研究課題/領域番号 |
23K25061
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補助金の研究課題番号 |
22H03807 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分64060:環境政策および環境配慮型社会関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鈴木 研悟 筑波大学, システム情報系, 助教 (50634169)
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研究分担者 |
大沼 進 北海道大学, 文学研究院, 教授 (80301860)
澁谷 長史 筑波大学, システム情報系, 准教授 (90582776)
本城 慶多 埼玉県環境科学国際センター, 温暖化対策担当, 主任 (30770622)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2024年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2023年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2022年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
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キーワード | エネルギー政策 / エージェントベースシミュレーション / ゲーミング / 心理学実験 / 機械学習 / 実験 / AI |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、エージェントベースシミュレーション(ABS)とゲーミング実験を段階的に組み合わせ、エネルギーシステムの具体的な構造と政策が人間の認知・行動に与える影響を同時に考慮する、新しい政策評価法を提案する。ABSは多数の条件を網羅的に検証するのに向いており、ゲーミング実験は政策に対する人間のリアルな反応を調べるのに役立つ。本研究の特色は、世界最新の潮流である社会課題のゲーム化を取り入れ、ABS・実験双方の長所を活かす政策評価に挑戦する点にある。この手法は政策が人間の心を動かし長期的な技術選択を変えるメカニズム全体の評価を実現するものであり、公共政策を扱う多様な研究領域で役立つと期待できる。
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研究実績の概要 |
2023年度の主な成果は以下の通りである。 (1) 実験とABSの比較分析:同じゲームを用いた実験(人間によるゲームプレイ)とエージェントシミュレーション(AIによるゲームプレイ)の結果の違いを調べた。エネルギー技術選択の観点では、AIが炭素税なし条件でより最適解に近い戦略を見出したのに対し、人間は炭素税あり条件でより優れた戦略を見出した。価格競争に関しては、AIの行動が適応的かつ合理的であったのに対し、人間の行動はそうではなかった。これらの結果は、エージェントシミュレーションが戦略的状況下での適応的行動を調べるのに向くのに対し、実験は人間の非合理的側面に起因する政策の失敗を予見するのに適することを示唆する。 (2) 電源選択ゲーム: 卸電力市場モデルを拡張し、1年間の長期的なシミュレーションを可能にした。さらに、AIエージェントが1年毎に電源投資を意思決定する電源選択モデルを開発し、卸電力市場モデルと統合的に運用することで、短期的な市場価格変動が長期的な電源建設に与える影響を調べる基盤を構築した。 (3) 寒冷都市ゲーム:ゲーム理論におけるシャープレイ値の考え方を応用することで、寒冷地のマイクログリッドに参加する多様な経済主体の低炭素化への寄与度を数値化する方法を考案した。分析の結果、PV 導入による系統電力の代替を行える戸建住宅・事務所・店舗に加え、HP 給湯器導入による給湯需給の電化を行える店舗の貢献度が相対的に高いことがわかった。 (4) 人間らしく行動するAIのデザイン:人間によるゲームプレイデータをAIに学習させることで、人間らしくふるまう機械エージェントを構築する方法を検証した。450人分の「木こりゲーム」プレイデータを3層パーセプトロンに学習させた結果、教師データの傾向を相当程度に再現できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 実験とABSの比較分析:実験とABSの長所と短所を実証的に示すことができた。さらに、人間が参加する実験結果の詳細な分析を通じて、炭素税の課税を事前に周知しても行動変容につながらないことを再度確認し、さらに、炭素税が化石燃料消費という非協力行動に対する罰則として認識され、市場参加者の規範意識を損なうことで、自発的なエネルギー転換をかえって妨げる可能性があることが示唆された。 (2) 電源選択ゲーム: 現在、40年間の電源選択を扱うシミュレーションモデルを構築中であり、再生可能電源の買取補助政策(FIP)の効果を検証するシミュレーションに取り掛かっている。暫定的な結果として、現実の卸電力市場でも採用されているシングルプライスオークション制度が、再生可能電源の事業者から投資拡大のインセンティブを失わせている可能性が示唆されている。 (3) 寒冷都市ゲーム:数理計画モデルの解にシャープレイ値の考え方を当てはめ、系全体の費用を削減する全体最適解が個々の経済主体にとって必ずしもベストな解ではないとの示唆を得た。現在、さらに踏み込んだ分析を行うため、仮想発電所の形成をテーマとするマルチプレイヤーゲームを開発中である。 (4) 人間らしく行動する機械エージェントのデザイン:教師あり学習である3層パーセプトロンと教師なし学習であるクラスタリングの考え方を統合する学習アルゴリズムを実装し、教師あり学習単体よりも高精度の学習が可能になることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度の主な研究内容は以下の通りである。 (1) 実験とABSの比較分析:前年度は、実験・ABS双方を合わせた統合的分析を行い、両手法の役割分担について実証的な観点からの示唆を得た。今年度はさらなる政策評価を行うと共に、得られた知見を精査し国際会議発表と英文ジャーナルへの掲載を目指す。 (2)電源選択ゲーム:前年度は、電力オークションのABSを構築し、1年間のシミュレーションを実現した。今年度は、短期的なオークションと長期的な電源建設を並行して行う数十年程度のシミュレーションを実現し、再生可能電源の支援策が長期的な電源構成に与える影響についての示唆を導き、成果を論文にまとめる。 (3) 寒冷都市ゲームの開発:前年度は寒冷都市における需要家の技術選択を模擬するABSについて、文献調査とモデル構築を進めた。今年度はモデルを完成させ、寒冷都市において仮想発電所ビジネスが成立する条件を分析し、成果を論文にまとめる。 (4) 人間らしく行動する機械エージェントのデザイン:前年度は、人間によるゲームプレイデータを学習する機械エージェントを構築し、人間のゲームプレイをABSである程度再現できることを確認した。今年度は、これまでの成果を国際会議で発表するとともに、オンライン実験を通じて人間のゲームプレイデータをさらに集め、研究成果を論文にまとめる。
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