研究課題/領域番号 |
23K25690
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補助金の研究課題番号 |
23H00993 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09070:教育工学関連
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
打越 正貴 茨城大学, 教育学野, 教授 (10764970)
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研究分担者 |
宮本 浩紀 茨城大学, 全学教職センター, 助教 (00737918)
今泉 友里 茨城大学, 教育学部, 助教 (00821662)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | 思考 / 学習障壁 / つまずき / 評価 / 振り返り / 授業 / 見取り / 可視化 / 学習 / 形成的アセスメント / 効果検証 |
研究開始時の研究の概要 |
学校教育の誕生以来、子どもの学習の評価は主に教師によって行われ、かつその目的は到達目標の達成度合いを測ることに置かれてきた。 近年そのような評価の在り方に少しずつ変化が生まれてきており、子どもが自ら学習状況を評価する「自己評価」や、評価のタイミングを工夫した「診断的評価」や「形成的評価」が用いられていることはよく知られている通りである。 本研究が注目するのは、その両者を組み合わせた「形成的アセスメント」という考え方ないしは評価手法である。その目指すところは、子どもが教師の支援を受けつつ自身の学習状況を適宜評価することで、自らの学習上の障壁(「つまずき」や思考・認知のくせ)を見出す点にある。
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研究実績の概要 |
本研究は、子どもの学習障壁の把握を基盤とした教師と子どもの協働による形成的アセスメントの開発を志向するものである。形成的アセスメントは子どもの主体的な学習参加と学力向上を実現する手立てと目されるが、個々の子どもの学習上の発達・能力特性に即しつつ、学校の評価活動に子ども自身による評価を組み込む取り組みを体系化したモデルはいまだ得られていない。それに鑑み、①認知科学の知見を基にした学習過程・学習障壁の解明、②現場で活用し得る評価手法の開発、③茨城県かすみがうら市内の小・中学校における同評価手法の活用と効果検証、④同評価手法の日米比較調査、以上四つの観点に基づき、子どもの学力向上を図るのが本研究の目的である。 このうち、2023年度は、以下の点に注目した研究を行った。①と③を横断する研究として、打越正貴・宮本浩紀・武藤裕子他「特別支援学級児における言語上の学習障壁の解消―ヴィゴツキー理論に基づくイメージを活用した思考と言葉の接合―」を執筆した。子どもが頭で考えていることを可視化することで、自らがどこに理解の不足を抱えているか明らかになることを目指した。 ②③については、今泉友里・打越正貴・宮本浩紀「視点を設定した授業研究中心の校内研修の成果と課題―教員アンケート結果の経時的変化の分析を通して―」を執筆した。子どもの学習上のつまずきを把握するために、研究協力校が行っている授業研究の視点について取りまとめを行った。 最後に、①と③に関わる点について、打越正貴・宮本浩紀『ことばをひきだす授業論―「色と形」で子どものアタマとココロが見えてくる―』を刊行した。同書では、子どもが自らつまずきを把握・解消する手立てを紹介すると共に、教師として授業のどこをみるべきかについて取りまとめを行った。 以上、2023年度の成果は、子どものつまずきを把握する手立ての整理・構想が図られた点に認められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ、本計画は順調に進捗している。【研究実績の概要】に記した通り、①認知科学の知見を基にした学習過程・学習障壁の解明、②現場で活用し得る評価手法の開発、③茨城県かすみがうら市内全小・中学校における同評価手法の活用と効果検証、④同評価手法の日米比較調査、以上四つの観点に基づき、種々の研究成果を残すことができた。 特に、研究を進めていく過程において、それら①~④の観点が学校教育の目的達成において、密接に関連していることが見出されたことは大きかった。具体的にいうと、従来の研究では、どうしても理論と実践の間に乖離が生じてしまうことが多かった中で、打越正貴・宮本浩紀・武藤裕子他「特別支援学級児における言語上の学習障壁の解消―ヴィゴツキー理論に基づくイメージを活用した思考と言葉の接合―」という論文を執筆することを通じて、学校現場で求められる知見には、すぐに活用可能な手立てのみならず、その手立ての基盤にある理論も含まれることが見出されたのは示唆的であった。研究者として、いつでもどこでも誰にでも通用する手立ての開発を志向するのが当然であるとしても、授業者の立場に立って、目の前の子どもの理解度や表情に応じた手立ての改変の行い易さをも志向することが必要である。 2023年度の研究から得られた以上の示唆は、本研究が目指す子どもの学習上のつまずきの解消にも大きく役立つことが期待される。特に、多数の子どもを対象とした研究成果の創出を図る場合でも、手立てを開発することを第一の研究目的とするのではなく、各学校の状況に応じた手立ての修正を見込んだシステムの開発が求められる。そのような知見を上述の①~④に当てはめながら研究を進めることにより、残る研究期間を通じて、子どもが自らつまずきを把握・解消する仕組みを授業の当事者と共に創り上げていくヴィジョンが得られることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】に記した通り、2023年度の研究を通じて、①認知科学の知見を基にした学習過程・学習障壁の解明、②現場で活用し得る評価手法の開発、③茨城県かすみがうら市内全小・中学校における同評価手法の活用と効果検証、④同評価手法の日米比較調査、という、研究開始当初に立てた四つの観点が密接に関連していることが見出された。今後の研究は、①~④を個別の観点とみなすのではなく、できる限り関連させながら研究デザインの全体を形作っていきたい。 具体的な研究計画としては、三つあげられる。第一に、文字による理解の理論的基盤の把握を目指す。認知科学の知見に基づく言語認知モデルを基盤として、特に、言葉(語)の意味理解及び理解・思考内容の言語化に関するメカニズムの把握(言語認知モデルの開発)を行う。 第二に、学校現場の実態に基づく評価手法の開発を進めるために、授業時における教師と子どもの相互関係の把握のみならず、十全な評価に資するアセスメント・リテラシーの獲得を目指す教師文化を探究する。中でも授業実践と校内研修という二つのサイクルの実態分析に着目することで、評価活動において教師が意図的・無意図的に用いる方略の解明を目指す。 第三に、人種・言語・文化・学力の点で多様性・異質性が認められる茨城県かすみがうら市内小・中学校に協力を仰ぎ、開発した評価手法の効果検証を実施する。具体的には、子どもの学力の経年変化の把握及びそれを加味して新たに作成する質問紙調査の整理考察を行うと共に、日本や米国など他地域の状況と比較することで、人種・宗教・文化圏等の点で変わりゆく日本の学校における学力向上施策に示唆を得ることを企図している。 2023年度に着手を開始したかすみがうら市内の中学校教諭との連携(中学校3年生国語科における要約課題への取り組み)を通じて、子どものつまずき把握をサポートしうる研究を行っていく。
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