研究課題/領域番号 |
23K25525
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補助金の研究課題番号 |
23H00828 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07050:公共経済および労働経済関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
重岡 仁 東京大学, 大学院公共政策学連携研究部・教育部, 教授 (60900008)
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研究分担者 |
矢ヶ崎 将之 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 特任研究員 (20851398)
寺本 和弘 一橋大学, 大学院経済学研究科, 講師 (20961965)
泉 佑太朗 政策研究大学院大学, 政策研究科, 助教授 (60911500)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,980千円 (直接経費: 14,600千円、間接経費: 4,380千円)
2025年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2023年度: 8,710千円 (直接経費: 6,700千円、間接経費: 2,010千円)
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キーワード | 女性経営者 / 企業間取引 |
研究開始時の研究の概要 |
日本は他の先進国と比べて男女間格差が大きい国として知られており、特に企業の経営者への女性の進出が大幅に遅れている。そこで、主に男性が多い経営者コミュニティーで『女性経営者が「女性」であるという理由だけで、仕入れ先や販売先の確保などの取引ネットワークの形成においてどれほど不利を被っているのか』について、経営者の属性及び詳細な企業間の取引の情報の両者を含む企業パネルデータを用いて、定量的に分析する。
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研究実績の概要 |
日本は他の先進国と比べて男女間格差が大きい国として知られており、特に企業の経営者への女性の進出が大幅に遅れている。女性経営者は、主に男性が多い経営者コミュニティーでは人脈を構築することの難しさや信用力の欠如などの理由で、仕入れ先や販売先の確保などの取引ネットワークの形成において大きな不利を抱えていることが指摘されている。そこで、主に男性が多い経営者コミュニティーで『女性経営者が「女性」であるという理由だけで、取引ネットワークの形成においてどれほど不利を被っているのか』という問いに定量的に答えることを目的とする。分析には、株式会社東京商工リサーチ保有の日本の企業パネルデータ(TSRデータ)を用いる。TSRデータは、日本企業全体の約70%(約150万社)の企業の売上・従業員数・企業年齢などの企業情報に加えて、経営者の性別・学歴・年齢・出身地などの詳細な属性情報、そして各企業の仕入れ先と販売先などの取引ネットワークの情報が含まれている。本年度は、以下の3つの分析を行った。 1)まず、売り手もしくは買い手一方の視点に立ち、ある企業の「実際の」取引相手に占める女性経営者の企業との取引割合が、その企業が属している市場の「潜在的な」取引相手に占める女性経営者の企業の割合とどれほど乖離しているかを分析する。その上で、売り手・買い手からなる企業ペア(dyad)を分析単位として、一方の経営者が女性であることが取引発生確率に与える影響を推定する。 2)特に経営者の個人的ネットワークが取引先形成に寄与しているかを調べるため、TSRデータに含まれる、経営者の趣味の項目に注目し、同じ趣味を持つ経営者同士の方が取引確率が高いかを分析した。 3)現在の男性に偏った経営者の男女比率が、将来例えば、50%:50%の比率になった際に、女性経営者の取引確率がいかに改善されるかについての分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画以上に順調に推移していると考えられる。本研究の主な問いである、主に男性が多い経営者コミュニティーで『女性経営者が「女性」であるという理由だけで、取引ネットワークの形成においてどれほど不利を被っているのか』について、TSRデータを用いて、説得的な結果を定量的に示すことに成功した。具体的には、上記の1)にあるように売り手もしくは買い手一方の視点に立ち、ある企業の「実際の」取引相手に占める女性経営者の企業との取引割合が、その企業が属している市場の「潜在的な」取引相手に占める女性経営者の企業の割合とどれほど乖離しているかを分析した結果、企業経営者が同性同士である場合は、企業経営者が異性である場合に比べて、約6%ほど取引をする確率が高いことを示した(以下、取引におけるジェンダー・バイアスと呼ぶ)。次に、売り手・買い手からなる企業ペア(dyad)を分析単位として、同様の分析を行った結果、この場合も同様に経営者が同性同士である方が異性同士である場合よりも取引確率が高いことを確認した。さらにその結果は特に経営者の取引への関与が大きいと考えられる、企業規模が小さいほど取引におけるジェンダー・バイアスは強く、大企業にはジェンダー・バイアスが観測されなかった。その結果、経営者同士の個人的なつながりが重要であるという仮説を立て、TSRデータに含まれる、経営者の趣味の項目に注目し、同じ趣味(例えばゴルフなど)を持つ経営者同士の方が、趣味が異なる場合に比べて、取引確率が高いことを示した。興味深いことに、趣味の効果は、経営者同士が異性の場合は発生せず、あくまで経営者同士が同性同士の場合発生していた。したがって、企業間の取引先の形成において、オールドボーイズネットワーク」(女性の参入障壁の高い、男性同士の暗黙の約束事や文化)の存在が示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の2点の残っている課題について追加の分析を進める予定である。1つ目の大きな課題は、「なぜ取引におけるジェンダー・バイアスが存在するのか?」というメカニズムについてである。主に2つの可能性があり、それぞれ「出会い」のチャネルと「好み」のチャネルと呼ぶことができる。前者は、そもそも異性同士が出会う場がないために女性経営者が男性経営者と取引をする機会に恵まれないという視点、後者は、異性の経営者同士はそれなりに出会う機会はあるのだが、好みの問題で取引が発生しない、という視点である。この2つの区別は重要なのは、政策介入の余地が大きく異なるためである。前者であれば、例えば、経営者交流を促すイベントを政府が主催する等の、政策的な余地が大きい。一方で、後者であれば、特にその要因が男性経営者の女性経営者に対する差別である場合、政府の介入の余地は比較的小さいといえる。 2つ目の大きな課題は、「こういった取引におけるジェンダー・バイアスが実際に企業の業績等に負の影響を持つのか」である。ジェンダー・バイアスがもし異性同士の「出会い」や異性を差別する「好み」等から発生する場合は、ジェンダー・バイアスは企業に負の影響を持つことが予想される。しかし、一方で、例えば同性の経営者同士の方が情報交換がしやすい、または同性同士の方がお互いを信頼できるという理由のためにジェンダー・バイアスが発生しているのであれば、そのようなジェンダー・バイアスは企業に正の影響を持つ可能性もありえる。そこでジェンダーバイアスが大きいような企業は、実際に売り上げや生産性等といった企業の業績にどのような影響を与えるかを分析する予定である。
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