研究課題/領域番号 |
23K25295
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補助金の研究課題番号 |
23H00598 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01080:科学社会学および科学技術史関連
小区分01010:哲学および倫理学関連
合同審査対象区分:小区分01010:哲学および倫理学関連、小区分01080:科学社会学および科学技術史関連
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
有賀 暢迪 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 准教授 (90710921)
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研究分担者 |
永田 裕作 日本文理大学, 工学部, 准教授 (90551094)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
2026年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2025年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 計算科学史 / 流体力学 / 今井功 / 研究者資料 / 理論応用力学講演会 / ロゲルギスト |
研究開始時の研究の概要 |
コンピューター・シミュレーションに代表される計算科学的方法の普及過程を、戦後日本の流体力学を事例として考察する。具体的には、国内で発表された論文の通時的・定量的分析を通じて理論・計算・実験の各方法が用いられた割合の変化を明らかにするとともに、戦後日本を代表する理論流体物理学者であった今井功(1914-2004)の計算科学的方法に対する認識を個人文書も用いて解明する。このように、分野全体についての量的分析(マクロ)と人物についての思想史的考察(ミクロ)を組み合わせ、「科学の方法」という観点から現代科学史にアプローチする。
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研究実績の概要 |
理論応用力学講演会(NCTAM)の発表論文の通時的分析では、最初のステップとして、第1回(1951年)と第61回(2011年)のプロシーディングスを資料として用い、流体関係の発表論文を分析した。第1回講演会では流体力学に関して45件の一般講演があったが、プロシーディングスに出版された論文は27本であり、そのうち主として理論的方法によるものが19本、実験的方法によるものが8本であった。対して第61回では、講演件数83件に対してプロシーディングスに発表された論文は14本であり、このうち主として計算(シミュレーション)によるものが10本を占めた。
今井功の科学思想の検討では、第一に、今井の第1回NCTAMでの研究発表に注目し、その内容を、同時代に今井が書いた関連する総説・論説とともに検討した。その結果、今井が当時注力していた高速気流の研究においては、解析による理論的方法だけでなく数値計算も重視されていたという見通しが得られた。また第二として、同人グループである「ロゲルギスト」の名前で雑誌『自然』に発表された今井の科学エッセイに着目し、その全体像を整理した。この結果、後年の単行本には収録されていない今井(筆名「I2」)の作品が18本あることが確認された。今井のエッセイは流体力学に限らず、身近な現象を物理学者の視点から考察するものであるが、この中にはコンピューターや数値計算への言及は含まれていなかった。
以上と並行して、今井の個人文書(今井資料)の長期保存とデジタル化に向けた準備のため、特に重要と思われる研究ノート類(バインダー)38冊について、保存容器への移し替えをおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
NCTAMの発表論文の通時的分析では、当初予定した第1回と第61回のプロシーディングスの分析をおこなった結果として、ある論文で用いられている方法を「理論」や「計算」と判定するための基準について再考する必要が生じた。加えて当初の計画では、秋以降に大学院生などを雇用して、次年度以降の分析に用いるためのデータの準備を進めていくとしていたが、想定していた通りに雇用することができなかった。また今井功の科学思想の検討においては、資料のデジタル化に伴う権利処理を計画通り進めることができなかった。以上を要するに、次年度以降に分析をおこなっていくための準備作業が予定通りに進んでいない。
他方で、第1回NCTAMにおける今井の研究発表の考察や、ロゲルギストのエッセイについての調査からは、研究開始時点では予想していなかった成果の芽が出てきている。このため、総合的な評価としては「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
NCTAMの発表論文の通時的分析では、20世紀後半における計算科学的方法の普及過程を考察するという目的に照らして、より簡便かつ明快な分析手法を採用する。具体的には、(1)コンピューターを利用した研究の件数の年次変化をまず調査し、量的変化のトレンドを把握したうえで、(2)特に注目すべき時期を特定し、計算科学的方法が普及してくる過程で理論・実験との関係がどのように変化したかについて考察をおこなう、という進め方に改める。また、NCTAMのプロシーディングスには、会議で発表された内容のうち一部しか収録されていないため、これを用いた分析を補完するために、日本流体力学会の学会誌『ながれ』(1982年創刊)も対象として追加することにする。
今井功の科学思想の検討では、初年度に得られた見通しを踏まえ、主要業績の一つである高速気流の理論を事例として、数値計算の方法がどのように認識され、また実際に用いられたかを重点的に考察することにする。並行して、今井が生前に発表した文章(原著論文を除く)やその他の未公刊資料においてコンピューターへの言及があるかどうかを引き続き探索し、計算科学的方法に対する今井の認識について考察する。
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