研究課題/領域番号 |
23K25076
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補助金の研究課題番号 |
22H03822 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 正子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (20327993)
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研究分担者 |
吉本 康子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任研究員 (50535789)
下條 尚志 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (50762267)
大泉 さやか 昭和女子大学, 国際学部, 准教授 (50826740)
中村 理恵 東洋大学, アジア文化研究所, 客員研究員 (60933067)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,510千円 (直接経費: 12,700千円、間接経費: 3,810千円)
2024年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
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キーワード | ベトナム / 少数民族語政策 / 民族語教育 / 民族文字 / 正書法 / 国家語 / バイリンガル / 文字 / 少数民族語 / 言語政策 / バイリンガル教育 / ベトナム語 / 民族語 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ベトナム国家の少数民族語政策と代表的な幾つかの少数民族がこれにどのように対応したか、1950年代の南北分断時から現在までの通史を解明する。具体的には、各民族の専門家がフィールドワークと文献調査を実施し、1)言語政策を通じたベトナム国家との関係の変遷、2)自言語と国家語であるベトナム語の少数民族側の捉え方、3)多民族国家ベトナムの少数民族のおかれた状況の共通性と多様性を検証する。そして国民統合という目標の下で、民族の独自性の維持は言語を通じてどのように変容してきたかを民族ごとに明らかにし、少数者をバイリンガルとしていかに社会に内包していくべきかという国家の多言語政策の課題を検討する。
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研究実績の概要 |
前半は日本で先行研究(民族語政策、バイリンガル教育、独自文字など)のレビューを行い、後半は担当少数民族ごとに現地で言語使用実態の調査を行った。代表者は12月に渡航しハノイで専門家に少数民族語政策の経過を聞き、北部ではベトナム語が浸透し30代以下では自身の民族語ができない少数民族が増加していることを確認した。ユネスコは幼稚園か小学校から民族語を教えるべきとベトナムに対し要求しているが、教員もおらずベトナムの現状に合っていないという。D教授は、民族語教育を導入するなら関心のある人たちに教えるような体制をつくる方が現実的だと主張した。自身がヌンのT教授は、以前のように国家ではなく省のイニシアティブで民族語の教科書を編纂している現状を紹介してくれた。代表者は東北山間部のタイ系のタイーとヌンを担当しているため、23年3月にランソン省で、またハノイ市の大学に通う若者にも聞き取りを行ったが、結果タイーは農村出身でもキン(多数派)と同様ベトナム語重視を当然と考え、キンと伍して社会で活躍することを目指す人が多いが、農村でヌンだけの集落で暮らしている地域は、若者でも比較的民族語を維持していることがわかった。ムオン担当者は23年2-3月にかけて渡航し、北部ホアビン省で現地調査を実施、ムオンの村落でホアビン省認定のムオン語表記法の普及状況、言語使用・言語継承に関する観察と聞き取りを実施した。またチャムの分担者は23年3月にホーチミン市とアンザン省のチャムのコミュニティで調査をし、イスラーム学校見学、教員への聞き取りを実施し、ホーチミン市人文社会科学大学で調査についての報告も行った。クメール担当者は、9月にホーチミン市、カンボジア国境のモクバイ、タイニン周辺のクメール系上座仏教寺院にて言語状況について聞き取り、23年1月にはソクチャンで現地の子供たちが日常的にどのような言葉を話しているのか調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同じベトナム国内でも担当少数民族や地域や調査時期により、外国人研究者受け入れに対する態度が異なるため、研究進捗状況については一概に言えないが、2022年度は前半がまだコロナ禍であったのが、後半にはややコロナの影響が弱まったこともあり、研究が前進したことは確かである。科研メンバーの多くが2022年後半からベトナムに約3年ぶりに渡航し、現地調査を進めることができた。 しかし代表者が担当するタイーとヌンは、中越国境地域の東北山間部に居住するが、コロナ禍を経て調査許可が下りなくなっていた。そのため、大規模にアンケートを配るなどの目立つことはできず、つてをたどってインタビューを繰り返すという方法しかとることができなかった。中国がコロナ禍のあいだに中越国境に約3メートルの高さの柵を張り巡らせてしまい、少数民族の国境を越えての自由な行き来は不可能となって、国境をまたいで存在していた民族の世界は分断されてしまっていた。これらが原因で、コロナ以前より中越国境の緊張度は上がっていると感じている。 一方、内陸のホアビン省のムオン地域では、担当者は許可を経て村レベルで調査を実施し、ムオン語表記法の認定が2016年に行われたことをつかみ、その経緯や普及の実態に注目して研究を進め、認定の背景にムオンの宗教儀礼モの世界無形文化遺産化があることなどを解明し、進捗状況は上々であった。中南部チャム地域(ビントゥアン省)、カンボジア国境に近いムスリムのチャム地域では、ホーチミン市人文社会国家大学の教員がカウンターパートとして、一緒に現地に入ってくれてほぼ予定どおりのフィールド調査が可能であった。メコンデルタのクメール地域は、北部とは別の国であるかのようにほぼ自由に調査できるので、2022年度後半からについては望ましい進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、現地調査をさらに全面的に推進する。代表者はタイーとヌンに加えて、ベトナムの華人も担当しているため、北部では考えられない、華人のための華語教育が堂々と行われているメコンデルタのソクチャン省の数県を夏に訪問して、華語学校や会館など華人の結節点になっているところでインタビューを実施する予定である。 ムオン担当者は8月か9月と、2月か3月に2回ベトナムに渡航し、ホアビン省によるムオン語表記法の認定の経緯を引き続き調査するとともに、その表記法を用いた学校教育の中でのムオン語教育の実施状況、それに対するムオン側の反応を中心に研究する。 中南部チャム担当者は、5月と8月にビントゥアン省バクビン県において、チャムの言語使用、継承、普及への取り組み、及び、同省の少数民族言語政策に関する調査を実施する。 ムスリムチャムの担当者は、10日間ほどの2回のフィールド調査を予定しており、6月の1回目はタイニン省と、マレーシアのクアラルンプールに留学しているチャム学生からの聞き取りを実施する予定である。2回目は24年冬にアンザン省、及びホーチミン市での調査を実施する。 クメール担当者は、9月上旬にクメール上座仏教寺院を訪問し、宗教施設がどんな言語教育を行ってきたのかについて調査する予定である。
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