研究課題/領域番号 |
23K25117
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補助金の研究課題番号 |
22H03863 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80030:ジェンダー関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
飯田 未希 立命館大学, 政策科学部, 教授 (90572438)
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研究分担者 |
金子 龍司 宮崎公立大学, 人文学部, 講師 (00982307)
ウォント 香織 (ウォント盛香織) 甲南女子大学, 国際学部, 教授 (30348908)
田中 真奈美 東京未来大学, モチベーション行動科学部, 教授 (60454188)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
9,490千円 (直接経費: 7,300千円、間接経費: 2,190千円)
2026年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2025年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2024年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | ジェンダー / 移民 / 戦時期 / 日本 / 移動 / 職業 / 植民地化 / 近代 |
研究開始時の研究の概要 |
研究は3つの枠組みで並行して行われる。第1の枠組みは田中、ウォント盛、金子によって国内での聞き取り調査と現地(パラオ)での聞き取り調査を比較した、パラオ移民の経験の比較である。現地に残った人たちと、帰国者のパラオでの経験に対する解釈の違いを明らかにすることになると予想される。第2の枠組みは飯田によるもので、戦時期に中国大陸や南方に渡った未婚の働く女性たちの経験を当時書かれたものや戦後の回想録などの史料から分析する。第3の枠組みは金子によるもので、戦時期に海外(主に南方)に渡る未婚女性たちがどのようにメディアで表象されたかを分析する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、日中戦争以降の戦時期に南洋に仕事のために渡航した単身の日本人女性について明らかにすることである。2022年度の研究では、戦時期に海外に仕事を目的として渡航した若い単身女性について調査した。研究対象の地理的範囲を研究目的より広く設定しているのは、単身女性の職業のための海外渡航そのものがほとんど研究されていないからである。まずは当時仕事のために海外に移動した当事者や関係者の手記、そして彼女たちについて記述した同時代の新聞や雑誌メディアを調査した。中国大陸への移動に関しては『協和』(満鉄社員会誌)や『興亜』(華北交通社員会誌)なども参考にした。 調査結果から暫定的な分類を示すと、①個人で渡航する、②国策会社など半官半民の大雇用主にまとめて雇用される、③軍属となる、というパターンに分けられる。①は朝鮮半島、台湾、中国大陸に比較的多く、②は満州や中国北部に多い。③は占領下の南洋に多い。 また職場と女性の移動という観点から考えると、満鉄には親と共に移住した1.5世や満州生まれの2世が大正期からタイピスト、電話交換手、事務職などとして働き、一部は管理業務を行っていた。彼女たちの一部は戦時期も働き続けており、彼女たちが作った職場環境の中に、内地からの若い女性たちが新規参入したと考えられる。この傾向は戦時期に設立された華北交通ではより顕著で、植民地育ちの満鉄ベテラン女性社員が華北交通へ出向し、タイピストプールや電話交換所などの職場ルールを作り、内地から大量採用された女性たちを訓練した。 南方の占領地へ渡航した女性たちの多くはタイピスト、事務職、酒保の店員、軍慰安施設の女給などとして働き、その一部は内地の海軍事務所などですでに働いていた。南方への移動についてはまだ調査は不十分だが、戦時期の女性たちの南洋への渡航を相対化するための比較軸はある程度作ることができたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
戦時期の日本人女性の仕事のための移動という問題設定は、これまでなされてこなかった。女性の移動は家族の移動の一部として位置づけられており、単身の女性の移動を議論する場合も、「大陸の花嫁」など渡航先で「家族」となることが前提であった。 また仕事のための女性の移動という問題は、これまで下層階級の問題として位置づけられてきたということもある。本研究が対象とする女性たちの一部はタイピストや事務職など高等女学校卒程度を前提として雇用されていたが、言い換えると彼女たちは高等女学校に通える程度の経済力のある家庭出身だったということである。中流の女性が仕事のために親元を離れて働く、ましてや海外で働くということは、これまでのジェンダー史研究ではほとんど議論されてこなかった。 このため、本研究では単に「戦時期に南洋に仕事のために渡航した単身女性」を研究するだけではなく、彼女たちの相対的な位置づけを明らかにする必要がある。家族ではなく単身で、中産階級出身者も含め多くの女性たちが仕事を求めて海外に渡航するというのは、どういう状況であったのかということを、当時の女性たちの視点から明らかにし、その中で「南洋」という地域に出た女性たちはどのような特徴を持ち、どのような経験をしたのかを明らかにする必要がある。 やや遠回りに見えるが、「戦時期に海外に仕事に出た単身女性」という大きな枠組みから研究をスタートし、徐々に「南洋」へと狭めていくのが最も良いのではと考えている。この意味で、2022年度一年間で南洋と他地域との比較軸を設定できたのは、進度としては順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、いったん「戦時期に海外に働きに出た単身女性」という枠組みで、できれば2023年度中に研究成果を発表(書籍化)したいと考えている。科研費は「南洋に渡航した女性」という枠組みで受けているため問題があるかもしれないのだが、上記の実績や進捗状況で説明したように、「海外に働きに出た単身女性」という枠組みでの研究がされていない中で、「南洋」という特定地域に渡った女性たちにのみ焦点を当てるというのは、研究意義を説明しにくい。また「海外に働きに出た単身女性」を「南洋」に関する研究の一部として書籍化するのは、前者のボリュームが大きすぎて、バランスが悪い。このため、希望としては2023年度中に「戦時期に海外に働きに出た単身日本人女性」に焦点を当てて書籍化し、科研費最終年の2026年度までに書籍ないしは研究論文によって「戦時期に南洋に働きに出た単身日本人女性」について成果発表したいと考えている。
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