研究課題/領域番号 |
23K25380
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補助金の研究課題番号 |
23H00683 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 法政大学 (2024) 山梨大学 (2023) |
研究代表者 |
皆川 卓 法政大学, 文学部, 教授 (90456492)
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研究分担者 |
踊 共二 武蔵大学, リベラルアーツアンドサイエンス教育センター, 教授 (20201999)
田口 正樹 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (20206931)
三浦 清美 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20272750)
武田 和久 明治大学, 政治経済学部, 専任准教授 (30631626)
石黒 盛久 金沢大学, 国際学系, 教授 (50311030)
黒田 祐我 神奈川大学, 外国語学部, 教授 (50581823)
安平 弦司 京都大学, 文学研究科, 講師 (80974237)
甚野 尚志 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90162825)
押尾 高志 西南学院大学, 国際文化学部, 准教授 (40869088)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,380千円 (直接経費: 12,600千円、間接経費: 3,780千円)
2026年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2025年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
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キーワード | 情報統制と政治的共存 / 教義と個人情報の妥協 / 隠蔽と情報伝達手段 / 「正しい」行動としての隠蔽 / 情報「主権」と私的領域の形成 / 異教・異端との共存の「隠蔽」 / コミュニケーションの秘密化 / 封緘状 / 宮廷社交術 / 宗派マイノリティの生存戦略 / 教義の政治的読み替え / 非キリスト教文化の隠蔽 / 個人の情報主権 / 隠蔽 / 曖昧 / 心裡留保 / キリスト教 / 私的自治の成立 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は4年の研究期間を通じて、中近世キリスト教世界(ヨーロッパ、ロシア、大西洋地域)のコミュニケーションで用いられた「隠蔽(秘匿)」「曖昧」「心裡留保」に注目し、国内外の研究を通じてそのグローバルな諸事例、背景にある宗教的・社会的条件、当事者および後継者の認識を、事例研究の比較検討を通じて解明し、当該世界の宗教的・政治的共存、各地域の正統性の克服、それがもたらした長期的問題を析出し、伝統的キリスト教社会における共同と対立のメカニズムを俯瞰すると共に、当該期に西欧・太平洋地域で発展した正当な「隠匿」範囲としての「私的なもの」と「公開」範囲としての「公共圏」という二元主義の独自性を解明する。
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研究実績の概要 |
2023年度4月から8月までは、各研究者が計画書作成の段階で予定した各専門分野研究について、研究の整理と全体テーマに接合するための調整を行った。そのうえで2023年8月2日にオンラインによる研究会を開催し、研究協力者を招いて、研究代表者・研究分担者全員が各研究計画の報告を実施し、協力者によるコメントを得た。そこでは中近世キリスト教圏における「隠蔽」「曖昧」「心裡留保」が、各地域の多様な「正しさ」の衝突を避ける思慮を可能ならしめたこと、しかしそれは各地域・各段階のコミュニケーション文化によって、「正しさ」の追求のみならず、生存戦略、権威的包摂、一時的な衝突回避に至る多様な目的を持ち、そのスペクトルから長期的なシステム構築を析出するために、現象面の絞り込みが必要であること、そのために、非キリスト教圏との比較が有効であることが確認された。その後更に各自で研究を進め、研究代表者の皆川と研究分担者がケーススタディの提供を最初に担当することになり、2024年3月2日に再度オンラインで研究会を開催し、皆川が15世紀西中欧に広くみられる公開書簡から封緘状への移行を事例として、この時代に告解によるカトリック教会の個人情報支配が風化の兆しを見せ、正当な隠蔽としての「秘匿」の領域が個人に帰されるようになり、他の文明圏と異なる「(権力に介入されない)個人の主権的情報領域としての私」に寄与した可能性がある点を指摘した。一方踊は17世紀のチューリヒにおける宗派的マイノリティ、特に良心的兵役拒否を行う宗派への弾圧の事例から、処罰の理由を本来の信仰から政治的秩序へとずらし、現実にも亡命を黙認するなどの「曖昧さ」が見られ、啓蒙主義の受容以前から実質的な寛容に向けての揺らぎが存在した事実を論証して、内面の支配を掲げる宗派化の圧力は、曖昧を通じて弱まる傾向にあったことが明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者・分担者の校務の都合等により、研究会は当初の予定の3回から2回に減らさざるを得なかったが、研究代表者・分担者共に順調に研究を進め、そのうちの数人が、海外での渡航調査を行うことができた。また今後の研究方向に関するブラッシュアップを行い、非キリスト教徒および非キリスト教徒情報に関する「隠蔽」「曖昧」「心裡留保」の重要性を認識することができた上、実証研究に関しても、本テーマを扱った報告2点も実現することができた。更に海外の協力者とも次年度以降の来日による研究協力についても調整を行うこともできた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の課題として浮かび上がった、本テーマにおける非キリスト教徒との関係について16世紀のイベリア半島のモリスコ(隠れムスリム)の専門研究者を新たな分担研究者として迎えたことで、従来よりの分担研究者が専門とする宗派関係や宣教活動の前線の状況と比較し、「隠蔽」等に関する「正しさ」の理解とその感覚の変容を、キリスト教的なカテゴリにとらわれず、より客観的に把握することが可能になった。この点は、世俗的な「正しさ」が問題になる政治思想、司法的実践や慣習など、直接キリスト教の教義に遡及しない分野において、キリスト教社会固有の「隠蔽」等の価値付けが波及したか否か、そしてそれはどの程度を知る上でも重要である。なぜならそこにキリスト教由来の価値基準が及んでいないのかどうか、あるいは果たしてそれがどこまで「世俗的」なのかどうかも、ここで中心とするヨーロッパ・キリスト教世界(特に聖俗の二元主義がカトリック・プロテスタントほど対立的ではない正教会やムスリム)の状況と比較することで、より明確に立ち現れてくるからである。以上を踏まえ、2024年度中に、正教会あるいはムスリムの「隠蔽」等と「正しさ」の関係について、分担研究者から事例研究の報告を行い、それと「隠蔽」等が倫理的基準の問題として意識されたかどうか、されたとすればそれはどのような条件の下で正当化されたのか、そしてそれが権利として認識されたかどうかを検討したい。常時行っているメール等による研究情報交換については問題ないが、分担研究者には海外での研究に従事しているケースもあるため、研究会は2~3回オンラインかハイブリッド方式で行い、再来年度以降に予定している海外での関連研究期間での研究報告および活字による情報公開に向けて準備を進めたい。
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