研究課題/領域番号 |
23K25510
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補助金の研究課題番号 |
23H00813 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
有本 寛 一橋大学, 経済研究所, 非常勤研究員 (20526470)
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研究分担者 |
高野 久紀 京都大学, 経済学研究科, 准教授 (40450548)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,460千円 (直接経費: 14,200千円、間接経費: 4,260千円)
2025年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2024年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2023年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
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キーワード | 地域間裁定 / 市場統合 / 農産物流通 / サーチとマッチング / サーチ理論 / 仲介者 |
研究開始時の研究の概要 |
発展途上国では食料が円滑に流通しておらず,食料の地域的な偏在や価格高騰が散発している.食料流通の改善は,食料安全保障や社会的安定性の確保の観点から重要な課題であり,これを解決する政策の立案にあたって,農産物流通の実態把握と阻害要因の解明が求められている.本研究は,マダガスカルの米市場を事例に,「産地での売り手や在庫の探しやすさ」という産地内での「サーチ摩擦」が,発展途上国において効率的な農産物流通を阻害する見過ごされた要因であるという仮説を,独自のデータに基づいて理論的,実証的に検証し,サーチ摩擦やこれを緩和する市場仲介制度が地域間裁定や市場統合に与える示唆を得る.
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研究実績の概要 |
2023年度は、以下の研究を行った。 (1)これまでに収集した定量・定性データを整理し、調査対象地域の米流通の実態を記述的に明らかにする論文の執筆にとりかかった。特に、都市商人と現地集米商の取引を仲介するブローカーが活躍しており、売り手の情報をこまめに収集することで買い手と効率的なマッチングを実現させていることが明らかとなった。一方で、都市商人と現地集米商の取引にはほぼすべてブローカーが介在しており、そうではない取引があまり見られないことも明らかとなった。このため、ブローカーによる取引の効率性の改善について、厳密な定量的把握が困難であるという課題も判明した。 (2)調査対象地域の米価格のばらつきに対する品質の影響について分析を行った。2023年5月から6月にかけて、対象地域内のできるだけ広い範囲から、体系的に籾米のサンプルを収集した。収集した籾米は、現地検査機関に委託し、水分含有率や不純物の混入などの品質検査を実施した。さらに、価格や売り手・買い手の属性の情報も収集した。これらのデータを総合し,価格の規定要因として品質や売り手・買い手の属性が与える影響度をヘドニック分析やLASSO回帰などの手法を使って分析した。その結果、品質差を考慮すると対象地域内では価格に大きな差はなく、一物一価がほぼ成立していることを確認した。 (3)来年度以降の研究の方針を検討した。(1)(2)の結果により、ブローカーが取引に介在することで、研究対象地域では、効率的な米流通を実現していることが、おおよその結論として見えてきた。このため、今後の研究の方向性として、ブローカーが介在することによる効率性の定量的評価、及びその他の取引制度の効率性との比較検討の可能性を検討することにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)2023年度の研究計画の柱としていた、籾米の品質データの収集は無事完了し、順調に進捗している。そのデータに基づいた分析も順調に進んでおり、研究対象地域内での一物一価の成立については、これが成立しているという結論を得ることができた。2024年度中には、追加分析を実施し、成果をとりまとめて、Discussion Paperとして公表できる見込みである。 (2)一方で、これまでの収集したデータをとりまとめた記述的な論文の執筆はやや遅れている。ドラフトの執筆は進行しているものの、データが豊富で論点も多岐に渡り、論点整理やまとめ方について検討を要している。2024年度中には、体系的な先行研究のサーベイも実施し、既知の知見と十分関連づけたかたちで、Discussion Paperとしてとりまとめて公表する予定である。 (3)サーチ摩擦を緩和する市場仲介制度(ブローカー)の役割と効果に関する定量分析については、方向性の転換も含めた検討を行っており、やや遅れている。当初計画では、シミュレーションやミクロ計量経済分析に基づいた定量的な評価の実施を予定していたが、検討の結果、ブローカーを使わない取引を行う対照群の設定・想定が困難なことから、因果推論に基づく厳密な検証は困難であるという課題が出てきた。このため、当初計画に基づいたシミュレーション等の分析を行うか、それとも視点や切り口を変えて、他の市場仲介制度が活用されている産地との比較に切り替えるかたちで分析を行うか、当初計画の変更も含めて検討することとした。このため、2024年度はこれまでの研究対象地域から範囲を広げ、他の産地の流通制度の状況を確認するなどの対応をとる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は大きく3つの研究を推進する予定である。 (1)マダガスカル全国における籾米市場の一物一価の成立の検証。輸送費を除いた地域間の価格差がほぼ同一かを通して、市場の効率性を検証する。各地の籾米価格データは政府機関が収集しているため、地域間の輸送費のデータを収集する。具体的には、首都アンタナナリボの中央卸売市場に集まる輸送トラックに対してインタビュー調査を実施し、実コストのデータを収集する。インタビューは相手方の同意を得て実施する。本分析は横断面の価格差のばらつきを利用するプリミティブな方法ではあるがマダガスカル全土の米流通の効率性をおおまかに把握するうえでは有用である。 (2)異なる流通制度の調査。これまでの研究対象地域とは異なるタイプの産地の流通制度があるかを調べ、制度間での効率性の比較を行う。これまでの研究対象地域は、産地ブローカーが都市から買い付けにくる都市商人と、産地の集米商のサーチとマッチングを担う「ブローカー型」の産地である。この制度の効率性については、2023年度までの研究で概ね効率的という結論を得ている。そこで、異なる産地でどのような取引制度が運用されているかを調査し、例えば産地卸売市場や産地農協、大規模な移出商といったタイプの産地がないかを検証する。そのうえで、当該制度の詳細を定量・定性的に、描写的に明らかにする。続いて「ブローカー型」と効率性に関する検証を行うと同時に、なぜそれぞれの産地で異なる制度が発達・定着しているのかを歴史的、理論的な観点から考察する。 (3)ブローカーのサーチ・マッチングの改善に対する介入。ブローカーは独立して売り手の情報を収集していることから、ブローカー間の競争がなく、情報の分断に繋がっている懸念がある。売り手情報を一元化することで、効率性をさらに改善できないか、実験的介入の可能性も視野に入れつつ検討する。
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