研究課題/領域番号 |
23K25530
|
補助金の研究課題番号 |
23H00833 (2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07050:公共経済および労働経済関連
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
亀井 憲樹 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (00924929)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
10,530千円 (直接経費: 8,100千円、間接経費: 2,430千円)
2026年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2025年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
|
キーワード | 社会的ジレンマ / 罰則 / インセンティブ / 経済実験 / 協力 / 制度選択 / 制度遂行 |
研究開始時の研究の概要 |
経済学における重要な研究トピックスに、組織における『モラル・ハザード』の問題や社会における公共財供給に関する『ただ乗り』問題など社会的ジレンマがある。これは、互いに協力すれば皆の社会的厚生が高まる一方で、個々人には非社会的行動をとる誘因がある状況であり、構成員間の協力と非協力の強いコンフリクトが原因で起こる。本研究は、人々の行動特性から見たジレンマの発生要因や、ジレンマの効率的な解決に寄与するインセンティブの在り方、そして導入すべきメカニズムや規範(例:ピア・ツー・ピアの罰則などの分権的方法、制度遂行による権威的方法)を、経済実験を行うことで考察する。
|
研究実績の概要 |
2023年度は、交付申請書に記載した通りのプロジェクトを適切に実施した。まず、社会的ジレンマ下で、人々の自己制御資源の大きさと制度選好の関係を探る実験室内実験を実施した。心理学における膨大な実験によると、人々の自己制御資源には限りがあり、それが摩耗すると人は自制できず誘惑に屈する。経済理論分析によると、社会的ジレンマ下でフリーライドの誘惑が自制能力を超える場合に、人々は強制力を伴う正式な制度を遂行することで誘惑自体を取り除くことを望むのではないかと予測することができる。実施した経済実験データによると、自己制御資源の大きさと正式な制度の選好には負の相関があることを明らかにした。この実験は公共財ゲームを基にデザインされた。 次に、社会的ジレンマ下での人々の協力行動や罰則行動が、分権的な罰則の種類によりどう影響を受けるかを、「ピア・ツー・ピアの罰則」と「連座的罰則」を比較することで考察した。過去の経済実験研究では、ピア・ツー・ピアの罰則を直接受けた人だけが利得を減らし、それにより非協力行動を抑止すると議論をし、その強い行動効果がデータから検証されてきた。一方で分権的な罰則では、同じグループに属する他のメンバーも間接的に影響を受ける可能性(例:家族の1メンバーの規範逸脱が家族全体の評判に影響を与える)がある。連座的罰則の影響を探る実験を米国で実施し、連座的罰則はピア・ツー・ピアの罰則よりもグループの協力規範を促す効果が弱いことが明らかになった。 最後に、ピア・ツー・ピアの罰則がジレンマ解決に果たす役割を考察するため、意思決定単位が個人とチームの設定で実験を複数回行った。コンピュータ上のチャットを用いたコミュニケーションでチームで1つの罰則の意思決定をさせることで、ピア・ツー・ピアで罰則を人がどのような動機で科そうとするのかを探ることができる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究目的は、人々の社会的ジレンマ下での協力行動の特性と望ましい解決方法(例: 正式な制度、ピア・ツー・ピアなど分権的罰則)や条件を経済実験を通じて明らかにすることである。本基盤Bのプロジェクトは4年計画のものである。2023年度に予定していた全ての実験室内実験の計画は無事遂行でき、1年目として計画通りに順調に研究が進んでいる。1年目の実験の進捗状況の詳細は「研究実績の概要」の欄を参照。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の推進方法についても、1年目に引き続き組織におけるモラル・ハザードや社会的ジレンマの状況を具現化し、単純化した設定・モデルを構築し、経済実験を行い意思決定データを収集することで実証的に人々の行動特性とジレンマの解決策を探る。 具体的には、まず、2023年で明らかにしたピア・ツー・ピアの罰則と連座的罰則の行動効果の違いを踏まえ、ジレンマ下でそれぞれが社会や組織で選択される条件を理論的・概念的に考察し、そして経済実験で検証する。 また、ジレンマ下での社会的ネットワークの構造と人々の協力行動や制度選択の関係を探る。過去のほとんど全ての社会的ジレンマ実験では、各メンバーが皆と繋がった状態(complete network)で実験がされているが、社会的ネットワーク構造は人により異なる。社会的ネットワーク構造と人々の協力行動の関係を考察するとともに、効果的なジレンマの解決方法がネットワーク構造でどう変わるのかを経済実験を行うことで明らかにする。 さらに、社会や組織におけるジレンマ解決のために制度を遂行した際に生じる2次のジレンマの深刻さを理論的に考察し、仮説を構築し、それを実験によって検証する。応用経済学における社会的ジレンマの伝統的解決策は、制度の遂行を通じて人々の利己的行動を強制的に変えることである。しかし制度の遂行は完全ではなく、その効果は、制度を運営する側のアカウンタビリティや制度運営に伴うモニタリングなど構成員の協力に依存する。 これらの重要性や検証の意義を既に確認し実験実施の準備に移っている研究の問いに加え、引き続きジレンマの効率的解決に寄与するインセンティブの在り方や協力を改善する条件を俯瞰的に、また包括的に再整理し、特定した条件とメカニズムを理論的に考察し、ブレイクスルーに繋がる経済実験を残り3年間で計画的に行う。
|