研究課題
基盤研究(B)
今年度は、配列が保存されているT細胞エピトープに対するT細胞応答の解析に加えて、In vitro priming法を用いて変異株に対して認識可能なT細胞サブセットの同定を行う。これにより、T細胞の変異株に対するT細胞受容体の交差反応性を明らかにする。さらに、HLAトランスジェニックマウスを用いて、野生型ならびに改変型ペプチドでペプチド免疫し、それらの抗原ペプチドに応答するT細胞の交差反応性ならびに抗ウイルス機能について解明する。
ヒトT細胞は、多様なT細胞受容体レパートリー、ならびに、広範な交差反応性を兼ね備えていながら、どうしてウイルスに逃避を許してしまうのか、ヒトT細胞の交差反応性とウイルスによる免疫逃避機構は依然として不明な点が多い。そこで、本研究では、ヒトT細胞に備わっている交差反応性を明らかにする一環として、ウイルス変異に対する交差反応性に関わる分子認識機構と優れた抗ウイルス機能との関連を明らかにする。これにより、ヒトT細胞のウイルス変異認識予測法やヒトT細胞の交差反応性をベースとした新興・再興感染症における制御法の開発に向けた 分子基盤の創成を目指す。今年度は、昨年度明らかにした免疫原性が高い抗原で、且つ、複数のSARS-CoV-2変異株由来の変異を有している抗原ペプチドに特異的なT細胞受容体(TCR)のレパートリーについて調べた。その結果、複数のワクチン接種者ならびに感染回復者で可変領域が良く似たTCRクロノタイプが選択されていることが分かった。それらに着目し、可溶型TCRを作成して、ペプチド/HLA複合体に対する結合能を調べたところ、野生型抗原について高い結合能を示したが、変異を含む抗原に対する結合能は顕著に低かった。さらにTCR-ペプチド/HLA複合体の結晶構造を得ることに成功し、共通していたTCRの可変領域がHLA上のペプチドとの結合に重要な役割を果たしていることが構造的な側面から明らかになった。さらにCombinatorial peptide libraryを用いたT細胞の交差反応性プロファイルについても解析を行い、それらの抗原特異的T細胞は、変異が生じた箇所のアミノ酸に対して認識能がもともと低いことが明らかになった。以上より、SARS-CoV-2 spike変異のT細胞応答からの逃避機序について分子レベルで明らかにすることが出来た。
2: おおむね順調に進展している
免疫原性の高い抗原に着目し、TCRのレパートリーの解析によって、複数のドナーで共通して認められるTCRを同定した。さらにそれらのTCR-ペプチド/HLA複合体の結晶構造解析ならびにペプチドライブラリーを用いたT細胞の交差反応性解析によって、T細胞の変異に対する分子認識機構を明らかすることが出来た。
変異性の高い抗原ならびに変異株間で配列が保存された抗原に対するT細胞応答に着目し、In vitroにおけるヒトT細胞の抗原変異に対する認識能評価/ウイルス感染細胞に対する抗ウイルス活性評価、ならびにHLAトランスジェニックマウスを用いたIn vivoにおける機能的ヒトT細胞の誘導とウイルス感染後の病態との相関について解析を行う。
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