研究課題/領域番号 |
23K25574
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補助金の研究課題番号 |
23H00877 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
小区分80030:ジェンダー関連
合同審査対象区分:小区分80030:ジェンダー関連、小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
樫田 美雄 摂南大学, 現代社会学部, 教授 (10282295)
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研究分担者 |
北村 隆憲 東海大学, 法学部, 客員教授 (00234279)
米田 健一 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (20283856)
真鍋 陸太郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30302780)
草鹿 晋一 京都産業大学, 法学部, 教授 (30327118)
岡田 光弘 成城大学, 文芸学部, 非常勤講師 (30619771)
入江 秀晃 九州大学, 法学研究院, 教授 (50600029)
高口 僚太朗 長岡技術科学大学, 男女共同参画推進室, 主任UEA兼特任講師 (80824341)
北村 弥生 共立女子大学, 文芸学部, 教授 (40399225)
平野 哲郎 立命館大学, 法務研究科, 教授 (00351338)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2026年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2025年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
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キーワード | 裁判 / IT化 / ELSI / ビデオ・エスノグラフィー / 会話分析 / コミュニケーション / IT化 / エスノメソドロジー・会話分析 / 遠隔模擬裁判 / 調停 / 共同親権 / 視覚障害 / リフレクション |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,社会科学の立場から「裁判のIT化」を研究するものである.今後3年間で以下の5点の研究を進めていきたい. (1)遠隔模擬裁判の実施.「民事」だけでなく,「刑事」及び「家事」でも実施したい. (2)ビデオセッションの実施.他の遠隔データ,非法的な日常生活のコミュニケーションデータも比較用に使う. (3)論点別研究会の開催.没入メディア論,視覚障害と法実践のIT化及びELSI研究等が論点. (4)『ニューズレター』の継続及び『関連学会』での発表.臨床法学教育学会,法社会学会,等において,発表を積み重ねていきたい. (5)最終年度には『研究成果報告会』及び『研究成果報告書(DVD付)』の刊行をする.
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研究実績の概要 |
本研究は「裁判手続等のIT化の影響のビデオエスノグラフィー:ELSIの社会学化の試み」であり、一方では、経験的研究であり、もう一方では、その研究成果を「ELSI (倫理的・法・社会的課題)の社会学化」に向けて意味づける理論的研究である。 前半に注目するのなら、本研究は、社会の変化と併走する「同時進行形」研究である。後半に着目するのなら、本研究は、上記探究結果に基づいて「ELSI」の「SI (社会impact)」の部分を社会学的に検討しようとする「学術運動」である。 2023年度は,春に,ELSIの話題に関連したzoomミーティングを設定した.ちょうどそのころ,遠隔模擬裁判を実施する際のネックであった,実験に協力して下さる現職裁判官が,お願いできる見込みが立ち,急遽,追加配分で得た資金もくわえて,年間3回の大規模調査(遠隔模擬調停や遠隔模擬裁判)を行う事となった。 具体的には、2023年8月に鹿児島大において,地元弁護士事務所及び土地家屋調査士会の支援・協力をうけて,遠隔模擬調停調査を行った.さらに2023年12月には全国の3拠点(東京・大阪・長崎)をズーム会議システムで繋ぎ、遠隔模擬裁判実験を行った.この際,3地点の全てに法曹資格保持者を配置して実験調査を行えたことは大きな成果であるといえよう.なお,この2023年12月調査においては,証人に視覚障害があるという想定で調査をおこない,遠隔模擬裁判時の障害者対応問題という新視点の導入もはたしている.さいごに,2024年2月には、年度内で3回目の遠隔模擬裁判を東京大と共立女子大学との間で行った.全ての調査において,調査参加者間で,十分な振り返りミーティングをおこなった.また、季刊で「科研ニュースレター」を発行し、当該ニュースレターを全国の全ての裁判所と主要な弁護士会に送付して意見を求める体制を構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)現職の裁判官及び,元裁判官である大学教員の協力が得られたため,一挙に研究が進んだ.裁判の進行においては,口頭主義の形骸化,という傾向がわが国の民事・刑事裁判には存在しており,裁判のIT化は,この傾向を促進するのか,それとも抑制するのか,という論点が,実は重要な論点になっているが,そもそも口頭主義の形骸化という変化は,実務の中で暗黙裏に進行しているものであって,現職の裁判官から,その内情を丁寧に聞けたことの意義は大きかった. (2)また,研究参与メンバー内に,視覚障害所持者がいた利点も大きかった. (3)眼鏡型ビデオカメラ(EP8)および高精細の360度ビデオカメラ(インスタ360x3)等の新しい撮影機材を導入し,これまでにない高画質の動画を入手することができた価値も大きい.現在,動画分析の途上だが,これらの機材の有用性を日々確認しつつある.たとえば,従来は,裁判官の手元資料を,遠くからのビデオカメラで撮影しても,そこに書かれている文字や,書いている手書き文字を確認することはできなかったが,今回の調査ではそれらを鮮明に判読ができている.したがって,発言とメモの関係を時系列に沿って精密に分析することが,今回の我々の調査では可能になっている.つまり,これまでの対面的相互行為分析では等閑視されていた「行為者の手元筆記と発言との前後関係の分析」が可能となっているのである.画像が鮮明であって,音声もよく録音できていることは,研究参加者の研究意欲を向上させることにも貢献している. (4)今回の科研費の研究チームには,社会学者と法学者だけでなく,法実務家も多数参加しているが,これら多専門職間の共同がうまくいっていることも,研究の進捗に貢献している.例えばzoomの遅延が相互行為にもたらす影響を解析した論文を社会学者が提供すると法実務家がその知識を元に対面との違いについて研究を開始した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)思いのほか早くに,良質な動画データを確保することができたので,データ分析と論文化に素早く進んでいきたい. (2)2023年度は,眼鏡型ビデオカメラ(EP8)および高精細の360度ビデオカメラ(インスタ360x3)の機器を導入し,上述のように大きな成果をえたが,それぞれ最新機種が販売されているので,その導入を図っていきたい.というのも,新しい「インスタ360x4」では,連続録画時間が130分を越えたので(60%UP),これまでは断続的にしか手に入らなかったデータが,連続的に入手できる可能性が生じてきているのである.この特徴を活かした追加の実験会場設定をしていきたい. (3)「視覚障害者と裁判のIT化」という研究テーマに関しては,研究手法は違うものの,弁護士インタビュー等で同様の研究を進めている甲南大学の研究チームとの交流を進めていきたい. (4)2023年度の調査では,民事に関してのシナリオを2例作成し,裁判官からの和解勧告を呑むケースと,判決まで進むケースを2回の調査で各々録画した.2024年5月17日に参議院本会議で,共同親権を可能にする民法改正案が成立したので,それを受けて,家事および刑事でのシナリオも作成し,続けて,同様の「模擬遠隔裁判実験」を行いたい. (5)「裁判のIT化ニュースレター」を続けて発刊するとともに,関連書として,今回の科研費のメンバーが主たる著者となった『法実践の解剖学』(晃洋書房,2023)があるので,この関連書の読書会研究会を組織していきたい. (6)最高裁,法務省,日弁連,土地家屋調査士,社会保険労務士会,司法書士会等の法律関連諸団体のほか,「共同親権」の法制化を強く訴えていた「ステップファミリー・アソシエーション・オブ・ジャパン(SAJ)」等の市民団体にも丁寧にヒアリングをし,実務者や関係者の関心としっかり接続した研究企画を進めていきたい.
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