研究課題/領域番号 |
23K25382
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補助金の研究課題番号 |
23H00685 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
前野 弘志 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 教授 (90253038)
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研究分担者 |
西山 要一 奈良大学, その他部局等, 名誉教授 (00090936)
小川 拓郎 九州大学, 人間環境学研究院, 助教 (00943614)
堀 賀貴 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (20294655)
妹尾 裕介 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 主任学芸員 (20744270)
藤本 悠 芸術文化観光専門職大学, 芸術文化・観光学部, 准教授 (50609534)
辻村 純代 公益財団法人古代学協会, その他部局等, 客員研究員 (60183480)
佐藤 育子 日本女子大学, 文学部, 研究員 (80459940)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 6,760千円 (直接経費: 5,200千円、間接経費: 1,560千円)
2024年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
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キーワード | レバノン / ティール / アルバスサイト / 発掘調査 / マウソレオン / マウソレオン(大型墓) / フェニキア |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の概要は,レバノン南部の都市ティール(古代フェニキア人の都市テュロス)の地峡部にあるユネスコ世界遺産アルバスサイト内の大戦車競技場の東側の窪地にほぼ埋もれていたヘレニズム時代からローマ時代のものと思われる大型廟(東西約6m,南北約5m,高さ約2.4m,おそらく元は10本の円柱が立ち,屋根の存在は不明であるが,北面に5基の納体室を持ち,東西南面の壁面に装飾絵画を持つ)と,その周辺の地下に埋没していると考えられるネクロポリス(公共墓地)の発掘調査行を行い、古代フェニキア都市の実態を解明する研究である。
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研究実績の概要 |
2023年度は、3月24日に事前の第1回ミーティングを行い、9月4日から9月23日まで発掘調査を行った。前年に行った大型墓の南側と西側の発掘を継続し,手付かずの東側と北側の発掘に着手し、築造当時の地面にたどり着き、全容が知られるようになった。北面に4基の納体室が露出していたが、東端にもう一基が発見され、納体室は5基あったことが判明した。基壇の高さから下段にも同数の納体室が存在するものと推測したが、存在しなかった。一方で北側に祭壇があることが判明した。この大型墓は盗掘を受けていたため、副葬品の発見は少なく、文字史料としては2枚のコインと1個のアンフォラスタンプが発見された。大型墓周辺からは、アンフォラの環状取手や土製香油瓶など、多数の土製品が発見された。 大型墓および大型墓から戦車競技場にいたる地区のレーザースキャニングを行い、フォトグラマトリを作成した。また人工衛星を用いて、大型墓周辺の地形をリモートセンシングした。壁画の顔料分析および美術史的分析は行わず、次年度以降に行うこととした。発掘調査を踏まえ、12/9-10日に第2回ミーティングを行い、論点を整理した。 大型墓の年代は今だ不明であるが、これまでに出土したコイン、アンフォラスタンプ、土製香油瓶、ランプの年代はいずれも前1世紀から後1世紀の間を示している。ただしこの年代が大型墓の築造年代なのか放棄年代なのかは不明である。築造年や所有者名などを記した碑文も未発見である。地中海世界における同型の大型墓の存在を調査しているものの、今だに見つかっていない。 これらの成果と課題は、3月23日に帝京大学文化財研究所で開催された第31回西アジア発掘調査報告会で報告し、2024年8月に出版予定のレバノンの学術雑誌BAALにpreliminary report 2023と題して投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で書いたように、交付申請書の本年度(2023年度)の研究実施計画の主要な部分はおおむね達成できている。ただし壁画の分析については、調査日数の関係で次年度以降に回すこととした。また地中探査については、かつて日本がレバノンに寄贈した地中探査レーダーが古すぎて使えないことが判明したので、この調査は後回しとし、まずは大型墓の調査に専念することとした。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度には、事前ミーティングを行った後、9月2日から9月21日まで発掘調査を行う。まずマウソレオン周辺の発掘を継続し,その全体像をより明確に把握する。次に既に試掘した西崖を本格的に発掘調査する。そこからはコンテキストをともなった遺物の出土が期待される。さらに北面に検出された5基の納体室内部を調査する。盗掘されているが、副葬品や人骨の発見が期待される。特に人骨の年代測定が最重要課題となる。また小物の遺物をレーザースキャンし,フォトグラマトリを制作し、3Dプリンターを用いた展示用レプリカ作成のためのデータを収集する。さらに同型大型墓の地中海的分布を文献検索によって調査する。時代的位置付けと同様、空間的位置付けとして重要なテーマである。また壁画の顔料分析および美術史的分析を行う。これらの成果はpreliminary report 2024としてBAALに投稿する。 最終年度の2025年度には、総括として、この大型墓を中心的な視座に据えて、ヘレニズム時代末期のフェニキア都市ティール像の再構築を目指す。その成果は、広島大学で開催するオンライン国際成果報告会によって海外に発信する。同時に一般市民向けの説明会および展示会も行う。さらにこれまでの成果の総括を別冊BAALとして英語で出版する。 ただし今現在、ティールがあるレバノン南部地域では、レバノン民兵組織ヒズボラとイスラエル軍との間で絶えず戦闘が行われている。Al Jazeera紙によれば、ティールにも攻撃があり、死傷者は出ていないが、避難民が出ているとのことである。そのため2024年度の現地調査は現状、困難である。発掘調査ができない場合、同型墓の分布調査および環状取手アンフォラの編年、Ali Badawi著『Tyre』の訳註書の出版を行う。これらはデスクワークなので、日本でも遂行可能である。
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