研究課題/領域番号 |
23K25316
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補助金の研究課題番号 |
23H00619 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02050:文学一般関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前島 志保 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10535173)
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研究分担者 |
酒井 悠 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (10906639)
ホルカ イリナ 東京外国語大学, 大学院国際日本学研究院, 准教授 (40760343)
松枝 佳奈 九州大学, 比較社会文化研究院, 講師 (60870061)
ヴァン・ロメル ピーテル 東京経済大学, コミュニケーション学部, 特任講師 (70909291)
巽 由樹子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (90643255)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2027年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2026年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2025年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 出版史 / 雑誌 / 視覚表象 / 言説 / 明治後期 / 出版 / 貫日露戦 / メディア / 表象 / 報道 / 文学表象 |
研究開始時の研究の概要 |
明治後期日本の出版文化を扱った従来の研究は、当時生成されつつあった雑誌ジャンルを所与のものとみなし、資料の一部として特定の数誌を用いる程度であり、いずれも、日露戦争を画期とし、論調の画一性もしくは編集手法上の変化を強調しがちであった。本研究は、明治後期に発達した五つの雑誌ジャンル(総合誌・婦人誌・画報誌・文芸誌・教育誌)を取りあげ、平時と戦時を一続きの流れで見る貫戦期の視点から、国内外の重要事項に関する言説・表象・表現をジャンル横断的かつ包括的に考察し、雑誌ジャンル形成の実態、およびこの時期の画一的ではない情報の流通の在り方を明らかにし、両者の関連を考察する。希少資料のデジタル復刻出版も行う。
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研究実績の概要 |
諸分野において日露戦争を画期とする傾向が強かったこれまでの研究を見直し、明治後期の日本における情報の流通の在り方を長期的に考察するために、本プロジェクト推進メンバー各人が計画に沿って研究を行ない、口頭および活字で発表した。今年度の研究を通して、当該の時期の画一的ではない情報の流通の在り方が改めて具体的に確認されたとともに、それを可能にした印刷技術の向上や制度の整備について具体的に知る必要が痛感された(詳細については、「現在までの進捗状況」を参照されたい)。 また、本プロジェクトの準備段階として2019年から10回にわたり開催してきたジャーナリズム研究会(公開研究会)の発表者による論文集(Booklet)も二冊刊行された。これにより、これまで地域別・分野別に研究されがちだった出版・報道文化を、国際的・学際的な視野から考察する新たな可能性を示した。同時に、この研究成果を通じて、明治後期日本の出版・報道文化を考察する研究の基礎となる知識を本プロジェクトメンバーと共有し、今後の研究につなげることもできた。 加えて、本年度は、明治後期の印刷技術の向上と情報の流通の拡大を象徴する雑誌ジャンル「画報誌」の代表例の一つである『近事画報』類のデジタル復刻版の刊行も開始された。国木田哲男(独歩)が編集長を務めていたこの雑誌は、欧米の挿絵雑誌を参考に、初めから視覚的な報道のために創刊された日本最初期の画報誌だが、所蔵先が分散していたため、全貌を把握することは困難だった。それが、このたびの全カラーデジタル復刻により、絵画・写真を鮮明に確認することが出来るようになった。さらに、古い不鮮明な活字により印刷されているため、OCRによる通常の自動的なテキスト化が難しかったが、丁寧な入力作業によりその不備を補い、かなりの精度での全文検索が可能となった。今後の多分野での研究の進展に資することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
出版の産業化と教育の普及に伴い雑誌が発達・分化してきた明治後期の日本における情報の流通の在り方を、貫日露戦的な視点から長期的に考察するために、本プロジェクト推進メンバー各人が計画に沿って研究を行ない、国内外で活字もしくは口頭で発表した。今年度は、報道手法および出版の大衆化・国際化については前島と巽が、女性表象についてはホルカが、対外認識・文化交流については巽と松枝が、教育思想についてはヴァン・ロメルが、思想については酒井が、それぞれ研究を推進した。 また、今年度は、合計三回、本プロジェクトの推進メンバーによる非公開の共同研究会を開催し、自由な雰囲気の中で各人の研究成果の途中報告を行なった。今年度の研究を通して、当該の時期の画一的ではない情報の流通の在り方が改めて確認された。具体的には、視覚表象による報道の漸進的な変化、国際的な出版・流通網が整備される中での知の流通の変容、国際的な社会改良主義の高まりに共鳴する日本国内の動向などである。日本国内における女性にまつわる言説および表象の変化についても、関連する世界的な動向との関わりを視野に据えて考え直さなければならないことが確かめられた。 加えて、各人が研究を推進していくなかで、研究対象を微調整する必要性が生じ、方向転換がなされた。たとえば、前島は報道表現に、巽は視覚表象と翻訳書の流通に、それぞれ研究の注力を当てることになった。また、ホルカは表象分析の焦点を、自然・動物表象から女性表象に移すことになった。 さらに、印刷技術の向上により視覚的イメージの国際的な流通が盛んになっていたことも、この時代の出版・報道文化を考えるうえで注目すべき現象であることが分かった。同時に、それを可能にした印刷技術の向上や制度の整備についても、具体的に知る必要性が痛感された。この点については、次年度の課題とすることにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、これまで十分に考察されてこなかった以下の点について考察する。 ①明治後期において流通していた言説・表象の実態とその意義を明らかにする:明治後期に発達した五つの雑誌ジャンル(総合誌、婦人誌、文芸誌、画報誌、教育誌)を取りあげ、災害、戦争、社会問題、政治思想、教育思想、対外認識などこの時期の主要な論点について、それぞれの雑誌における論調の違いを平時と戦時の繋がりにも注意を払いながら分析していく。【担当】災害・戦争・社会問題:前島、政治思想:酒井、教育思想:ヴァン・ロメル、対外認識:巽・松枝、文化交流;巽・松枝・酒井、女性表象;ホルカ ②明治後期における雑誌ジャンルの分化の実態と言説・表象の傾向との関連性を解明する:明治後期において出版されていた雑誌の編集手法、記事の表現様式、新技術の導入傾向、取りあげられる話題や記事執筆者の傾向、経営手法を分析し、雑誌ジャンル形成の実態を明らかにすることを目指す。【担当】前島・巽(他の研究分担者も適宜関わる) ③明治後期における報道の近代化の実態とその意義を明らかにする:様々なジャンルの雑誌において、どのような時事的なテーマがいかなる手法でどのように報じられていたのかを分析し、同時期の欧米における報道表現と対比しつつ、日露戦争を画期とする従来の報道史観の再検討を行う。【担当】前島・巽(他の研究分担者も適宜関わる) 3~4ヶ月に一度研究会を開き、国内外の学会での口頭発表を重ねつつ研究を推進し、2025年度・2027年度の論集刊行を目指す。画報誌のデジタル復刻出版も行う。2024年度は、引き続き1890年代後半~1900年代前半の雑誌を中心に分析を行い、『近事画報』デジタル復刻版刊行に向けた調査とデータ化をすすめる。さらに、前年度に課題として浮上してきた印刷技術の向上や流通の国際化に伴う諸問題について、専門家を招いて特別研究会を開催する。
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