研究課題
基盤研究(B)
本研究は、「感染なき免疫応答」を担うDAMPsと呼ばれる自己分子について、これまでの解析によって得られた知見に基づき、TCTPによる炎症促進作用の解明、また、独自の視点からの解析により見出しつつある新規DAMP分子の同定と機能解析を進めることである。これにより自己分子が免疫系に認識されるようになる分子機構を解明し、DAMP分子群が炎症を誘導する生物学的役割について明らかにする。また、これらの分子群がどのように生体恒常性を破綻させ、疾患に繋がるのかについて解明する。
本研究では、「感染なき免疫応答」を担うダメージ関連分子パターン(Damage-associated molecular patterns; DAMPs)と呼ばれる自己分子群について、特に TCTP(Translationally-controlled tumor protein)などのこれまでのDAMPsの解析によって得られた知見に基づき、TCTPによる炎症促進作用、および、独自の視点から新規に見出しつつあるDAMP分子の同定と機能解析を進めている。自己分子が免疫系に認識されるようになる分子機構を解明し、DAMP分子群が炎症を誘導する生物学的役割について明らかにしたい。当該年度の研究において、細胞外TCTPの役割を解析するための中和抗体の作成を進め、複数ある抗体候補の中から腫瘍抑制効果がある一つの抗体クローンを得た。また細胞外放出型TCTPを 作成し、TCTPの機能解析を進めている。また、新たなDAMPsの探索も進め、T細胞の活性化を抑制するオンコメタボライトとしてスペルミジンを同定した。スペルミジンは腫瘍死細胞から放出され、CD8T細胞の活性化を阻害することで腫瘍免疫を低下させる可能性がしめされた。またさらに、DAMP候補分子をいくつか得ている。今後候補分子の絞り込みを行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
これまでの解析から、細胞外に放出されたTCTPがTLR2シグナル伝達経路を活性化し、腫瘍の増殖を促進することを見出した(Nat. Immunol., 2021, 22: 947- 57)。一方で、TCTP分子のどのような特徴が自然免疫受容体に認識されるのか、また、腫瘍以外の炎症性疾患病態におけるTCTPの役割については分かっていない。当該年度において、細胞外TCTPによる炎症促進作用を解析するために、中和抗体の作成を行い、いくつかの有望な抗体クローンの中から腫瘍抑制効果がある抗体クローンを一つ選択した。これを用いて細胞外TCTP の機能について解析することができると考えている。また、細胞外TCTPを認識する自然免疫受容体についても詳細が明らかとなりつつある。これらのことから TCTPに関する当該年度の検討は順調に進んでいると考えられる。また、新たなDAMPについて、腫瘍死細胞から放出されたスペルミジンがCD8T細胞の活性化を抑制することを示す知見を得た。そのメカニズムについて、スペルミジンがコレステロール合成を低下させることで細胞膜上でのシグナル伝達分子の凝集が起きにくくなり、シグナル伝達が効率良く起きないことが原因の一つと考えられた。これらの結果をまとめ論文として報告した。まら新たなDAMP候補分子について精製を行い、質量解析からいくつか候補分子が得られている状況である。これらのことから、研究を進めるための準備が順調に進んでおり、当該研究は概ね順調に進展していると考えている。
当初の研究計画に沿って検討を進める予定である。TCTPについては中和活性の強い抗体を選択し、炎症や腫瘍モデルでの細胞外TCTPの役割について解析を進めていく予定である。 また、TCTPノックアウトマウスでの検討も同時に進めていく予定である。TCTPによる自然免疫シグナル伝達の活性化機構について、TLR2と共役するTLR1、TLR6の役割についてさらに解明を進める。 新たな炎症誘導性DAMP分子について、候補分子の解析を進めて同定を目指す。候補分子のKO細胞の樹立、マウスの入手を進め、疾患における役割を解析するための基盤を構築しつつ、同定したDAMP分子の免疫制御における役割について明らかにしていく。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
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