限因子として生理的に機能する。我々は、APOBEC3が抗原刺激により活発に分裂する胚中心Bリンパ球に特異的に強発現することを発見した。一方、APOBEC3欠損マウスを長期間飼育していると、ほぼ全例でB細胞リンパ腫を発症した。これは、胚中心細胞で高発現するAPOBEC3がBリンパ球の腫瘍化を抑制していることを示唆する。その機序として、胚中心細胞で活性化に伴って内在性レトロウイルスが発現し、逆転写産物の染色体組込みが増加するが、APOBEC3はこれを抑制していると考えることができる。本研究ではこの仮説を検証する。
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研究実績の概要 |
一本鎖DNAを標的とするシチジンデアミナーゼAPOBEC3は、レトロウイルス複製制限因子として機能する。我々はFLAGタグノックインマウスの免疫組織学的解析により、APOBEC3が胚中心B細胞に特異的に強発現していることを発見した。一方、APOBEC3欠損マウスを長期間飼育していると、ほぼ全例でB細胞リンパ腫を発症した。これは、胚中心B細胞で高発現するAPOBEC3がB細胞の腫瘍化を抑制していることを示す。その機序として、胚中心細胞で内在性レトロウイルスが発現し、これがリンパ腫発症の原因となるが、APOBEC3は内在性レトロウイルスの発現と複製を抑制していることが考えられる。 今年度は、レトロウイルス遺伝子産物を発現する標的細胞に対して宿主がどのような免疫応答を起こすかを解析し、胚中心B細胞の分化に関連する濾胞型ヘルパーT(Tfh)細胞の早期誘導が感染細胞排除に重要な役割を果たすことを見出した。Tfh細胞は胚中心における免疫グロブリン分子のクラススイッチに関与するが、Tfh細胞と胚中心B細胞の相互作用に必要なICOS分子の機能を抗体により阻害すると、ウイルス中和抗体の産生は遅延するものの、意外にも感染細胞排除には影響を与えなかった。一方、Tfh細胞から産生され、Tfhの分化そのものも促進するサイトカインIL-21の機能を阻害すると、ウイルス感染細胞の排除が有意に遅れたが、その際ナチュラルキラー(NK)細胞による感染細胞の傷害機能も有意に低下した。このことから、胚中心機能に重要なTfh細胞は、IL-21を介するNK細胞機能の促進によりレトロウイルス抗原発現細胞の排除に働くと考えられた。 飼育環境の変化に伴うBリンパ腫自然発症頻度の低下に対応するため、APOBEC3欠損マウスにフレンドヘルパーウイルスを感染させる実験を進めており、現在マウスの繁殖維持を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
APOBEC3欠損マウスにおけるBリンパ腫自然発症は、飼育環境に大きく依存し、現在の環境下ではその発生頻度が著しく低下している。この理由として、腸内細菌叢などの共存微生物環境が変化し、パターン受容体を介するBリンパ球活性化の条件が変化したことが考えられる。同様の現象は、内在性レトロウイルス抗原に対する自己抗体産生が重要な役割を果たす、自己免疫病自然発症マウスを無菌環境下で飼育した場合にも観察されている。 このため、自然発症Bリンパ腫における内在性レトロウイルス発現とそのAPOBEC3による制御を解析すると言う当初目標の進捗は、やや遅れている。 一方、飼育環境の変化に伴う発症率の低下から、逆にBリンパ腫の発症における環境微生物抗原の役割が示唆され、これを検証するため、APOBEC3欠損マウス及び対照マウスからBリンパ球を分離し、これを各種の病原体パターン分子で刺激して、内在性レトロウイルスの発現誘導を比較解析する計画が着想できた。内在性レトロウイルス発現を網羅的に解析するにはRNAseqが最適であり、来年度これを実施する準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、APOBEC3はCD40刺激によるBリンパ球の胚中心細胞への分化に伴ってその発現が上昇すること、Bリンパ球抗原受容体からの刺激のみではAPOBEC3の発現上昇は起こらないことが明らかになった。一方、飼育環境の変化に伴い、APOBEC3欠損マウスにおけるリンパ腫自然発症の頻度は激減した。このことは、Bリンパ球における内在性レトロウイルスの発現誘導に微生物パターン分子からの刺激が関与することを示唆する。これら知見に基づいて、今後は下記の研究計画を実施する。 1)Bリンパ球におけるAPOBEC3発現誘導にToll様受容体(TLR)刺激が果たす役割: 分離したBリンパ球に試験管内でTLR刺激を加え、APOBEC3発現の変動をFLAGタグの細胞内染色により検討する。なお、CD40刺激の無い条件で抗原受容体を架橋するとBンパ球に細胞死を誘導するので、抗原受容体刺激のみ、TLR刺激のみ、両者併用の場合の時間経過を比較する(河原)。 2)Bリンパ球のTLR刺激による内在性レトロウイルス発現誘導の解析: 上記TLR刺激により、Bリンパ球で内在性レトロウイルスの発現が誘導される可能性がある。刺激後のBリンパ球からmRNAを抽出し、RNAseqにより網羅的に遺伝子発現データを得る。これを、Kassiotisらのアルゴリズムを用いて解析し、TLR刺激B細胞における内在性レトロウイルス発現に対するAPOBEC3の役割を解析する(宮澤、博多)。RNAseq解析から特定の内在性レトロウイルス発現がAPOBEC3の制御下にあることが推測された場合は、対応する内在性レトロウイルス遺伝子産物を検出できるモノクローナル抗体を手持ちのパネルから選び、蛍光セルソーター法でその抗原発現の時間経過とAPOBEC3による変化を調べる(河原)。
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