研究課題/領域番号 |
23K25078
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補助金の研究課題番号 |
22H03824 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊谷 樹一 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 教授 (20232382)
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研究分担者 |
近藤 史 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (20512239)
黒崎 龍悟 高崎経済大学, 経済学部, 准教授 (90512236)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2025年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 混交林 / 外来樹 / センダン科 / 家具材 / 土地利用 / 家畜放牧 / 食害 / 植林 / 家畜感染症 / キャッサバ / 陽樹 / 広葉樹林業 / 家具 / 材木市場 / 放牧 / 林業 / タンザニア / 外来早生樹 / 環境保全 |
研究開始時の研究の概要 |
タンザニアの半乾燥地域では、経済の向上と環境保全を意図した造林が急務の課題となっている。本研究では、造林に取り組むときに顕在化する社会内部の課題、軋轢、矛盾の把握を学術的な問いとしながら、それを生態と社会経済の観点から検討して総合的な解決策を構想することを目的とする。物質的、経済的、生態的な価値を有する多目的林(混交林)の林業は、環境の保全機能を有した地域の基幹生業になりうる。当地の環境でも良く育つ外来早生樹を取り込むことで市場価値の高い生態系を創り出す。林業施業をとおして、住民が造林の意義と収益を実感しつつ、社会に内在する課題を克服しながら、劣化した生態系を修復できる林業モデルを構想する。
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研究実績の概要 |
タンザニアの半乾燥地域における生態環境の劣化は農村経済の停滞と深く関係している。わたしたちはこうした地域の生業システムに循環的な林業を組み込むことで、経済基盤の整備と環境の修復・保全の両立を実現できると考えている。これまでの研究から、タンザニア半乾燥地域の生態環境や消費者のニーズに適した樹種を見つけることができた。それはドイツ植民地期に導入されたセンダン科の樹木(Toona ciliata,以下ではトーナと示す)は乾燥した環境でも生長が早く、木材は丈夫で加工もしやすい。しかし、タンザニアでは家具などのハードウッドはもっぱら天然林に依存して広葉樹を植林する習慣がなく、また家畜の食害を受けやすいなどの理由で、トーナが大規模に植林されることはなかった。これまでは市場もなかったが、近年の都市の拡大によって木材の需要が急騰したことを受けて、トーナは環境の保全と生計の向上を担う素材として注目されるようになっている。 この研究では、トーナによる環境の修復を念頭におきながら、トーナの生産と供給が生産地の社会や木材市場に与えるインパクトを把握する。具体的には、2018/2019年に栽植したトーナの林を利用して、植林によって顕在化する社会内部の軋轢や相克を把握し、植林によって生じる課題を生態と社会経済の双方から総合的に捉える。また、村に既存の成木を使って家具を製作し、市場での評価を検証する。さらに、植林地を持続的に利用・保全するための方策として、住民にとって多様(物質的、経済的、生態的)な価値を有する混交林の形成に注目する。上述のトーナ植林地のなかに在来樹を混植することで、家畜による食害の軽減を意識しつつ、多目的で持続的な林の形成を目指していく。そして、このアクションリサーチをとおして、アフリカの環境保全と地域経済の向上に資する植林の意義について検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021/2022年度の干ばつや家畜感染症の発生などによって初年度は思うように調査が進まなかったが、2023年度は日本の畜産学者やソコイネ農業大学の森林科学者などの協力を得ながら、遅れを取り戻しつつある。アフリカのフィールドではこうした予期せぬことがしばしば起こるが、そうした事態もポジティブに捉えていく必要がある。たとえば、2023年の乾季(9月)には野火が発生してトーナの植林地も下草が焼けて一部の樹木に被害が出てしまった。アフリカの半乾燥地での植林は野火との闘いでもあり、わたしたちは被害が少なかったことに安堵したのだが、住民の受け止め方は違っていた。トーナを植林した土地は、長年の耕作と放牧によって疲弊して草も生えない状態だったが、林が形成されていったことで林床には草本が繁茂し、野火が発生するまでになった,と言うのである。住民が野火をとおして植生の回復を連想していることを知れたのは、偶然とは言え、大きな収穫であった。 さらに、野火によってできたギャップは植林地に異なる光環境を生み出し、図らずして多様な状態をつくることができた。住民がこのギャップをどのように利用するかは注視していかなければならない。予期せぬトラブルは、アクションリサーチにとっては人びとの心情や認識を知るうえではまたとないチャンスなのである。
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今後の研究の推進方策 |
トーナの植林が定着する技術的なカギは家畜食害の回避である。タンザニアでは牧夫が監視しながら家畜を放牧するか、草地に家畜を繋牧するのが一般的であるが、作物の収穫が済んだ乾季には刈り跡に放牧されることが多く、このときにヤギとウシが植林した幼樹の茎葉を食べてしまうのである。果樹などは厳重な柵で囲って保護することもあるが、植林地全体を囲うのは容易でない。ただ、まったく方策がないわけではなさそうである。2023年度にヤギとウシにそれぞれGPSを装着して行動域を調べてみると、行動様式にいくつかのパターンがあるように思われた。このパターンを把握できれば、簡易な誘導によって放牧地と植林地を分離できるかもしれない。2024年度は、ブタも加えて、家畜の行動様式をGPSで徹底的に調べることにする。 トーナの木材利用の可能性を把握するため、成木を使って木材の物理的な特性を調べる。木材の分析は、ソコイネ農業大学林学部のマコンダ教授との共同研究のなかで実施する。また、家具職人や材木商などの評価を収集して分析データと照合しながらその実用性について検討する。 林業にとって最大の課題の1つは丸太の搬出である。道路事情の悪いタンザニアでは重い丸太を運び出すことができないので、伐採現場での製材が欠かせない。従来は大鋸を使って伐採した場所で人力による木挽きをしていたが、これにかかる時間とコストが林業の普及を妨げる大きな要因となっている。小規模な流通と効率的な製材について、他地域の事例を収集して、当該地域での可能性を模索する。 植林地を地域の生態系のなかに位置づけるためには、林を恒常的に維持していかなければならない。トーナ材の経済的価値が今後ますます高まることを予期しながら、皆伐されない多目的で多機能な林をつくっていかなければならない。土地保有の動向とも関連させながら、林の存続について住民と協議を重ねていく。
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