研究課題/領域番号 |
23K24323
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補助金の研究課題番号 |
22H03062 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 清顕 愛知医科大学, 医学部, 教授 (50551420)
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研究分担者 |
宇根 瑞穂 広島国際大学, 薬学部, 客員教授 (20144826)
大澤 匡範 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (60361606)
梅澤 一夫 愛知医科大学, 医学部, 教授 (70114402)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2024年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2023年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2022年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
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キーワード | B型肝炎ウイルス / 侵入機構 / 侵入阻害 / 感染制御 / ウイルス侵入機構 / 胆汁酸誘導体 / 侵入阻害剤 |
研究開始時の研究の概要 |
我々は、胆汁酸誘導体の一つであるINT-767がHBVのエンベロープ蛋白質の疎水性領域に結合してHBVの感染を強力に阻害することを発見した(Ito K et al. Hepatology. 2021)。本研究によりHBVの肝細胞内への侵入機構を分子レベルで解明し、胆汁酸誘導体や低分子化合物を利用して、より有効性および安全性が高い新たな感染阻害剤を開発する。HBVと同様に新型コロナウイルスやヒト免疫不全ウイルスなどのエンベロープウイルスもエンベロープ蛋白質の疎水性領域を利用して細胞膜やエンドソーム膜と融合して感染が成立するため、本研究成果は他のエンベロープウイルスに対する治療薬開発にも繋がる。
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研究実績の概要 |
B型肝炎ウイルス(HBV)感染に対しては現行の治療では完全排除が望めず、多くの持続感染者が差別の問題や発癌のリスクを抱えている。我々は、胆汁酸誘導体の一つであるINT-767がHBVに直接結合してHBVの感染を強力に阻害することを発見した。INT-767は副反応によりヒトへの投与が難しいため、本研究によりHBVの侵入機構を分子レベルで解明し、有効性および安全性が高くHBVの侵入を完全に阻害する胆汁酸誘導体の開発を進めた。HBVの持続感染者においても、感染している肝細胞は全体の一部であり、未感染肝細胞への感染を完全に阻害することができればHBVの排除は可能になる。 我々は、本研究において未感染肝細胞への感染を完全に阻害するために、肝臓におけるHBVの感染受容体であるナトリウム依存性胆汁酸輸送担体(NTCP)を介した感染だけでなく、隣り合う細胞間での感染(cell to cell transmission: CCT)が存在するか、また存在するとしてその持続感染維持に与えるインパクトを解析した。HBV感染受容能をもつGFP-NTCP安定発現株を樹立しCCTの有無を確認したところ、CCTの存在は否定的であった。 HBVはpreS1領域のN末端側やC末端側の疎水性領域を利用してNTCPとの結合やエンドソーム膜と膜融合して巧みに細胞内に侵入していることが判明した。また、INT-767はHBVのpreS1領域とNTCPとの結合を阻害するだけでなくエンドソーム膜との膜融合も阻害するという結果を得た。 慶應義塾大学薬学部との共同研究により、INT-767のpreS1領域への結合様式を解明するために、NMR解析に適したINT-767と相互作用するpreS1部分ペプチドのサイズを決定した。さらには、安定同位体標識されたpreS1部分ペプチドの発現系を確立し、NMRシグナルの観測にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
未感染肝細胞への感染を完全に阻害するために、NTCPを介した感染だけでなくCCTの有無およびそのインパクトを解析した。HBV感染受容能をもつGFP-NTCP安定発現株を樹立し、CCTのみならずエンドソーム膜との膜融合も評価を可能にする実験系を構築した。その結果、胆汁酸誘導体INT-767がHBVのpreS1領域とNTCPとの結合を阻害するだけでなくCCTやエンドソーム膜との膜融合も阻害するという結果を得た。 INT-767および類似しているが異なる化学式を持つオベチコール酸をヒト肝細胞キメラマウスに経口投与し肝臓のRNA-seq解析を行った結果、特異的に抗HBV効果に関連するシグナル伝達経路の遺伝子発現変動を認め、INT-767が持つ新規の抗HBV作用機序を発見した。 慶應義塾大学薬学部との共同研究によりINT-767のpreS1領域への結合様式解明に向けて、NMR解析に適したINT-767と相互作用するpreS1部分ペプチドのサイズを決定した。さらには、安定同位体標識されたpreS1部分ペプチドの発現系を確立し、NMR解析が可能になった。 リード化合物であったAH-337の薬物動態および毒性、安全性評価をするために、ヒト肝細胞キメラマウスに経口投与した。投与後のマウスより採取した血液および胆汁よりAH-337が検出されたことから、本薬剤が腸肝循環することが示唆された。同マウスの肝臓を使用したRNA-seq解析の結果、肝毒性を示すような遺伝子変動は認められなかった。 胆汁酸誘導体ライブラリをin vitro HBV感染モデルに使用した結果、これまでのリード化合物であったAH-337 よりも高い抗HBV効果を持つAH-366 およびAH-390 を見出した。 以上のことから、本研究は予定した計画に対しておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、胆汁酸誘導体または低分子化合物とHBVとの結合様式を解明するため、in vitro HBV感染モデルおよびin vivo HBV感染モデルを使用した解析を進める。さらに慶應義塾大学薬学部との共同研究により構築したNMR解析法を使用して、さらに詳細なHBV preS1領域と胆汁酸誘導体との結合様式を解明する。preS1・NTCPモチーフとNTCPの結合様式を標的に、有効な胆汁酸誘導体もしくは低分子化合物をデザイン、合成展開し、HBVに対する感染阻害効果を検証する。また、preS1-エンドソーム膜融合定量システムを使用し、HBVのCCTおよびエンドソーム膜との膜融合を標的としたHBV阻害薬の開発を進める。
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