研究課題/領域番号 |
23K24988
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補助金の研究課題番号 |
22H03734 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63010:環境動態解析関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中坪 孝之 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 教授 (10198137)
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研究分担者 |
内田 雅己 国立極地研究所, 先端研究推進系, 准教授 (70370096)
吉竹 晋平 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (50643649)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2026年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2025年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2024年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 高緯度北極 / ツンドラ / 温暖化 / 炭素循環 / レジームシフト |
研究開始時の研究の概要 |
北極域では急激な温暖化が進行中であるが、高緯度北極のツンドラにおいては、現時点で、植生構造や物質循環過程を含む生態系レベルの劇的変化は観測されていない。今後もこの状態が続くのか、ある時点で異なる状態に移行(レジームシフト)するのかは、北極生態系の将来を考える上で最も重要な問いの一つである。 本研究は、生態系の構造・機能に直結する炭素循環に着目し、高緯度北極スバールバルの気候条件の異なる地点において1)生態系構成要素の現地測定、2)過去の情報と衛星リモートセンシングによる比較研究、3)モデルによる炭素循環過程の解析を行い、急速な温暖化の下、北極ツンドラで進行しつつある変化を検知、将来予測を行う。
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研究実績の概要 |
本研究は、生態系の構造・機能に直結する炭素循環に着目し、高緯度北極スバールバルの気候条件の異なる地点において1)生態系構成要素の現地測定、2)過去の情報と衛星リモートセンシングによる比較研究、3)モデルによる炭素循環過程の解析を行い、急速な温暖化の下、北極ツンドラで進行しつつある変化を検知、将来予測を行うことを目的としている。 2023年度には、7月から8月にかけて2名がニーオルスン (日本の研究拠点)およびロングイヤービン (チェコ研究拠点)に滞在し、現地調査を実施した。ニーオルスンには自動観測用機器(温湿度計、土壌温湿度計およびタイムラプスカメラ)を設置した。また、携帯型光合成呼吸測定装置を用いて炭素循環モデルのベースになる植物の光合成・呼吸特性の現地測定を行なった。さらに、これまでの研究で得られた情報をもとに、炭素貯蔵量が特に多いことが知られているコケツンドラの純一次生産量、生態系純生産量のモデル推定を行なった。 これらの研究と平行して、スバールバル諸島に広く生育する植物3種(Dryas octopetala、Oxyria digyna、Salix polaris)を対象に、発芽タイミングに対する温暖化の影響に関する室内実験を行った。その結果、3種ともに発芽に特別な処理を必要とせず、4~8 ℃以上で発芽できることが明らかになった。この結果と野外の地表面温度のデータから、現在の温度条件下における3種の発芽可能な期間が6月中旬から8月中旬までであることが推定された。また、地表面温度が2 ℃および4 ℃上昇した場合には、発芽可能な期間の開始がそれぞれ1~2週間および2~3週間早まると予測されただけでなく、高山生態系での報告事例があるように、高緯度北極でも種子散布直後の秋に発芽が可能になると予測され、温暖化が種子発芽のタイミングを大きく変化させる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、2022年度の夏季に現地調査・作業を行い、翌年3月までに植物の分析・データ解析を行う予定であったが、研究協力機関(チェコ)側の現地調査区設定の遅れにより、予定していた北極での現地調査・植物の採集作業が実施できなかった。このため、研究費の一部を翌年度に繰越した。 2023年度には、7月から8月にかけて2名がニーオルスンおよびロングイヤービンに滞在し、調査を実施した。ニーオルスンの1地点に自動観測用機器(温湿度計、土壌温湿度計およびタイムラプスカメラ)を設置したが、ロングイヤービンの調査予定地点については、野外調査の結果、当初の研究には適さないことが判明したので、新たに調査地点を設けることにした。ロングイヤービンとニーオルスンにおいて、携帯型光合成呼吸測定装置を用いて炭素循環モデルのベースになる植物の光合成・呼吸特性の現地測定を行なった。 2024年度には、ロングイヤービンの新たな調査地点に自動観測用機器を設置し、前年に引き続き植物の光合成・呼吸特性の現地測定を実施し、植物と土壌のサンプリングを行う計画である。これが予定通り実施できれば、初年度の遅れはおおよそ取り戻せると考えているが、急速な円安傾向により、滞在期間、人数を減らす必要が生じている。この点については、他の外部資金への申請を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、すでに設置済みの自動観測用機器(温湿度計、土壌温湿度計およびタイムラプスカメラ)のデータ回収を行い、モデル解析に供する。また、新たな調査地点に自動観測用機器を設置し測定を開始する。2025年度からは、ニーオルスン、ロングイヤービンに加え、新たにホーンスンド(ポーランド研究拠点)に自動観測用機器を設置し、植生・土壌の現地調査を行い、リモートセンシングのためのデータ収集を行うべく、ポーランドの研究機関と調整を進めている。 引き続き、携帯型光合成呼吸測定装置を用いて、炭素循環モデルのベースになる植物の光合成・呼吸特性の現地測定を行い、植物および土壌の採取を実施する。 2026年度は、ホーンスンドにおいて、ニーオルスン、ロングヤービンと同様の集中測定、サンプリングを行う。また前年に設置した自動観測用機器のデータ回収を行う。上記の現地観測で得られたデータと炭素循環モデル(Uchida et al. 2016)を組み合わせることによって、広域の炭素循環過程とその変動要因の解明を行うとともに、温暖化による土壌炭素動態も含めた炭素循環の変化をシミュレーションにより解析する。また、これと並行して、過去に現地で採取されて保管されている土壌・ピートサンプルについて炭素年代測定を実施し、過去から現在までの炭素蓄積過程についての情報を得る。 各地点における炭素循環過程とリモートセンシング解析方法の改良は、研究期間を通じて得られたデータを用いて随時進めていく。現地踏査、既存の植生図、航空写真等をもとに衛星リモートセンシングデータから植生の被度や群集解析のためのアルゴリズムの開発を行い、広域評価につなげる。さらに、炭素循環モデルと組み合わせることにより、広域かつ長期的な予測評価をめざす。
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