研究課題/領域番号 |
23K24155
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補助金の研究課題番号 |
22H02894 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49070:免疫学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 貴志 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (00415225)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,510千円 (直接経費: 12,700千円、間接経費: 3,810千円)
2024年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2023年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2022年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
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キーワード | PDLIM1 / LIMタンパクファミリー / 原発性免疫不全症 / Th17細胞分化 / 自己抗体産生 / NF-κB |
研究開始時の研究の概要 |
PDLIM1は炎症反応の負の制御因子であるが、最近発見されたヒトのPDLIM1欠損症は、幼少期には過剰な炎症を起こすにもかかわらず、最終的に免疫不全を発症することから、全く新しいタイプの免疫不全症と考えられる。本研究では、PDLIM1の機能異常が免疫不全に至る分子機構を解明するとともに、同様のメカニズムで発症する免疫不全症の症例の探索を行うことにより、新たなヒト免疫不全症の概念を創出する。
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研究実績の概要 |
昨年度までの研究で、若いPDLIM1欠損マウスでは、野生型マウスと比べてTh1, Th17細胞分化がいずれも促進していたにもかかわらず、老年のPDLIM1欠損マウスでは野生型マウスと比べてTh1, Th17細胞分化が著明に障害されることが明らかになった。この機序として、老年のPDLIM1欠損マウスにおいては、慢性的な炎症反応の持続によりT細胞が疲弊化して反応性が低下する可能性が考えられ、これがヒトPDLIM1欠損症で免疫不全が発症する原因であることが示唆された。本年度は、PDLIM1欠損マウスのT細胞が疲弊化する分子メカニズムを解明するために、老年のPDLIM1欠損マウスと野性型マウスのT細胞を用いたRNAシーケンス解析を行い、老年のPDLIM1欠損マウスと野性型マウスのT細胞での遺伝子発現の網羅的な比較解析を行った。すでにRNAシーケンスデータは得られており現在解析中である。また、PDLIM1欠損症患者においては、正常なPDLIM1遺伝子の途中で2塩基が欠失していることがすでに明らかになっている。そこで、このPDLIM1欠損症患者由来の2塩基を欠失したPDLIM1遺伝子を用いて発現ベクターを作成してその活性を調べた。PDLIM1はT細胞の活性化に必須の転写因子であるNF-κBの活性を抑制することにより免疫反応を負に制御している。これに対し、PDLIM1欠損症患者由来のPDLIM1遺伝子は、この本来のPDLIM1遺伝子が有しているNF-κBを抑制する活性を完全に消失していた。以上のことから、PDLIM1欠損症患者においては、PDLIM1遺伝子がまったく機能していないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PDLIM1欠損症においては、慢性的な過剰な炎症反応の持続によりT細胞が疲弊化してT細胞の反応性が低下する可能性が考えられ、これがヒトのPDLIM1欠損症において過剰な炎症反応から免疫不全に至るメカニスであることが示唆された。この免疫不全に至るメカニズムはまったく不明であったので、これが明らかになった意義は大きい。これにより、当初の予測通りヒトPDLIM1欠損症は全く新しいタイプの免疫不全症であることが証明されたと考えられる。また、PDLIM1欠損症患者においては、正常なPDLIM1遺伝子の途中で2塩基が欠失していることがすでに明らかになっている。しかしながら、実際にはまったくRNAやタンパク質自体が発現していないのか、それともPDLIM1遺伝子の一部が欠失したようタンパク質が新たに作られているかなどは不明であった。これまでの研究により、PDLIM1欠損症患者においては、RNAレベルでもタンパク質レベルでも正常なPDLIM1遺伝子をまったく発現しておらず、さらには、機能的にもPDLIM1欠損症患者由来のPDLIM1遺伝子は、PDLIM1遺伝子が本来有している活性を完全に消失していることが明らかになった。この遺伝子の機能不全のメカニズムを解明できた意義も大きいと考えられる。 ただ、他のヒトPDLIM1欠損症症例および類似のメカニズムで発症する原発性免疫不全症の探索に関する研究計画に関しては、2023年度までにはあまり進まなかった。よって、これに関しては2024年度に行う予定にしている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトPDLIM1欠損症の次の2つの病態の分子メカニズムを解明することにより、PDLIM1欠損症における免疫不全の発症機構を解明する。 (1)過剰な炎症反応が免疫不全に至る分子メカニズムの解明:昨年度までの研究で、老年のPDLIM1欠損マウスにおいては、慢性的な炎症反応の持続によりT細胞が疲弊化して反応性が低下する可能性が考えられ、これがヒトPDLIM1欠損症で免疫不全が発症する原因であることが示唆された。本年度は、引き続きRNAシーケンス解析を用いて、老年のPDLIM1欠損マウスと野性型マウスの遺伝子発現を詳細に比較解析することにより、PDLIM1欠損マウスのT細胞が疲弊化する分子メカニズムを解明する。これによりヒトのPDLIM1欠損症において免疫不全が起こる分子機構を明らかにできると考えられる。また、T細胞の疲弊化を解消する治療法である抗PD-1抗体、メトホルミン、Nr4a阻害材などを用いて、PDLIM1欠損マウスの免疫反応の異常が改善されるかどうかを検討する。 (2)他のヒトPDLIM1欠損症症例の探索:これまで、多くの種類の原発性免疫不全症が報告されてきた。最近の研究の進歩によりその原因遺伝子がかなり明らかになってきたが、未だに全症例の50-70%は原因遺伝子が不明である。この中には、今回のPDLIM1欠損症のように、免疫系を抑制する分子の欠損による過剰な炎症反応の結果として免疫不全を発症するものが見過ごされている可能性もあると考えられる。そこで、これまで症例報告はされているが原因遺伝子が不明の原発性免疫不全症に関して、ゲノムDNAを用いた全エクソームシーケンス法や、EBウイルスで不死化したB細胞由来のタンパク質を用いたウェスタンプロット法により、PDLIM1や上記の他のLIMタンパクの欠損によって免疫不全を呈する疾患の同定を試みる。
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