研究課題/領域番号 |
23K25202
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補助金の研究課題番号 |
22H03948 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90120:生体材料学関連
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
横井 太史 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (00706781)
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研究分担者 |
関野 徹 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (20226658)
長谷川 智香 北海道大学, 歯学研究院, 准教授 (50739349)
後藤 知代 大阪大学, 高等共創研究院, 准教授 (60643682)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2024年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2022年度: 10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
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キーワード | 骨修復材料 / 高靭性 / リン酸八カルシウム / アパタイト / 損傷許容性 / イソフタル酸 / 人工骨 |
研究開始時の研究の概要 |
セラミックス製バイオマテリアルの一つに骨修復材料がある。ヒドロキシアパタイト焼結体は生体内で分解吸収されない骨修復材料である。このような材料は、長期間に渡って荷重を支え続ける必要があるため、脆性破壊に対する耐性は不可欠である。セラミックス材料中に層状構造を形成することによってき裂を誘導することで材料の脆性破壊を抑制できることが知られている。そこで本研究ではカルボン酸含有リン酸八カルシウムを出発原料に用い、き裂の直進を妨げる層状構造を導入した損傷許容性に優れるセラミックス骨修復材料の作製し、得られた材料の機械的性質ならびに生物学的性質を明らかにする。
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研究実績の概要 |
セラミックスの構造材料における脆性破壊の抑制は極めて重要な研究課題である。セラミックス製のバイオマテリアルに人工骨がある。高齢者に用いられているヒドロキシアパタイト焼結体は生体内で分解吸収されないため、長期間に渡って荷重を支え続ける必要があり、一種のセラミックス構造材料と見なすことができる。これまでに、結晶化ガラスを用いてセラミックス製人工骨の高強度化が図られてきたが、現実的には脆性破壊の根本的な解決には至らず、一時的に実用化されたものの、現在は生産が中止されている。結晶化ガラスに代わって現在はヒドロキシアパタイト焼結体が用いられているが、脆性破壊への対策は行われていない。 これに対して研究代表者は、貝殻の真珠層の構造に着目した。真珠層は炭酸カルシウムとポリマーの複合材料であり、これらがレンガ/モルタル構造を形成している。この特異な構造がき裂の直進を妨げ、材料を強靭化している。このような構造を人工的に作製することができれば、損傷許容性に優れる人工骨を得られると考えた。ここで研究代表者が考案したのは、カルボン酸含有層状リン酸カルシウムを熱分解することによって、リン酸カルシウム層とカルボン酸の熱分解で生成したアモルファスカーボン層が積層したミルフィーユ構造が自発的に形成され、この層状構造が材料中のき裂の直進を妨げることで、材料の損傷許容性を向上させるのではないか、というものである。 本研究では、イソフタル酸含有層状リン酸カルシウムを作製し、これを熱分解・焼結することによって得られた材料の機械的・生物学的性質を明らかにし、損傷許容性に優れる新規人工骨の設計と合成の指針を明らかにすることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イソフタル酸含有層状リン酸カルシウムを窒素雰囲気中で熱分解した結果、500℃までは白色であったが、600℃で試料は灰色になり、700℃以上で黒色になった。この試料をラマン分光分析で調べた結果、熱分解カーボンに帰属されるピークが検出された。また、X線回折分析の結果、イソフタル酸含有層状リン酸カルシウムはアパタイトとリン酸三カルシウムに熱分解することが分かった。このことから、イソフタル酸含有層状リン酸カルシウムを焼結体を作製できる程度の温度で熱処理すると、アパタイト/リン酸三カルシウム/熱分解カーボンの複合体となることが分かった。また、一軸加圧成型した試料を熱処理することによって、同層状リン酸カルシウム由来の板状結晶が加圧方向に対して垂直に配光することによって形成される特徴的な微細構造を持った材料を得られることが分かった。この組織はアワビなどの真珠層に見られるレンガ/モルタル構造に類似した構造であった。 得られた材料の損傷許容性を定性的に調べるために、得られた材料に釘を打ち付けてみたところ、焼結体は脆性破壊することが無く、釘は焼結体を貫通した。すなわち、非常に優れた損傷許容性を示す材料を得られたと言える。また、同材料の機械的性質を調べたところ、アパタイト焼結体よりも最大曲げ強度は小さかったものの、最大曲げ歪は大きかった。また、ヤング率は小さかった。このことから、先述のような優れた損傷許容性の発現のためには、小さな荷重で変形が可能であり、尚且つ、変形に対する耐性が大きいことが重要であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られている材料の強度は従来のヒドロキシアパタイト焼結体に比べて劣っている。これは、材料の気孔率が高い(=焼結時に緻密化していない)ことが一因と考えられる。そこで、材料の焼結条件を検討し、材料の緻密化を図る。常圧焼結での緻密化が困難な場合には、ホットプレスやスパークプラズマ焼結等を検討する。これらの検討によって緻密な試料が得られた場合には改めて機械的性質の評価を実施する。 次いで、得られた試料を用いて材料の生物学的評価を実施する。予備的な検討の結果では、アパタイト/リン酸三カルシウム/熱分解カーボンの複合体は擬似体液中において材料表面にアパタイトを形成することが確認できており、骨と結合する性質を有することが十分に期待されている。そこで、上記の作製条件の検討の結果得られた試料を用いて、骨結合性のin vitro評価を行う。 また、材料中のアパタイトとリン酸三カルシウムについてはこれまでに人工骨として実用化されている成分であり、細胞毒性の懸念はない。一方で、熱分解カーボンについては毒性の懸念がある。そこでマウス由来細胞(MC3T3-E1細胞)を用いて細胞毒性評価を行う。具体的には、材料上に細胞を播種し、3,6,12時間後に材料上に接着した細胞数と細胞の形態を解析することによって細胞毒性の有無を明らかにする。 以上の研究で得られた結果を総括し、2023年度中に損傷許容性に優れるリン酸カルシウム人工骨の材料設計と合成の指針を確立する。
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