研究課題/領域番号 |
23K24995
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補助金の研究課題番号 |
22H03741 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63020:放射線影響関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中田 慎一郎 大阪大学, 高等共創研究院, 教授 (70548528)
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研究分担者 |
宇井 彩子 東北大学, 加齢医学研究所, 准教授 (00469967)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)
2025年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 相同組換 / DNA1本鎖切断 / ゲノム編集 / ニック / 相同染色体間組換 / 複製 / 遺伝子治療 / 相同組換え / CRISPR/Cas9 / 相同染色体 |
研究開始時の研究の概要 |
相同染色体を鋳型とする相同組換では、ヘテロ接合性が喪失する危険がある。最近、申請者らは、両方の相同染色体にDNA1本鎖切断(SSB、ニック)が発生した場合、高頻度で相同染色体間組換え(IHR)が発生することを発見した。低線量のX線照射では、SSBはDSBの25倍の高頻度で発生することを考慮すると、ニックの相同染色体間組換えはゲノム変異の発生源として無視できない。 本研究課題では、Cas9D10Aによる部位特異的なニックを利用し、この新しいDNA修復経路であるマルチプルニックのIHRメカニズムを解明する。
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研究実績の概要 |
DNA2本鎖切断(DSB)の修復経路の一つとして相同組み換えがある。多くの場合、姉妹染色分体を鋳型とした正確なDNA修復が行われる。相同染色体を鋳型とする修復が起こる場合には、ヘテロ接合性が喪失する危険がある。しかし、頻度が極めて低いため、これまで重視されなかった。最近、申請者らは、両方の相同染色体にDNA1本鎖切断(SSB)であるニックが発生した場合、DSB発生時を大きく上回る頻度で相同染色体間組換え(IHR)が発生することを発見した。 Cas9D10AとsgRNAを用いてゲノム上に部位特異的なニックを発生させることでIHRを誘導した。既知のDNA修復に関与する遺伝子のノックアウト、ノックダウン細胞において、ニック誘導型IHR(N-IHR)の効率を測定した。N-IHRにどの既知遺伝子がどの程度関与するのか明らかとなってきた。一方で、DSBのHRには必須にもかかわらず、N-IHR効率に全く影響を及ぼさない遺伝子も存在する。 N-IHRでは、遺伝子変異やシングルヌクレオチドポリモルフィズム(SNP)を利用して、アレル特異的なニック(野生型配列にはニックを発生させない)を発生させると、変異およびSNPは野生型に変換される。この特徴を生かし、多様な遺伝子において、N-IHRの誘導を実施している。Cas9-ガイドRNAの標的特異性は、すなわちオフターゲット認識をしやすいかどうかと同義である。しかし、遺伝子変異・SNP配列がCas9D10AsgRNAの標的となり、対立遺伝子上の配列はオフターゲット認識がされにくくなるようにガイドRNAをデザインしても、遺伝子変異・SNP配列に対する特異性が示されない場合が多く存在することが明らかとなってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではTK1遺伝子に複合ヘテロ接合体変異を持つリンパ芽球細胞TK6261(本研究室においてTK6細胞から派生させた細胞)を用いた。エクソン4の1ヌクレオチド挿入が野生型に修正されるとTK1活性を回復する。TK1活性が回復した細胞の割合を測定することにより、IHR効率を解析した。既知のDNA修復に関与する遺伝子のノックアウト、ノックダウン細胞において、ニック誘導型IHR(N-IHR)の効率の測定を実施した。本実験においては、DSBを発生させたポジティブコントロールが重要である。CRISPR/Cas9を取り込ませた細胞からTK1活性陽性の細胞を濃縮した後、アンプリコン次世代シーケンスにより解析すると、95%以上のリードが元の挿入ではない別のヌクレオチドの欠失によりTK1が回復してしまい、IHRによる遺伝子修正は検出できない。DNA2本鎖の両方のDNA鎖にCas9D10Aを用いて2つずつニックを発生させ、paired nick-induced DSB(pnDSB)とした場合、IHRによるTK1回復は90%以上IHRに依存していた。pnDSBがポジティブコントロールとして適切であることが示された。 DSBのHRに関与すると知られている遺伝子のノックダウン細胞・あるいはノックアウト細胞においてN-IHR効率を測定すると、多くの遺伝子ノックアウト・ノックダウンに対してN-IHR効率の低下が示された。しかし、その低下の割合はpnDSBにおける低下率の50%程度であった。この結果が、N-IHRがpartialにHR修復因子に依存していると考えるべきか、あるいは、HR修復因子に完全に依存するpathwayと依存しないpathwayの混在であるのか、今後の研究により明らかにしていく。このように、次年度に向けて着実に研究が進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
DNA修復には、DNAに関わる細胞代謝、例えば、複製や転写が影響を及ぼす可能性がある。この場合、DNA2本鎖のどちらにニックが発生するかがDNA修復経路の決定に大きく影響を及ぼすことが考えられる。そこで、Cas9D10Aのみならず、Cas9H840Aを用いた実験を実施することで、DNA鎖特異性有無を検証していく。また、複製の停止や転写の停止がIHRに及ぼす影響を検証していく。ただし、本研究においては、DNA複製の停止のために、DNA損傷を誘導するような薬剤を利用することができない。また、相同組換えを抑制するようなポリメラーゼ阻害剤も使用できない。適切な手法を十分に検討した上で研究を実施していく。 HR修復因子の中でも、ノックアウトによりN-IHRへの影響が認められない因子も見つかっている。なぜN-IHRへの影響が起こらないのか、さらに検証を進めていく。 Cas9の標的認識は、PAMに近い位置に変異があると難しくなりやすいと考えられてきた。しかし、我々が検証したところ、必ずしもそうではないことが明らかとなった。今後、様々な遺伝子変異・SNPを利用したN-IHR実験を行うに際し、事前に特異性を検証した上で実験を実施していく。
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