研究課題/領域番号 |
23K24506
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補助金の研究課題番号 |
22H03247 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56070:形成外科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡崎 睦 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (50311618)
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研究分担者 |
藤澤 興 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (00878390)
金山 幸司 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40612601)
栗田 昌和 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (20424111)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2024年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
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キーワード | 皮膚付属器再生 / 遺伝子導入 / 皮膚付属器誘導 / レンチウイルスベクター / ヒト免疫組織化学染色 / 付属器再生 / 創傷治癒 / 抗ヒト核抗体 |
研究開始時の研究の概要 |
現在まで開発されている組織工学による皮膚は、真皮と表皮から構成されたものであり、毛包・脂腺などの付属器が含まれないため、乏毛かつ潤いに欠ける乾皮の状態になる。また、男性型脱毛症や熱傷・外傷が原因の瘢痕性禿髪など、失われた毛髪の再獲得に対する需要は多い。本研究では、臨床的に実装が可能かつ安全な方法で必要な遺伝子群を遺伝子導入し、皮膚付属器誘導能を付与したヒト上皮・間葉系細胞を共移植することによって、皮膚付属器の再生を実現し、無毛・乾皮症の根本的な解決法となる新しい治療法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
皮膚付属器を伴う皮膚再生を実現することは、無毛・乏毛・乾皮症の根本的な解決となる新しい治療法となりうる。我々は、マウス成体由来の上皮・間葉系細胞に特定の遺伝子群を遺伝子導入することによって「成熟した毛髪を含む皮膚付属器の再構成能を与える方法」の開発に成功してきた。本研究では、この技術をヒト細胞に応用するべく、研究を進めている。 臨床応用を想定して、成人皮膚由来細胞に対する毛包・皮膚付属器誘導能付与方法の開発を進めるため、ヒト成人由来ケラチノサイトと脂肪由来間葉系細胞及び線維芽細胞を用いた検討を行った。それぞれ培養条件下に、ネオマイシン・ピューロマイシンによる薬剤選択を併用したレンチウイルスベクターを用いて、既に同定している皮膚付属器再構成能・再生能・誘導能を付与するための遺伝子セットについて遺伝子導入を行った後、免疫能の低いNSGマウスに移植した。また、毛包に関連する遺伝子導入効率をさらに向上させるため、遺伝子導入を行った後、MACS(magnetic-activated cell sorting)やFACSを用いて、毛包特異的な表面膜抗原を発現している細胞のみを移植した。今のところ組織切片による組織学的形状評価ではヒト細胞による発毛の証明には至っていない。 一方、ヒト細胞の検出法として、抗ヒト核抗体や抗ヒトミトコンドリア抗体を用いて固定や膜透過処理の方法・時間など、様々なヒト免疫組織化学染色の手法を検討・最適化を行い、組織内の1細胞まで可視化できる精度の高い検出法を確立した。また、遺伝子導入による発毛をより多角的に評価する目的で、植皮による無毛マウス実験モデルを新たに構築した。パジェット式デルマトームを用いてマウス皮膚を特定の厚みにして植皮することで、植皮された部位を多毛から無毛まで調整する手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスに対するヒト細胞移植にあたり、当初は免疫拒絶反応や遺伝子導入効率が低い問題があったが、マウスの種類をヌードマウスからNSGマウスに変更し、さらにウイルスベクターをレトロウイルスからネオマイシン・ピューロマイシン選択によるレンチウイルスベクターに変更することで、ヒト細胞のマウス組織への生着率が向上し、実験系として安定するようになった。さらに、RNA-seqにより特定の毛包特異的な細胞表面抗原を発現している細胞が毛包に寄与している可能性が示唆されたため、MACSやFACSを用いてそれを発現している細胞のみを移植に用いるなど、移植細胞の検討を重ねている。今のところヒト細胞による発毛の確証を得るには至っていないが、まだ試行回数が少ないことから、今後の研究の進捗を目指している。 また、ヒト細胞検出法についてヒト免疫組織化学染色の手法を検討した。組織の固定時間に関してヒト細胞の抗原性に合わせて通常の切片作成プロトコールより短くし、予め蛍光を付与した抗ヒト核抗体や抗ミトコンドリア抗体を用いて、それぞれ膜透過処理やブロッキングの時間を調整した。また、組織形態を厳密に保ったまま観察するため、川本法により組織切片を作成した。その結果、抗ヒト核抗体での免疫染色により、組織内の1細胞までヒト細胞を検出できる確度の高い手法を確立できた。 さらに、遺伝子導入による発毛をより多角的に評価する目的で、新たな無毛マウス実験モデルを確立した。従来の、シリコンチャンバーを装着した潰瘍面に対する細胞移植では、無毛ではあるものの生着面積が極端に少なくその後の遺伝子導入実験に耐えなかったが、今回、パジェット式デルマトームを用いて植皮の厚さを全層から分層まで幅広く検討し、特定の厚みに調整することで、組織学的に毛包をほぼ含まない皮膚を広範囲に作成することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた知見をもとに、NSGマウスに対して、薬剤選択を併用したレンチウイルスベクターで遺伝子導入し毛包特異的な細胞表面抗原を発現したヒト成人由来ケラチノサイト・ヒト成人由来間葉系細胞を移植する実験系を繰り返し、潰瘍面から発毛を誘導できることを確認する。得られた毛の性状観察やヒト免疫組織化学染色により、新生した皮膚付属器がヒト細胞由来であることの証明を行う。細胞数や上皮細胞・間葉系細胞の割合、移植培地など、細胞移植条件についての検討や、移植後の創面管理の条件についての検討も同時に行っていく。これらによって得られた結果を元に、効率良くヒト付属器の再生を誘導する方法論の確立を目指す。 また、ヒト免疫組織化学染色によるマウス皮下組織内ヒト細胞検出法を確立したことを論文化し報告する。さらに、新たに開発した植皮による無毛マウスモデルに対して、毛髪に関連する遺伝子群をAAV(adeno-associated virus)を用いて導入し、皮膚付属器再生に関する新知見を模索していく。
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