研究課題/領域番号 |
23K25135
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補助金の研究課題番号 |
22H03881 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80040:量子ビーム科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
羽島 良一 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光量子科学研究所 光量子ビーム科学研究部, 部長 (30218432)
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研究分担者 |
川瀬 啓悟 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光量子科学研究所 光量子ビーム科学研究部, 主幹研究員 (60455277)
全 炳俊 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (80548371)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2022年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
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キーワード | 強光子場 / 長波長赤外 / 自由電子レーザー / トンネル電離 / 高次高調波発生 / 超短パルス / カスケード電離 / レーザー誘起放電 |
研究開始時の研究の概要 |
トンネル電離した電子がレーザー場から受け取るエネルギーは、レーザー波長の2乗に比例して大きくなり、高次高調波の短波長化につながることから、長波長赤外(8~15 μm)における超短パルス強光子場科学研究が望まれているが、固体レーザーでは波長変換の効率に限界があり、難しいのが現状である。本研究では、任意の波長で発振が可能な自由電子レーザーを用いて、長波長赤外領域にて超短パルス強光子場実験を行う。原子のイオン化、再衝突などの基礎過程を長波長赤外にて検証することは、光と原子、分子の相互作用の統一的な理解に不可欠であり、高次高調波の短波長化につながる知見をもたらす。
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研究実績の概要 |
京都大学の自由電子レーザー(KU-FEL)では、運転条件を選ぶことで、超放射FELの動作が可能であり、この時、数周期の振動電場のみを含む超短光パルスが生成される。令和4年度の研究では、KU-FELにおいて、長波長赤外(8-10μm)の波長領域にて、超短FELパルスを生成し、これを気体中で集光することで、長波長赤外パルスによる気体の電離実験を行った。また、この実験結果を再現する数値解析を行った。 KU-FELの熱陰極運転(光パルスの繰り返しが2856 MHz)では、FELパルスを気体中で集光した時に放電音を伴う発光が観測されていた。この放電発光のメカニズムを明らかにするため、アルゴンを例にとって、分子の励起、電離、電離電子の加熱、拡散、再結合といった素過程を含む電離シミュレーションコードを作成し、実験結果の再現を試みた。 その結果、実験で観測された放電発光は、複数パルスにまたがって進展するカスケード電離として説明できることがわかった。FELパルスによる電子増倍がパルス間の拡散、再結合による電子減少を上回る時に、カスケード電離がパルス列とともに成長し放電発光に至る様子が数値シミュレーションで示された。気体圧力が大きくなるにつれて放電頻度が高くなる、FELマクロパルスのピーク前後で放電発光が起こる、アルゴンの発光スペクトルに励起状態の遷移に対応するピークが見られるといった実験結果は、数値シミュレーションの結果と矛盾しない。 また、ガスチャンバーの清浄度を変えた実験から、カスケード電離の種電子が気体中の浮遊粒子の電離によることを示唆する結果を得た。 光陰極運転(29.75 MHz)にてFELパルスを気体中に集光した時に放電発光が起こらないのは、パルス間の電子拡散のためであると考えてよい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KU-FELでは、熱陰極運転(繰り返し=2856 MHz)、光陰極運転(繰り返し=29.75 MHz)を切り替えて実験することができるが、FELパルスをガス中に集光した時に放電音を伴う発光が見られるのは熱陰極運転のみであり、光陰極運転ではパルスエネルギーが大きいにも関わらず放電発光が起こらない理由が不明であった。今年度の進捗により、この放電発光がカスケード電離によることが明らかになり、光陰極運転で放電発光が生じないのは光パルス間の電子拡散によることがわかった。 密閉したガスチャンバー内に設置した集光レンズの制御、パルスノズルを用いたFELに同期したガスの導入、電離電子の捕集と微小電流計による測定、発光スペクトル、発光時間波形の測定、FELパルスの偏光面の制御といった、本研究の実施に必要な一連の実験手法を確認し、ノウハウを積み上げることができた。 また、円筒型電極による電離電子の捕集を試み、微小電流計にて電離電子の時間波形を得ることができた。次年度以降に予定しているトンネル電離電子の測定と電子分光に向けた進捗であった。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度には高繰り返しパルス列によるカスケード電離の時間発展を確認することができた。令和5年度は、KU-FELの光陰極運転にて、気体分子のトンネル電離の観測を計画している。トンネル電離電子のエネルギースペクトルは、レーザー波長と集光強度に従って決まる高エネルギー側のカットオフを持つが、レーザー波長が長くなると低エネルギー側に特徴的な構造を示すことが知られている。光電子分光は、一般に、飛行時間測定法(TOF)や静電場による運動量フィルタが用いられる。KU-FELは29.75 MHz (光陰極運転)と高い繰り返しで光パルスが生成されるため、飛行時間測定法は使えない。また、FELマクロパルス内でレーザー集光強度が徐々に大きくなり、やがて減衰するが、この集光強度の変化とトンネル電離電子のエネルギースペクトルを対応付けて測定できることが望ましい。このため、阻止電場型の光電子分光装置を用いたトンネル電離電子のエネルギー測定を行う予定である。
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