研究課題/領域番号 |
23K25148
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補助金の研究課題番号 |
22H03894 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90010:デザイン学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
佐々木 葉 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00220351)
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研究分担者 |
中村 晋一郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (30579909)
福島 秀哉 九州大学, 比較社会文化研究院, 共同研究者 (30588314)
福井 恒明 法政大学, デザイン工学部, 教授 (40323513)
二井 昭佳 国士舘大学, 理工学部, 教授 (40459011)
林 倫子 関西大学, 環境都市工学部, 准教授 (60609808)
星野 裕司 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 教授 (70315290)
山口 敬太 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (80565531)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2024年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2023年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 地域水系基盤 / 水インフラ / デザイン手法 / まちづくり / 地域景観 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,身近な空間的地域資源の活用と自治力向上に資する,水に関わるインフラを対象とした空間・社会統合型デザイン技術の構築を目指す.そのため地域の小河川・水路・湿地・湧水といった水インフラを利用・管理一体的にとらえた「地域水系基盤」概念を提示し,①地域水系基盤特性図からデザイン対象となる地域のツボの抽出手法,②これを活かした水とともにある暮らしの再生デザイン技術の体系化と実装に取り組む.「インフラという規模の大きな対象が有する複合的地域課題を利用主体の立場から解決するためデザイン学がどのように貢献できるか」を学術的問いとし,土木分野の景観研究者によるフィールドでの実践的研究によって実施する.
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研究実績の概要 |
本研究課題は、水インフラのデザインを単に施設的、景観的な側面から考えるのではなく、地域水系基盤という概念に基づくことで、利用主体の実践による地域課題の解決に資するデザイン手法として開発するため、以下の2点を具体的な研究目的としている。 ①地域水系基盤の歴史的変化分析にもとづく地域のツボの抽出手法 ②現代の地域水系基盤を活かした象徴的な実践行為のプログラムデザイン手法 2023年度は各フィールドにおけるこれまでの蓄積と2022年度の調査分析をもとに、ターゲットとなるツボを明確にした現地調査を行うとともに、②として調査成果の表現媒体のデザインを用いた地元住民とのコミュニケーションを通じて、地域資源としての水系基盤の価値の明確化を行った。具体的な内容は進捗状況に示すが、いずれのフィールドにおいても、地域住民、自治体への調査結果の報告や協働的な活動を行うことで、地域のステークホルダーの意識や行動に変化が現れ、現代では必ずしも必要とされていなかった地域水系基盤の再価値化がはかられた。こうした成果がみられたのは、着眼した地域水系基盤が元来地域の生活に根ざしたものであったこと、それを単独施設としてではなくネットワークや類似施設との関連性のなかで客観的な調査データとともに示したこと、物理的な施設としてだけでなくその利用、管理についての調査データを示したこと、これらの成果をビジュアルにわかりやすく表現したこと、といった本研究課題の特色によるものと考えられる。つまり本研究課題で開発しようとしているデザイン手法の有効性が、複数のフィールドでの実践によって一定程度示されたといえる。 これらの研究活動の成果は、土木計画学研究発表会における企画セッションをはじめとする論文発表を実施するとともに、研究代表者の研究室ウエブサイトにて研究活動の状況を公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
各フィールドにおける2022年度の調査分析によって、地域課題の解決につながる地域水系基盤の象徴的なターゲットが明らかとなってきたため、それを核とした現地調査を進めた。新潟県新発田市古太田川では、「かわど」と「かわばた」というツボとなる要素をめぐるデザインカタログとエピソード収集、およびプレイスメイキングを取り込んだ体験機会の提供を実践した結果、行政依存であった地元意向に変化がみられた。山形県長井市では、文化的景観の構成要素である水路の仕組みと町場形成との関係を調査分析し、水路の価値を伝えるパンフレットとして提示した結果、地域資源としての価値認識が高まった。滋賀県犬上郡豊郷町では選奨土木遺産である龍ケ池揚水機場の調査結果を町主催のシンポジウムにて共有した結果、当初保存に消極的であった状況が変化し、2024年度の世界かんがい施設遺産の候補施設に推薦、選定された。島根県隠岐の島西郷港周辺地区では、「オリト」という集落と河川をつなぐ路地空間を地域資源として発見し、地域住民と共有した結果、まちづくりに向けた機運醸成がみられた。これらから、生活の用に根ざした地域水系基盤の象徴的な要素が価値再生のツボとなることが確かめられた。 その他、氾濫解析を行うことで、歴史的に形成された水と共にあるまちの空間構造上の特徴を明らかにすることを、山形県大江町左沢地区の最上川、熊本県人吉市の球磨川において実施し、災害復興デザインの可能性を広げるための基礎情報を提示した。また、兵庫県西播磨の揖保川流域を対象に広域な地域間連携による地域資源の編集という手法を仮説的に提示し、これに基づくに調査研究を進めた。 以上のように、地域水系基盤デザインの枠組みの有効性を確認することができ、その際のプログラムデザインの具体的なパタンの抽出につながる成果を蓄積することができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2024年度は以下のように進める。まず地域のステークホルダーの意識と行動に具体的な成果が現れ始めている各フィールドでの実践的調査を継続する。その際、地域水系基盤が有する多面的な価値を活かすよう、プログラムデザインの高度化をはかる。新潟県新発田市の古太田川では、生き物に着目するため全国的に活動している「水辺の小さな自然再生」と連携した実践を行う予定であり、引き続き地元小学校の授業プログラムとしての位置付けを具体化する。災害復興の議論が進む熊本県人吉市、山形県大江町では、計画の進捗にあわせながら、まちにおける地域水系基盤としての河川の概念を深めるよう言語化していく。また水系、流域の連携というマクロなプログラムデザインの可能性を広げるため、地域水系基盤ネットワークの理解に資する表現媒体のデザインの検討を、ケーススタディを通じて進める。このように引き続き各フィールドベースでデザイン実践を進めつつ、スケールおよび主体の連携を拡大していくことで、デザイン手法としての展開を試みる。 続いて、これまでの成果をもちよった集中的な議論によって、フィールドのタイプごとの整理と手法の普遍化を図る。この作業では適宜、研究組織以外の専門家、実践家の参加も得る。これらの共創的な議論を経た上で、デザイン手法としての体系化と実践事例集としての取りまとめを行い、「水とともにある暮らしの再生のための地域水系基盤デザインノート」の作成と公開シンポジウムに繋げていく。
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