研究課題
基盤研究(B)
骨の細胞と神経・血管系はお互いにネットワークを形成し、外界の環境の変化やストレスを感受していると考えられている。近年、研究代表者らは、骨組織・筋組織内の神経・血管の詳細な走行が観察可能な独自の筋骨格系透明化技術を開発し、筋骨格系組織の恒常性維持には神経・血管系が重要である可能性を見出している。そこで本研究は、筋骨格系透明化技術・三次元イメージング・宇宙実験といった最先端技術を駆使し、筋骨格系組織の恒常性維持における神経・血管系の生理的・病態生理的意義を明らかにする。また、透明化技術を様々な骨疾患の病態解析に応用し、新規治療法の開発にも繋げる。
1)筋骨格系透明化技術を用いた三次元イメージングと神経系による骨恒常性維持機構の解明骨透明化技術を用いてSox10-Venusマウスの長管骨の三次元イメージングを実施したところ、神経は特定の一点から長管骨内へと侵入し、骨内に侵入後、近位・遠位へと投射することを見出した。また、マウス長管骨内に侵入する神経を外科的に切離する除神経モデルを独自に確立し、神経が切離された骨組織の解析を行ったところ、骨内の神経形成の著しい低下と、骨形成の低下に起因する骨量の減少が認められた。骨内神経の大半はカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を発現する感覚神経であることから、除神経を行ったマウスにCGRPの持続皮下投与を行ったところ、CGRPの投与により除神経による骨量減少は有意に抑制された。さらに、CGRPがマウス骨芽細胞の活性や分化に与える影響を検討したところ、CGRPの添加により骨芽細胞の活性は亢進し、骨形成が促進されることも見出した。これらの結果から、骨内に侵入する感覚神経がCGRPの分泌を介して骨芽細胞の活性を調節し、骨量ならびに骨恒常性の維持に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。なお、本研究成果をまとめた論文はScientific Reports誌に掲載された(佐藤ら、Sci Rep. 2023)。2)神経・血管系に着目したメカニカルストレス・重力による筋骨格系恒常性維持機構の解明メカニカルストレス減少/増加モデルマウスの透明化三次元構造解析:宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、宇宙微小重力環境で飼育されたマウスおよび人工過重力環境飼育装置で飼育されたマウスの筋骨格系組織の透明化三次元構造解析等を実施し、メカニカルストレスの減少/増加が筋骨格系組織の神経・血管系に与える影響を検討した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り概ね順調に研究は進行している。
1)神経・血管系に着目したメカニカルストレス・重力による筋骨格系恒常性維持機構の解明a)メカニカルストレス減少モデルマウスの透明化三次元構造解析:2022年度に引き続き、2023年度も宇宙微小重力環境で飼育されたマウスの筋骨格系組織の透明化三次元構造解析等を進め、メカニカルストレスの減少が筋骨格系組織の神経・血管系に与える影響を明らかにする。 b)メカニカルストレス増加モデルマウスの透明化三次元構造解析:2022年度に引き続き、2023年度も人工過重力環境飼育装置で飼育されたマウスの筋骨格系組織の透明化三次元構造解析等を進め、メカニカルストレスの増加が筋骨格系組織の神経・血管系に与える影響を明らかにする。2)筋骨格系透明化技術の骨代謝異常疾患の病態解析への応用a)閉経後骨粗鬆症:卵巣摘出術を施行したマウスの筋骨格系組織の透明化三次元構造解析等を実施し、閉経後骨粗鬆症の進行が筋骨格系組織内の神経・血管系のネットワークに与える影響を明らかにする。 b)骨折治癒:マウス長管骨の骨折モデルを確立し、骨折部の透明化三次元構造解析等を実施することで、骨折の治癒過程における神経・血管の伸長や分布の変化について明らかにする。 c)がんの骨転移:マウスの尾動脈より高転移能がん細胞株を移植して大腿骨および脛骨への骨転移を誘導し、形成された骨転移病変の透明化三次元構造解析等を実施することで、骨転移の形成過程における神経・血管の分布の変化やがん細胞との相互作用を明らかにする。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
JCI Insight
巻: 8 号: 7
10.1172/jci.insight.154925
Scientific Reports
巻: 13 号: 1 ページ: 4674-4674
10.1038/s41598-023-30492-4
Stem Cells
巻: - 号: 4 ページ: 011-011
10.1093/stmcls/sxac011
Experimental & Molecular Medicine
巻: 54 号: 6 ページ: 753-764
10.1038/s12276-022-00779-z
Stem Cell Reports
巻: 17 号: 7 ページ: 1576-1588
10.1016/j.stemcr.2022.06.001
Journal of Biological Chemistry
巻: 298 号: 9 ページ: 102342-102342
10.1016/j.jbc.2022.102342
Bioengineering
巻: 9 号: 10 ページ: 490-490
10.3390/bioengineering9100490
https://www.tmd.ac.jp/press-release/20230322-1/